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求められる人

今回、アレン視点です。

 席を立って去っていったシェリーをアレンは慌てて追いかけた。出入り口に通じる転移盤にシェリーが乗って転移して行ったのを確認し、アレンもそれに続く。そして、百貨店を出たところでシェリーに追いついた。


「シェリー、待って」

「で、なんでついてきてるの?」

「いや今のシェリー放っておけないし。それに、誰もついてこなかったらたぶんエルが追いかけてくるよ。それは嫌でしょ」


 明らかに不機嫌そうだったが、エルバートが追いかけてくる可能性を出したところ、一応は納得してくれたようだ。


「確かにそうなるか。でも、なんでアレンの方が着いてきたの?」


 普通こういう時は同性の方が着いてくるものだろうと暗に言っている。そう言われれば確かにその通りなのだが、アレンが飛び出して行ってしまったためミリアは残る方を選んでくれたのだろう。それに、もう一つアレンがシェリーを追いかける理由はある。


「僕は、ミリアとエルとはいつでも遠話で話せるから。何かあったら連絡が取れる僕が追いかける方が合理的だと思うな」

「……ほんと、便利よね。遠話」


 シェリーの修復スキルの方が壊れた物をなんでも元に戻せて便利だとアレンは思うのだが、シェリーを見る限り遠話スキルを本当に羨ましがっているようだ。


「うん、便利だよ。だから、シェリーも僕が遠話で話しかける許可くれると嬉しいな」

「あなた達との繋がりは色々と役立ちそうだから許可はするけど、どうでもいいことを何度も話しかけてきたらすぐに許可取り消すからね」

「うん、分かった。ありがとう」


 許可を得たことでアレンの脳内にあるリストにシェリーが加わる。これで、また急にどこかに逃げ出しても連絡を取る術は得られた。これで、うっかり下手なことを聞いてまた逃げ出されても大丈夫だ。その保証ができたため、アレンはシェリーに先ほどのことについて尋ねることにする。


「それで、どうしてエルとそんなに一緒に居たくないの?」


 この質問は、なぜあの場から立ち去ったのかというものと同義だ。シェリーはそれを問われてすごく困っているようだ。ほんの少し固まった後、こう提案を返してきた。


「ちゃんと答えるしもう逃げないから、ちょっと脇にそれよう」


 確かに今アレンとシェリーがいる場所は百貨店の入り口の目の前だ。夜も深まり始めているとはいえ、まだ出入りする人は多い。さらに、シェリーの後ろで罵詈雑言が書かれたまま浮いている物体のこともある。答えを探す時間が欲しいんだろうなあとアレンは思いつつ、確かに移動したほうがいいことも事実だった。


「そうだね、脇道に避けようか」


 なので、アレンはこう提案した。それが、その後の危険な事態を引き起こす決定的な原因になるとも思わずに。



 移動が終わると整理がついたのか、シェリーは先ほどアレンがした質問に答える。

「だって、あんな口うるさいのと一緒に居ても時間の無駄でしょ。これまでだってずっと平行線だったし、このふわふわついてきてるものをどうにかしてくれるんじゃないなら、話す必要性が無い」

「エルはそう思ってないみたいだけど」

「あんなの、一方的なだけ。私はなんとも思ってない」


 歩いて移動した少しの時間の間に、シェリーの動揺しかけていた心はすっかり落ち着いたらしい。アレンは強がりだなぁと思いつつ、それならと別の質問をぶつけてみることにした。

 こういう強がりで意地っ張りな人間は、それを一度崩さないと本音を話してくれないのだ。


「じゃあ、シェリーはどうして、エルが止めろって言っている手段を使ってでもお金を儲けたいの?」

 アレンはエルバートの性格を知っている。彼が止めろと言うなら、相応の理由は必ずあるはずだ。そこに反対してまで稼ぎたいというのなら、それなりの理由があるのだろう。


「取り戻したい物があるから」

「大切な物?」

「当たり前でしょ!」


 大切でなければそもそも取り戻そうとはしない。分かっていて、アレンは少し怒らせた。今はとにかく感情を揺さぶって吐き出させるだけ吐き出させてあげた方がいい。そう判断したからだ。それにこの後、アレンはシェリーに対して爆弾発言を投下する予定だ。先に少しだけでも、怒りを発散しておいてもらいたかった。


「それ、ひょっとしてさ、シェリーが生気(エルグ)切れ起こさなかったら、失わずに済んだ?」

「なん、で……?」

「分かるよ。個人の責任っていう言葉を、分別のついていない子どもにまで押し付けている分野だから」


 シェリーは明確な答えを返さなかったが、反応を見れば図星だということは明らかだった。やっぱり、とアレンは思う。こういうことが起こり得るから、ユニックに入学して自分のスキルとの付き合い方を徹底的に学ばされるまでは、政府が援助した方がいいとアレンは考えていた。その実例が目の前にいて、やっぱり改正が必須だと改めて思う。もっとも、目の前の事例にはもう対処は間に合わないのだけれども。


「だったらなんで、助けてくれなかったの!」

「それはやっぱり、個人の責任だからかなぁ。強制されたなら、強制した相手が悪い。でも、頼まれてそれを受け入れるのは自分の意思だからね。自分の意思でリミッターが作動してもなおスキルを使うことを止めることはできない。それをしたら、民衆から自由を奪うことになる」


 予想通りシェリーの感情は爆発した。だが、これは当然だとアレンは思う。そういう事態が起こり得ると判断ができるならなぜ未然に防いでくれなかったのか。統治する側に不満を感じないはずがない。

 だが、防がなかったのには防いでいなかったなりの理由がある。政治は正解が見えない問題の連続で、そしてこの問題はまさにその典型例だった。


「昔の私がばかだったことなんて知ってるよ……」

 簡単に対応できることではないと言われたためか、シェリーは大人しく引き下がる。だが、根底に自分が間違っていたという認識があるからこそすぐに引いたのだ。


「ちなみに、何歳の時?」

「六歳前で余命八ヶ月だった」

「うわ酷い」


 アレンの想像以上だった。過去の例では物心ついてから一気に生気(エルグ)を消費して、誕生日付近に行われる定期健診でそれが発見させることが普通である。最長でも一年であるため、そこまで急激に減らすことは滅多にない。利便性が高すぎる故の悲劇だった。


「当時分別のついていない私に少しぐらいって頼みごとをしてきた人は、自分がしたことと向き合いたくなかったのか全員引っ越していった。エルの親も含めてね。それなのに、7歳になってユニックで再会してから、延々付きまとわれてほとほと迷惑してるのよこっちは」


 エルバートの所持スキルの付与はがしも、分かりづらいが実は需要が高い。何かが付与されている物が必要亡くなった時のことを考えてみれば分かる。例えば、今も周りで輝いている街灯だが、これに使われている発光を付与された物体が必要無くなった時、そのまま廃棄したらその周辺が夜でも明るい空間になってしまう。光なら何かで覆えば対処も可能だが、温度を維持するものだとそうもいかない。延々熱を発し続ける物体は邪魔でしかない。そんな時に、付与はがしは活躍する。


 ゆえに、ユニックに入学することは二人とも確定事項だった。それでも、毎年結構な人数が入学するため、特定の一人を探すことは大変な作業だっただろう。


「一人ぐらい、そのままで変わらず接してくれて嬉しくはなかったの?」

「……いや、どう接したらいいかこっちが困るから」


 アレンはシェリーが当時感じただろう感情の予測を口にする。するとシェリーはしばらくどう言おうか言葉を探しているようで、そしてようやく出てきた返事は結構冷たいものだった。どうも、頭をフル回転させて作り出した答えのようだ。


 なかなか怒り以外の本音を見せてくれないなあとアレンは思う。だが、急ぐ必要をアレンは感じていなかったので、次の質問に移ることにした。


「言いにくかったなら言わなくていいけど、どうやって助かったの?」


 余命八ヶ月を宣告されても、今生きている。それならば、誰かが助けたはずだ。アレンの予想では、ある程度の生気(エルグ)を肉親が提供して、それが尽きそうになっているため今必死にシェリーは稼いでいるというものだった。

 だが、その予想はシェリーの返答によって否定される。


「当時九歳だったお兄ちゃんが、十歳になると同時に行方不明。後に代金は既に受け取っていると生気(エルグ)を移せるスキルを持った人がうちを訪ねてきた。後は、なんとなくわかるでしょ」


 アレンはミリアが言っていたことを思い出す。門番は、十歳を過ぎていれば門の中(ヘイブンクラウド)門の外(オーダルー)を隔てる門を通してくれる。分別がつく年齢になったと判断されるのがその年からだ。その年齢に達してすぐに行動したということは、十歳になる前から既に計画していたのだろう。

 大金が届いて行方不明ということは、まず間違いなく門の中(ヘイブンクラウド)へと身売りを行っている。自分の生気(エルグ)をシェリーに移したわけではないだろう。それだったら、移す時に本人を目の前にする必要があるからだ。その年齢でそんな決断をできるとは、とアレンは感嘆した。


「お兄さん、すごいね」


 讃えるつもりで言ったのだが、シェリーはお気に召さなかったらしい。


「すごくなんてないよ。いや、確かにすごいのかもしれないけど、それで助けられる方の気持ちなんて全然考えてない」


 アレンは先ほどシェリーが遠話スキルを羨ましがっていたことを思い出す。生き別れた兄がいるなら、遠話スキルが羨ましくもなるだろう。自分から探し出して話しかけることができるのだから。


「だから、絶対に見つけ出して、お兄ちゃんの持ち主に買い取らせてくださいって頼みこむの」

 そのためにとにかくお金が必要なのだとシェリーは言った。とにかく稼ぎたいという理由は分かった。探すためと買い戻すため。それらに費用がかかることは分かる。だがそれでも、アレンはシェリーが今稼いでいる方法は勧められないと確信する。利用している人は満足していても、利用できない人の恨み辛みが育ちやすすぎる。


 そして、その証拠となるような出来事がアレンに降りかかった。急に路地に屈強な男が二人入ってきて、アレンとミリアを捕まえようとしてきたのだ。驚いて路地の奥に逃げようとしたが、そちらからも二人現れる。どうやら、アレンとミリアが路地に入ってから、回り込んでいたようだ。


 そんなことを考えている間にも、アレンとシェリーは別々の男に捕えられる。シェリーをもともと尾行していた者たちだろう。首に腕を回されがっちりと捕まえられながら、アレンは分かっていたにも関わらず人目が少ない場所を選んだことを後悔していた。

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