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ウォルトの誕生日

 初夏の日差しは時にまだ春の穏やかなそれに慣れていた体には、時に眩しく感じるほど力強い。しかし、その日の天候は程よく雲が散らばっており、強い日差しも雲に遮られほどよい天候になっている。


 そんな眠くなりそうな天候の中、ミリアはレティと共にいつものように図書室で休憩していた。そして、当然のごとくいつものようにアレンとウォルトが図書室に現れる。が、その順番がいつもとは違った。


 普段は自分から真っ先にやってくるアレンではなく、後から来るウォルトが先に図書室に転移してきたのだ。ウォルトは転移盤の側で、アレンが転移してくるのを待っている。そしてアレンが続いて転移してきて二人そろうと、アレンがウォルトを押し出すようにしつつ、こちらにやってくる。


 いったいなんのつもりだろうかとミリアは普段ではありえない光景に少し警戒を始めた。アレンとウォルトの二人が側にいることにはもうすっかり慣れていたはずのレティも、出会ったばかりの頃のような緊張感を復活させている。


 ミリアとレティが座る机の向かいに着くと、アレンはウォルトの背中から手を離した。


「ミリア、レティ」

「うん、何?」

「は、はい」


 そして、ミリアとレティ、二人共の名前を呼ぶ。いつも散々ミリアにメインに話しかけているため、レティは自分の名前も呼ばれたことにかなり驚いたようだった。そして、ますます警戒感を募らせている。読んでいた本をページ数の確認もせずに手から離したあたり、本気の警戒モードに入ってしまっていた。


 そんなレティの様子をアレンは気にした様子もなく、言いたかっただろうことをそのまま続けて言い切った。


「今日はウォルトの誕生日なんだ」


 そして、その言葉の後、しばらく沈黙がその場を支配した。警戒モードに入っていたレティが何も言わないのは当然のこととして、情報を公表された当事者のウォルトもどう反応したらいいのか分からずに困惑している。


 アレンの答えにくい話題には、普段はウォルトも色々と突っ込みを入れてくれるのだが、流石に自分自身の情報に関することでは期待できないだろう。仕方がないのでミリアは自分で突っ込みを入れることにした。


「いや、それだけ急に言われても」


 そう言うと、ミリアの横でレティが大きく頷いていた。警戒モードは、アレンがいつもと変わらず突拍子もなかったこと、普段と異なる行動の原因が判明したことで解けたようだ。


「ほら、お祝いの言葉とか」

 なら最初から祝ってあげてなどと言った言葉をつけて話せばいいというのに説明が足りない。


「十二歳おめでとう。一年と少しでも相手してるの大変なのに、その十倍以上とか素直に尊敬する」

「……ありがとな」


 それでも、わざわざ祝わない理由はないので、一つ歳をとったことへのお祝いの言葉を投げかける。いたわりを含んだその言葉は、感謝の言葉で受け入れられた。


「なんでミリアは僕の時だけはちゃんと祝ってくれないのかなぁ」

「自分に聞いてみたら」

 こういう茶々を入れてくる人間が常時一緒に居なければいいのにと思うが、そうでなければこうして話していることもないだろう。そんなことを考えていると、多人数で話している時は基本無口なレティが、突然口を開いた。


「ウォルター・プロトガルド」

「なんだ、コレット・コールドウェル?」

「その……、おめでとう」

「お、おう」


 ウォルトは名前を呼ばれたことにまず驚き、さらに祝われるということはまったくの予想だったのか、非常に驚愕した反応を示した。ミリアからすれば、レティは誕生日を知っていて祝わないということをしない人なのだが、ウォルトはその対象に自分が入っているとは思っていなかったのだろう。ちなみに、ウォルトはレティの誕生日を知っているが、その日に祝ってはいない。


 そんな二人の様子をアレンは非常に楽しそうな顔で眺めている。

「……なんだよアレン」

「え、何も面白いなーとか思ってないけど」

「いやその顔は思ってるだろ絶対!」


 それに気がついたウォルトが抗議の声を上げるが、アレンはにこやかな顔のまま考えていることを認めない。


 ミリアはウォルトを少し気の毒だとは思ったが、ウォルトには十二年という長い年季がある。まだ一年目の若輩者であるミリアは、アレンの相手の熟練者であるウォルトに遠慮なくその役目を譲ることにした。

5月はウォルトの誕生日。

以上、ミリア以外の3人の誕生日の様子でした。

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