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望むままにいかないこと

今回、アレン視点です。

 お祭りの人混みをかき分けてアレンが帰宅すると、ランディックの住人が信望している女神であるフィオナが出迎えてくれた。純白の髪を腰まで伸ばした、見た目は十代後半の愛らしい少女である。そんな少女がにこやかに微笑んで、アレンに対して言葉をかける。


「おかえり、アレン。」

「ただいま。ずっと玄関で待っててくれたの?」

「ううん、今アレンが帰ってくるなーって思って移動したところ」


 民衆が威厳ある女神だと思っている彼女だが、実際はこんなに気安い。純白の髪は珍しいものの、アレンにとっては生まれた時から見慣れているのだ。有り難みというものの感覚が、他の人とはずれている。


 ただそれでも、人の波に巻き込まれていつ帰れるのかという予測を立てるのは不可能なのに、あっさりと当ててアレンを迎えに出る彼女は、やはり普通の人とは一線を画している。


 もっとも、それもまたアレンには当たり前になってしまっていて、世間で言われているほどの威厳を感じられていない。


「そっか。お疲れ様、フィオナ」

「緊張したよー」

「よかったね、台詞間違えなくて」


 労って欲しそうにしていたのでお疲れ様と言うと、フィオナは嬉しそうにした。出かける前に、酷く緊張していたのをアレンは知っているので、少しからかうように言葉を告げる。


「うん、皆が抱いてる理想の女神像を崩しちゃダメだもんね」


 全てを知っている白き女神様。彼女が信心を集め、その彼女が政治を任せているから、今の体制が成り立っているのだ。女神様に民が幻滅すれば、何が起こるか分からない。もっとも、多少の失敗程度なら、民は笑って許してくれるだろうが。


 それでも、年越し祭りでの民への言葉は、フィオナにとって一番の負担になっていることはアレンも知っている。なので、少し別の話題に帰ることにした。


「そういえば、ミリアは見れた?」

「うん、ばっちり。想像通りだった」


 あの距離でばっちり見えているというのは普通有り得ないが、アレンはフィオナだからで済ませてしまう。本当に、知るということに関してフィオナは凄い。


「そっか。どうしたらミリア僕に協力してくれるかなぁ」

「アレンは、ミリアとどうなりたいの?」

「四六時中側にいて、僕がやったらいけないことやろうとしてたら止めて欲しい、かな」


 なのでアレンは、ミリアのことについてフィオナに助言を求めてみた。何度協力を要請しても毎回にべもない返事が帰ってくる。アレンに諦める気は無かったが、なかなか手強い相手だという認識は既に持っていた。もっとも、そうでなければ協力して欲しいなどとアレンが思うことは無かっただろうが。


 アレンは、自分が望んだことなら多少無茶でも実現させてしまう。反対する人も最終的には説得し、押し通せてしまうのだ。だが、ミリアの制止の言葉だけは、何故かあっさり聞く気になったのだ。だからこそ、自分を止めてもらうため、アレンはミリアに協力して欲しいと言っているのだが、色良い返事が帰って来たことは一度もない。


「それだけ?」

「え?」


 フィオナは少し考えて、それから真剣な表情で口を開いた。問われて、だがアレンは咄嗟に返事を見つけられない。それだけなのかなんて、考えて見たこともなかったのだ。


「本当に、それだけ? 止めて欲しいだけなら、やろうと考えたこと全部報告して是非を問えばいい。ずっと側にいなくても事足りる。だって、アレンは好きなときに好きな人に話しかけられるんだから」

「それは、そうだけど」

「アレン、どうなりたいのかはちゃんと考えた方がいい。そこが不明確じゃ、ミリアも靡いてくれないよ」

「うん。考えてみる。ありがと、フィオナ」


 確かに、少し不便ではあるが遠話能力を持つアレンなら、それでも必要なものは満たされる。なんだかんだ言いながらも、ミリアはちゃんと判断を返してくれるだろう。

 では、なぜそれ以上をアレンは求めているのだろうか? フィオナは、それを見つめ直せと言っているのだ。


「でも、フィオナにもミリアの素性が分からないって聞いた時はびっくりしたなぁ。フィオナは、すべてのことを知ってると思ってた」

「私にだって、分からないことはたくさんあるよ。特に、人の心は難しい」


 ミリアを発見した日、アレンは帰宅した後真っ先にフィオナにミリアの出自を聞いた。フィオナならば、明確な答えをくれると思ったからだ。だが、それに対するフィオナの返答は分からないだった。アレンが子供だから教えられないではなく、分からないである。フィオナにも分からないことがあるんだと、アレンは酷く驚いたことを覚えている。


 そんなアレンの言葉に、フィオナは返答を行ってくれたがその目はどこか遠くを眺めている。分からなかったことがあるために、なにか酷い後悔を抱えたことを思い出している様だ。


 たまにフィオナが覗かせるその表情をどうにかしたいとアレンは思っているが、今のアレンにできることなど限られている。まず、話してもらえていない時点で、アレンには何もできないのだ。知りたいと言えば教えてくれるかもしれないが、アレンはそれをしたくなかった。


「そっか」

「アレンがこれからどう考えて、どういう決断をするのか、楽しみにしてるね」


 フィオナは、少し寂しそうにそう語る。そんなフィオナを見ながら、アレンはフィオナがなるべく悲しまずに済む決断をしていこうと心に決めた。

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