上からの偵察
アレンから発せられた救援要請が本当に必要としているものだということは、受けた状況で判断してミリアには分かっている。だが、とにかく警察を呼んでその場に来て欲しいというだけでは、状況がさっぱり掴めない。問いただそうにもアレンからの遠話は必要最低事項だけ伝えるとあっさりと切れてしまった。
そうなると、ミリアがアレンの置かれている状況を確認するには、自分の足でその場の状況を確認できるようにするしかない。だが、一人でその場に乗り込むのは、警察を呼んで欲しいというものだった以上避けるべきだ。ミリアとエルバートが一緒に乗り込んだところでどうにもならないとアレンが判断したのなら、それに従った方が間違いない。
ミリアはとりあえず百貨店を出て右の路地の前を通り過ぎながら確認することにした。普通よりも少しゆっくりという程度の歩調で、前を向いたまま横目で路地の中の様子を覗く。がたいのいい男が四人と、その陰に隠れて二つの人影が見える。六人がいる奥行だけはしっかりと確認して、ミリアは路地の前を過ぎ去った。
次にミリアが行ったことは、百貨店と路地を挟んだ隣の建物に入るということである。その建物はフロアごとに飲食店が入っている。ミリアは三階の店を選んで転移盤に乗り店に入る。
グレードの高い高級店に子ども一人で入ってきたミリアを見て、出入り口で客を案内している男性店員は迷い込んだと思ったのだろう。
「どうしたのですか。お嬢さんの年齢では、お一人でお通しすることはできませんが」
丁寧に来る場所を間違えていると伝えられるが、ミリアは食事をしに来たわけではない。
「違うんです。今そこの路地で事件が起こっているみたいで、近付かずに上から確認したいんです」
そう言うと、訝しむような対応だった店員の面持に緊張感が走る。
「どの辺りかは、分かりますか?」
「奥行きは覚えています。方向はあちらです」
すぐに対応を改め、危機に対応しようとする店員にミリアは大まかな方向を伝える。すると、店員はミリアを連れてそちらに向かってくれた。その方向には調理場があり、店員は調理をしている人たちに一声かけてミリアを中に入れる。
正直、簡単に通されてミリアは驚いていた。ミリアだったら、こんなことを言って調理場に入れてもらおうとする人が現れても中に入れたりはしない。報告者を外で待たせて、自分だけで確認に行く。そして、異常事態が確認できたら警察を呼んで任せることにして、報告者を調理場には入れない。
それでも、ミリアが様子を見たいと言ったのは、身分を明かせば子どもであっても通してもらえる可能性が高いからだ。だが、そこまでしなくとも調理場の中に通されてしまった。ミリアから見て門の外のほとんどの人は、警戒心というものが足りな過ぎる。犯罪率が低く、その少ない犯罪の検挙率もほぼ百パーセントであるため、自分の身に起こり得るものとして認識できていないのだろう。
そんなことを考えながら、ミリアは男たちの姿があった場所付近の窓に近寄る。そこには、大きな流し台があった。曇りガラスのためこのままでは外の様子が確認できない。ミリアは流し台に身を乗り出すようにして、なるべく音を立てないようにゆっくりと窓を開ける。
そこから下を見ると、四人の男にアレンとシェリーが捕まえられていることが確認できた。店員もミリアと同じものを見て、事態を理解したようだ。
「警察を呼びますね」
小声でミリアにそう言うと、店員は小走りでその場を去っていった。既にエルバートが呼びに行っているはずだが、より詳しい状況を知っている人が行けば、警察も動きやすくなるだろうと思いミリアは止めない。
ちなみに、反対側の建物は一面壁で窓は存在しない。ミリアは百貨店で買い物をしている最中にこちら側の壁には一切窓が無いことを覚えていたため、飲食店の建物に入ることにしたのだ。
ミリアはその場に残って、真下で繰り広げられている会話に耳を傾けることにした。捕まってはいるものの、今すぐ傷つけられるというような雰囲気は感じなかったためだ。ミリア一人で何かができるわけでもないので、情報を集めることに徹する。
店員の報告により、エルバートが呼んだ警察が動き出していなければ、まずここに様子を見に来ることになるだろう。その時に、どういった理由でこのような状況になっているのか、捕まえた後一向に男たちがそれ以上のことを行う様子が無いのはなぜなのか、この辺りを警察に知らせることができれば、だいぶ動きやすくなるだろうとミリアは考えたのだ。




