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犯人は誰?

 ミリアとエルバートの事情聴取はすぐに終わった。聞くべきことが、助けを求められてからの行動のみなので当たり前と言えば当たり前である。ご協力ありがとうございますの言葉と同時に遅くなる前に帰りなさいと言われたが、ミリアもエルバートもまだ帰る気はなかった。アレンとシェリーがまだ事情聴取中なのだ。


 二人は百貨店の入り口脇で、壁にもたれながらアレンとシェリーの事情聴取が終わるのを待っていた。


「一応言っとく。時間が遅くなったら、警察の人が送っていってくれると思うから、先に帰ってもシェリーがまた危険な目に合う心配はないから」


 そもそも、人目のあるところを通っている限り、すぐに見つかって警察を呼ばれるものだ。今回はうっかり建物と建物の隙間にある狭い道に入ってしまったために生じてしまったが、狙われている自覚があってこういう道に入ることなどないだろう。もっとも、そう言ったところで、エルバートは待つのを止めないだろうが。


「僕が待っているのは、まだ話が途中だからだ」

「そっか、まだ話終わってなかったか」


 やはり、待つのを止める気はないらしい。そもそも、この事件が起こらなければ今頃は少しは頭を冷やした二人が再び話していただろう。


 ミリアは、話の最中に話すことなど無いとばかりに席を立ったシェリーのことを思い出す。半分怒ったような声で、エルバートを睨み付けながら立ち上がっていた。それを思い出して、ミリアはふとあることに気が付いた。これが本当なら、シェリーの態度は納得のいくものになる。


「ところで、エル。浮いたまま追尾してくるあれを見て、こんなに恨みを買っているんだから自粛したほうがいいって言ってたけどさ、実は犯人知ってるんじゃない?」


 それを確かめるため、ミリアは真実であればエルバートが明らかに動揺するような質問を投げかけてみた。果たしてエルバートはそれを聞いて明らかに驚いた顔をする。そうしてそのまま黙り込んでしまって、ミリアは自分の推測が正しかったことを知る。


「たぶん、シェリーも気づいてるよ」

「まさかっ」


 更に追い打ちをかけるようにそう言うと、エルバートは非常に驚き焦った声を出す。どうやら、シェリーは気づいていないと思っていたようだ。まぁ、気が付いていると知っていたらシェリーにあんなことは言わないだろう。


「気づいてたから、あんな風に話をするのを拒否して席を立ったんだと思うけど」

「……」


 エルバートはミリアの言葉を聞いて考え込み、少しの間の後納得したようだった。


「確かに、そうだな。そうか、気づかれていたか……」

「私とアレンに犯人の心当たりがあること、気がつかれないように意識はしていたみたいだけど」


 シェリーからすれば、会ったばかりの相手にそこまで詳しい事情を語る気はなかったということだろう。その気持ちはミリアには分かるが、やはり門の外(オーダルー)で生まれ育っただけの人が普通に持っているものではない。門の外(オーダルー)しか知らない人は、何の疑いもなく路地の様子をミリアに見ることを許可してくれたり、アレンとシェリーを拘束していた人たちの人質を傷つけるという言葉自体が脅しだったりと、とにかく人の好さから甘さを伺うことができる。


 だが、シェリーにはそれが無い。出会ってからずっと思い浮かべていたとある可能性が、ミリアの中で確信に変わる。そもそも、手段を選ばず大金を得たいならその方が効率がいいはずなのだ。


 ただ、間違いなくエルバートには伝えていないだろうと思うので、ミリアはこのことに対しては口を噤んでおくことにした。それを言ったら、現状でさえこうも激しく反対しているエルバートが、シェリーの金策を邪魔するために何を始めるか分からない。


 門の外(オーダルー)のシステム上、確信犯の犯罪を防ぐことは難しい。後でどんな罰が待っていようとも、それが正しくて絶対に行われなければならないと思っている人間に対しては、何の意味も無いものなのだ。自分の信念のために自分を捨てられる人に有効な策は、その信念を折るか、行動を起こさせるような状況を作らないことである。


 そういうわけで、状況を作らないためにもミリアはこの可能性はこっそりシェリーに確かめるだけにしようと心に決めた。エルバートにばらすと、シェリーに自由に行動させないために監禁以上のことをやらかす未来が見えるのだ。


「あいつらしいな」

「ま、あの事情聴取が終わったら追尾機能はがしてあげて。今回のことでも意見を変えないなら、あれをそのままにしておく意味もないでしょ」


 深くため息をついたエルバートに、ミリアはこの後アレンとシェリーの事情聴取が終わった後に行うことを提案する。危険な目に合うから止めろという要求をしていたエルバートだ。実際に危険な目にあったシェリーがそれでも意見を変えないなら、エルバートにシェリーを心変わりさせることは無理ということになる。それなのにあの追尾物体をそのままにしておく理由もないはずだ。


「ああ、分かった。そうしよう」


 エルバートは大人しく頷くと、後は黙り込んでしまう。きっと、シェリーが今回の経験を経て心変わりしてくれることを祈っているのだろう。まずないだろうなと思いつつ、ミリアはその横でアレンとシェリーの事情聴取が終わるのを待つことにした。

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