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命を懸けない作業

今回もアレン視点です。

 裏路地で話していたアレンとシェリーの自由をあっさりと奪った男たちの中の一人が、もともとの目的であっただろうシェリーに話し始める。そもそも、シェリーを尾行していた人たちだ。アレンも自由を奪われているのは、一緒に居たからという理由だろう。


「さて、お嬢ちゃん。こうすればいい加減協力してくれる気になったかな。ああ、口が自由だからって叫んで助けを求めたりしたらどうなるかは分かるだろう」

「何度説明しても分からないの? 私は、自分の限界を超えてスキルを使って物を直す気はない」

「へえ、こんな状況なのに随分余裕だな」

「私を利用したいのに殺すはずがないもの。多少痛い目を見ても、死ななければ後で治してもらえばいい」


 シェリーの様子は毅然としていて、自由を奪われ羽交い絞めにされているとはこの目で見ていなければ到底信じられないほどだった。それでも、男たちの注意をシェリーが引いてくれている今のうちにとアレンは救援の依頼を出すことにする。


 まだ百貨店内にいるだろうミリアに遠話を繋いで助けを呼んできてもらう。アレンがミリアに繋げている間にも、シェリーと男との会話は続いていた。


「お嬢ちゃんを死なせるわけにはいかないが、こっちの坊やはそういうわけでもないからな。大切なお友達に無事でいて欲しかったら、こっちの要求を聞いた方が身のためだぜ」

「……いや、大切なお友達って言われても、さっき出会ったばかりの人なんだけど」

「は? おい、この嬢ちゃんには同年代の男で仲良くしてるのが一人いるって言ってただろうが」


 いや確かに会ったばかりだけどもう少し大切にしてほしいなあなどと考えつつ、アレンはミリアに遠話を繋げることに成功した。そこからは、会話の維持に集中することになる。


「ミリア、僕とシェリーは今百貨店を出て右の路地裏にいる。なるべく早くそこに警察を呼んで欲しい」


 焦った口調で必要なことだけを簡潔にミリアに伝える。アレンのスキルが遠話だとばれて助けを呼んでいることが分かったら、大声で助けを求めることを真っ先に止めた男たちがどう反応するか分からない。話題がこちらに向いて、アレンは焦っていた。なるべく、助けを外部に求めているということを悟られたくはない。


「じゃあ、話してるのばれるとまずいから切るね」


 完全にアレンに話が振られる前に、アレンはミリアとの遠話を切った。逐一状況を伝えられればいいのだが、二つの会話を同時に行うことは難しい。アレンがミリアにそれだけのことを伝える間にも、シェリーと男達の会話は進んでいた。


「ち、席に残っていた方か。まあいい。嬢ちゃん、それでも自分のせいで人が傷つくのは平気じゃないだろう。ほら、そこのお前何か言ってみろ」

「……助けてくれる気があったら嬉しいけれど、君が命を削ってまでする必要はないよ」


 しっかりと会話の流れを把握して、現状に意識を集中させていないということを悟られないためにはぎりぎりのタイミングだった。会話を繋げている時は、いきなり複雑な計算を出された時に、とっさに対応ができない程度には集中力が必要だ。


「おいおい、心外だな。俺たちはお嬢ちゃんに命を削れなんて一言も言ってない。ま、知らないんだから仕方がないんだけどよ」


 その男の言葉はアレンには大きな謎であった。シェリーは限界を超えてスキルを使う気はないと言っていた。つまり、この男たちはシェリーにそれを要求しているということだ。通常、限界を超えてリミッターが発動してからもスキルを使えば、寿命を支える分の生気(エルグ)を消費することになる。だが、男たちはそうではないと言っている。これはいったいどういうことなのだろうか。


「その方法でも、私は嫌だって言った。必要な物だって返したでしょ。なんでそれで終わりにしてくれないの」


 もっと詳しい説明が欲しいが、それを求められる雰囲気ではない。無事に切り抜けられたらシェリーに聞いてみようとアレンは決める。ミリアに助けを呼ぶことを頼んだため、アレンはだいぶ気が楽になっていた。後は、救援が到着するまでに時間を稼ぐだけなのだ。シェリーはもちろん、人質として価値が認められているうちは、アレンも殺されることはないだろう。

 アレンがこれからするべきことは、男たちが二人に危害を加える気にならないように、会話を続けることである。

不意に与えられた計算に対応できない事情に関しては、32話「不可思議な誘い」参照です。

そして、ミリアとの合流まではアレン視点が続きます。

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