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理由は必ず存在する

 百貨店の中の、人通りの少ない場所。ミリアとアレンはそこで、尾行を行っていたと間違えられていた。いや、確かに少しの間はその少女の歩いているのとまったく同じ経路を歩いていた。だが、それはミリアが少女の後ろに浮いている追尾能力持ちの浮遊物が気になったからというのがきっかけであり、さらに少女を追いかけている人が他にもいるという異変に気が付いたためである。


 とはいっても、数分の間少女の行く後を追いかけていたのは事実のわけで、どう釈明したらいいかとミリアは悩む。少女が尾行者がいることに気が付いていると分かったためだろう。先ほどまで感じていた他の尾行者の気配は影も形もなく消えていた。


「それで、どんな理由なの?」


 少女は後ろで束ねた明るい黄色の髪を揺らしながらミリアとアレンに尋ねる。きつく睨み付けてくる赤みの強い桃色の瞳は、いかにも気が強そうだ。どういった説明をすれば、ミリア達が起こした行動を寸分違わず理解してもらえるだろうか。


「君の後ろで飛んでる物が気になって。浮遊と追尾が付与されてるよね」


 アレンが答えたのを聞いて、ミリアはそうだけどそうじゃないと思う。確かにきっかけはそれだが、今の問題点は目の前の少女がミリア達が見つける前から尾行を受けていたこと、そして少女がそれを知っていて犯人をミリア達だと勘違いしていることだ。本当のことを話したところで信じてもらえる気がしない。


「これ、気になるの?」

「うん、どんな仕組みで人を認識しているのかとか、誰に頼めば同じ物を作れるのかとか」


 が、その返答に対して、目の前の少女は毒気を抜かれてしまったようだ。警戒心は抜けきっていないが、起こる気力は失ってしまったようである。


「逃げる気がないなら、その辺りのレストラン入って話聞くけれど」


 ミリアとしても、落ち着いて話せる場所の方が嬉しい。そして、なによりアレンが先に、

「じゃあ、それで」

 と話していたため、反対を述べる隙も無かった。




 適当なレストランに入って、四人掛けの席に着く。アレンとミリアが隣、ミリアの向かいに少女が座る。少女はレストランまでの移動の最中に、名前をシェリーと名乗っていた。アレンとミリアもそれぞれ、自分の名前をシェリーに伝えている。


「で、あなたたち二人は本当にこれについて何も知らないの?」


 席に座るなりシェリーが後ろにふわふわと浮きながらついて回っている物を振り返らずに指さす。近くで見ると、それは白い布がぐるぐる巻きにされたものだと分かった。それが、シェリーの背中付近でふわふわと浮いている。今はシェリーが座って動いていないためその物体も止まっているが、シェリーが歩き出したら再びついて動くだろう。


「うん、知らない」

「気になって追いかける程知らない」


 アレンとミリアがそれぞれ答えると、シェリーは大きくため息をついた。


「これの犯人が、私と同じくらいの年なわけないもんなあ……」

 これとは、シェリーの後ろに浮いている布を巻いたものだろうか。明らかにがっかりした様子で、ミリアは少し申し訳なくなる。


「それは、いったいなんなの?」

「気になるなら、巻き付けてる布はがしていいよ。私がやろうとしても、常に背中に移動されるから無理なんだよね」


 その口ぶりからしても、ミリアが最初に想像した、何か面白そうな物とはかけ離れているようだ。アレンが立ち上がってその物体に手をかける。そのまま、巻き付けられている布をはがしていくと、その布には言葉が書かれていることが分かった。そして、もともと布は垂れ幕だったようで、文字が読めないように丸められていたのだと分かる。なぜならそこには、酷い誹謗中傷の言葉が並べられていたからだ。


「うわぁ、酷い」

「ドケチ娘、か」


 アレンが読み上げたのは、一番大きく真ん中に赤字で書かれている言葉だ。ミリアが見て酷いと思ったのは、その周辺に事細かに黒字で書かれている罵詈雑言の嵐である。よくもまぁ言葉が尽きないものだと思うくらい、びっしり悪口で敷き詰められていた。


「ちなみに、こういうこと言われる心当たりはあるの?」

「……山ほど」

「それはまたなんで」

「……」


 あまりにも酷いので心当たりを聞いてみたところ、山ほどという想定外の返事が返ってきた。実はこういうことがあってという返事を期待していたミリアの思考は裏切られる。だがよく考えてみれば心当たりが覚えていられる数ならば、ミリア達を犯人だと間違える必然性が無い。心当たりが山ほどあって覚えていられないからこそ、ミリアとアレンを犯人と間違えもしたのだろう。


 ならばなぜ心当たりが山ほどあるのかと尋ねると、シェリーは口を閉ざしてしまう。確かに、言う義務は無い。だが、ミリアはここで終わりにして帰る気にはなれなかった。この年代の少女が門の外(オーダルー)で尾行を受けているなんて、はっきり言って異常事態だ。


「で、二人ともこれがそんないいものじゃないって分かったでしょ。食べたら帰って、忘れなさい。これは、ユニックに通うことを義務付けられる人じゃなければ、分からない問題だから」


 シェリーは分からないことだからこれ以上首を突っ込むなと言いたかったらしい。だが、ユニックに通うことを義務付けられるレベルだと聞いて、ミリアはますます放っておくわけにはいかなくなった。


 ユニックは社会的に価値があると明らかに認められるスキルを有する人に対し、適切なスキルの利用方法を学ぶために建てられた学校である。スキル一つで一生生きていけるようなそんな人たちを相手に、本人が持っているスキルのつかい方やそれを使って生きるための具体的手段などを教えるための特別の学校で、一人一人に対してカリキュラムが異なる。


 当然、入学の基準は厳しい。だが、そのユニックに希望ではなく強制的に入学させられる場合も存在する。それらは、有用だが使い方を間違えれば人を傷つけるものだったり、とにかく放っておくと生気(エルグ)切れを起こしてすぐに死んでしまう可能性が高かったりといったスキルを持っている人が対象だ。


 こういう場合、ユニックへの入学は強制となり、徹底的にスキルとの向き合い方を叩き込まれる。前者ではなるべく早く人を傷つけてしまう危険を取り払うため、後者は社会的に有用なスキル所持者を早死にさせるのは大きな損失となるためだ。


 黄色の髪であることから、シェリーが何かを破壊する系統のスキルでないことは確定である。つまり、シェリーのスキルは生気(エルグ)切れを起こしやすいが早死にさせてしまうにはもったいないスキルだということだ。支配者一族として、そんな存在が尾行されていることなど、見過ごせるわけがなかった。


 アレンもミリアと同様の思考経路を辿ったようである。


「説得は任せて」


 そう、わざわざ遠話を使ってミリアにだけこっそり言ってきた辺り自信はあるのだろう。ミリアは、アレンがシェリーからどうやって話を引き出すつもりなのか、何かあったらすぐ口出しする心構えをしながら見守ることにした。

ランディックでは、所持スキルの差によって生まれながらに命の重みが異なります。

もっとも大抵の人は少し便利、か使う機会がほぼ来ない、というレベルのスキルですが。

レティは市街地で生まれ育っていたら、入学が認められるレベルです。

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