案外難しいこと
ミリアが路地の入り口に戻ると、アレンとシェリーが警官たちに話を聞かれていた。何をされたかということを聞かれているらしい。後で過去視のスキルを持つ者が真実を検証するとはいえ、今ここにはいない以上当人たちしか情報の出どころはない。
「ミリア・コールドウェルさんですね」
「はい、そうです」
「少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「ええ、そのつもりです」
ミリアにも一人、話を聞くために警官がついた。助けを求められた状況と、窓から見下ろしていて感じたことの二点が知りたいのだろう。ミリアはそれに協力する旨を伝える。
「では、こちらに」
するとその警官は、ミリアを先導して歩き出す。ミリア一人に話を聞くなら移動する必要などないのになぜだろうか。そう思っていたミリアだったが、移動先にエルバートがいるのを見て納得した。助けを求められた時の状況について詳しく知りたいのだろう。
アレンが警察を呼ぶのを頼んだのはミリアで、ミリアはそれを更にエルバートに託したのだ。直接言葉を受け取ったミリアのからもその時の状況を聞きたいと思ったのだろう。
「アレンが助けを求めてきた時の様子、ですか?」
「ええそうです。本人は焦っていたようで、記憶が曖昧のようで」
そんな状況で、ミリアにどのように遠話で連絡をしたのか、またその時の感じたままのその連絡に対する印象を問われる。
「アレンは、かなり焦っているようでした。いつ傷つけられるのか、かなり不安だったと思います。声に焦りが出ていて、とにかく拘束している人たちにばれないことに気を使っていました」
「なるほど、ありがとうございます。ではなぜ、その後自分では呼ばずにエルバート君に任せたのですか?」
ミリアが答えると、更に質問が投げかけられた。この質問への返答は難しい。なぜなら、ミリアもまたこの時間帯焦っていたからだ。それでも、常識的に行わなければならないことをすべて部下に押し付けるという判断ができるあたり、焦って何も考えられなくなるほどではないが。
「なぜ呼ばなければいけないのか分からず、警察で説明を行うのが大変だった」
エルバートの苦情をミリアに言われても、もとより一時ソースであるアレンが大枠の説明しかしていないのだ。結局現場を監督するには苦労する羽目になるだろう。ミリアは今さらながらに、自分がどれだけ難易度の高いお願いをエルバートにしていたのかに気が付いた。




