表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/100

手を差し伸べる

 出会ったばかりの人が明らかに困っているのに、関係ないからとっとと立ち去れと言い捨てられて、そのまま言われた通り立ち去る人の割合はどれくらいだろうか。ミリアが育った門の中(ヘイブンクラウド)では間違いなくゼロだし、ここ門の外(オーダルー)でも今シェリーが見せたような態度では、じゃあもういいやと投げ出す人がほとんどだろう。


「じゃあさよなら。勘違いしてごめんなさいね」

「え、なんでもう帰ろうとしてるの?」

「え? なんでって」


 だから、シェリーは自分が立ち去ろうとして止められるとは思っていなかったはずだ。アレンの思わぬ反応に返事に困ってしまっている。


「ユニックに通うことを義務付けられているスキル持ちが、正体不明の人物に尾行されてるって、そんな情報知って放っておけると思う?」


 アレンのその言葉で、シェリーは自分の湿原に気が付いたようだ。義務とまでは言う必要がない。つい出てしまった言葉なのだということは聞いているだけのミリアにだって分かる。


「……放っておけばいいじゃない。あなた達にはなんの関係もないでしょ」


 それでも憮然とした表情でもう関わるなとシェリーは言う。そんなシェリーに対してアレンは、

「そんなことはないよ、シェリー・レミントン」

「え?」


 フルネームで呼ばれてシェリーは驚いていたが、ミリアも声にこそ出さなかったものの同様に驚いていた。シェリーは名字を名乗ってはいない。知る機会などなかったと思うのだが、いったいなぜアレンは知っているのか。


「ユニックに通うことが義務になってる人が安全に過ごせていないかもしれないっていう可能性は、僕たちにとって見過ごせるものじゃない」


 アレンは二人が驚いていることを気にした様子もなく言葉を続ける。そして、ミリアが止める間もなく、目元にかけていた幻惑を解いた。人に青と認識させていた機構が消え、アレンの目の本来の色である黒があらわになる。


「ちょ、なんで変装解いてるのよアレン!」

「だって、これが一番手っ取り早いよ?」

「だからって下手に正体曝したら面倒なことが」

「尾行犯に間違えられる時点で十分面倒な事態だし今さら今さら」


 確かに、既に十分面倒な事態である。だが、正体を明かさなくても他の解決方法は消えていないというのに、手っ取り早いからという理由だけで変装を解除するのはどうなのだろうか。


 案の定シェリーは突然現れた支配者一族の一員にものすごく驚くことになった。

「え? あ、え? ……あ、なるほど」


 シェリーは最初の混乱を乗り切ると、アレンがシェリーのフルネームを知っていたことに納得はしたらしい。確かに義務で通っていて無事卒業した人はミリアも記憶しているが、通っている段階の人間までは暗記していないので、シェリーを知っていたのはアレンの個人的な判断ゆえである。もちろん、情報自体はミリアでも見ることは可能だ。


「そりゃ放っておいてもらえないか……。ミリアもアレンと同じなの?」

「一応ね」


 ミリアも一瞬だけ青い目に装っていた目の色を偽るのを止める。シェリーが黒色を確認したところで、再び人には青い目に見えるように戻した。アレンも同様に目が青に見えるように戻す。


「じゃあ、この浮遊物体について、どういう経緯でシェリーについて回るようになったのか、教えてくれる?」

「そう言われても、今朝急に現れてそれから延々付きまとわれていただけだから……。垂れ幕部分ぐるぐる巻きにしておけば、誰かに記入されている悪口を見られる心配もないし。別に、実害はないのよね。視界に入る度にイライラすることにはなるけれど」

「でも、なんとかしようとしてここに来たんでしょ?」

「そりゃ邪魔だもの」


 来る時にアレンがしてくれた説明では、この百貨店にはスキル斡旋所があるらしい。シェリーが浮遊追尾物体を無力化する手段を探して、百貨店に足を運んだということは納得できる。その結果はあまり芳しくなかったようだが。


「じゃあ、とりあえずそれ無力化しようか。付加されてる能力全部引っぺがすのと、その物体回収不能なまでに壊すのどっちがいい?」


 話を聞いていて、後者は明らかにウォルトのことを言い表しているとミリアには分かった。アレンは伝手でどうにかしてしまう気のようだ。だが、アレンが挙げた前者はいったい誰なのだろう。


「壊したら証拠にできないから、全部無力化するのがいいけれど、……頼んでいいの?」

「証拠?」

「慰謝料どれくらいとれるかなー」


 こんな罵詈雑言で落ち込んでいるのかと思いきや、結構シェリーは強かなようだ。ミリアは呆れつつ、現在その付与されている物から付与されている能力を取り除くスキルを持っている人に連絡を取っているのだろうアレンの代わりに会話を続ける。


「あまりへこんでないのね」

「これぐらいでへこんでたらやってけないよ。軽い恨みにはもう慣れてる。だいたいは学校が肩代わりしてくれるしね」

 

 スキルを使って欲しいと頼まれた時、どのように断るかということは有用なスキルを持っている人にはかなり大変な問題らしい。学校が駄目と言っているからという理由は、悪者を学校に押し付けられるため、かなり便利な断り文句になっている。


「来てくれるってさ。とりあえず、追尾機能の問題に関しては、これで何とかなるね」

「……ありがとう」


 付与能力の除去スキル持ちの人との打ち合わせが終わったのだろう。アレンが話の中に入ってきた。付与された能力をその物から消し去るという人は、事情を話したらすぐに来てくれるようなお人よしらしい。


 一体どんな人なのだろう。到着までの数分間、ミリアは色々と想像を行う。その人が到着した瞬間驚きに包まれることになるなど、ミリアはこの時点で予想していなかった。

波乱は明日へ持ち越しです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ