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呑めない条件

 シェリーとエルバートは互いの関係性の主張の違いをきっかけに、再び言い合いをはじめていた。


「またそうやって真実を歪曲するなんて、シェリー、君は何を考えているんだ」

「同級生なのは事実でしょ」

「だからといって、彼らに対する説明がそれで十分なわけはないだろう」


 止めるのに勇気が必要だが、止めなければ話が聞けない。ミリアは正面で言い合いを繰り広げる二人に向かって声をかけた。


「それで、二人がどういう関係かは分かったけれど、エルがシェリーに出している条件はなんなの?」


 他にも色々と言い合いの中で気になった点はあったが、目下のところ一番一番知りたいのがこの情報だ。人助けならほいほいと行いそうなエルバートがシェリーに提示した条件というものが何なのか、ミリアは純粋に気になる。身を危険に曝すという辺り、少なくともエルバートにとっては止めることに理があるものなのだろうが。


「シェリーは登録を行わずに修復を請け負っている。一番高い金額を提示している人から優先して修復を行うという方法で、だ」

「ちょっとエルバート! なんでバラしてるのよ!」

「言えないようなことではないと、普段散々言っているではないか」

「そうだけども!」


 エルバートはシェリーが行っていることを説明してくれた。それに対してシェリーが猛抗議を行っている。確かに、支配者一族にばれて停止命令を出されたら従わざるを得ない。通常と違うことを行っている場合、止められることを考えたら隠すという判断も選択肢に入ってくる。


「政府に登録するのは別に義務じゃないしそれ自体はいいんじゃない?」

「だが、急ぐ人からその分の特急料金を取るというのは」

「別にいいでしょ。他の人を追い越すという対価を得ているんだから」


 早さには価値がある。特に、修復のスキルで物を直す場合、緊急性が高いものも存在する。しかし、政府に登録している修復スキル持ちに頼んでも、順番待ちで平気で何年も待たされることになる。よほど思い入れのあるものでない限り、修繕したり買い直したりする方が費用も時間も節約できる。


 人の手では修復できず、買い直すこともできない。そういった物は、人の気持ちが籠った愛用品に多い。そのため、待てる人が大部分でこのシステムでも上手く回っていた。

 しかし、製造ラインの一部の部品が壊れてしまって、その部品の修理も買い替えもすぐにはできないという場合、この方式では間に合わない。よって、そういった人たちからの修復スキル所持者の順番待ちを飛び越せる制度が欲しいという要望が常に出ていた。


 もっとも、政府としても必要なさそうな修復依頼ははじくなどして、迅速化には勤めているのだが、それでも希望者が後を絶たないのが現状である。むしろ、少しずつだが待つ期間は長くなっている。


 それなのに、最近順番に関する問い合わせが最近少なくなってきたと思っていたが、どうやらシェリーの始めた商売のおかげでそう言った需要が吸い上げられていたようだとミリアは推測する。


「別に、それぐらいやってもいいと思うけど」

「だが、こんな痛がらせを受けるのだぞ」

「気持ちの面では確かに嫌だろうけど、シェリーはこの悪口で精神的に参っちゃう?」

「そんなはずないでしょ。実害ゼロだもの」


 今日見ている限りでは、そこまで傷つきやすいタイプには見えないので、ミリアは続けてもいいのではという判断を口にした。だが、エルバートはこの判断に不服らしい。


「後少しだったのに他の人に抜かされたということが何度もあれば、恨みを買うのも当たり前だ。これぐらいですんでいるならかわいいものだが、もっとひどい目にあうことは十分考えられる。人生を捨てる覚悟があれば、門の外(オーダルー)でもなんだってできる。だから、十分気をつけろと学校であれだけ習っているだろう」


 他人と比べて使用頻度が高いスキルを持って生まれた場合、それだけで羨望の対象となる。ユニックはそう言ったスキルを持った人を守り、同時に自衛できるだけの知識を与え、身に着けさせるのが一番の目的の学校だ。


 だが、その知識を身に着けた上で、破りに行く人はどう扱ったらいいのだろうか。エルバートが止めたい理由も分からないではないので、ミリアは何も言葉にすることができない。


「だからって、じっとしてろっていうの? 座して待つなんてできるわけない。お兄ちゃんを取り戻すにはお金がいるの!」

「稼ぐにしたって、こんな風に人の恨みを買うやり方以外にも色々方法はある」

「でもこの方法が一番手っ取り早いの。リスクは承知の上なんだから!」


 どう口を挟もうかミリアが迷っている間に、どんどんシェリーとエルバートの間の空気が悪くなっていく。そして、シェリーはとうとう叫んで、自分が食べた分の代金を机に置くとレストランから立ち去ってしまった。

 その後ろをふわふわと追尾機能付きの浮遊物体がついて行く。文字が見えないようにぐるぐる巻きにしていないため、書かれている悪口がそのまま読める。どうも、自分の後ろを追尾してくる物体を気にしている余裕さえ無いようだった。


「僕、追いかけるね」

 言うが早いかアレンはシェリーの後を追う。ミリアもエルバートもアレンに遠話の許可を与えている。何かあれば、すぐに連絡が来るだろう。


「僕も」

 そう言って立ち上がりかけたエルバートをミリアは止める。


「今追いかけても、また喧嘩になるだけでしょ。いったん離れてちょっと頭冷やした方がいい」

 そう言うと、エルバートは素直に席に座りなおした。人口が半分になった机で、ミリアはこれからどうしようかと悩む。とりあえず、エルバートを落ち着かせつつ、仲裁に役立ちそうな情報を引き出すことにした。

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