暖かさの本質
アレンとの合流場所は、予想通り人が沢山いた。こんな状況で合流などできるのかとも思ったが、再びアレンから遠話が飛んできて、それにそって行動することで人通りが少なめの場所に出る。そこに、アレンとウォルトとメアリーがいた。
「少し歩くと人でいっぱいなのに、いい場所知ってるのね」
「一切お店が無いからね、ここ」
「なるほど」
確かに見渡す限り客商売の店が無い。人が少ないのも当たり前だった。
「さ、合流できたし次行くぞアレン」
「そんなに急がなくてもなくなりませんわよ、兄様」
「早く行った方が時間が有意義に使えるだろ」
「急いだところで、見られる物に変化はないじゃないですか」
ひょんなことから口論が始まるこの兄弟を見て、ミリアは春から全然変わっていないようだと思う。当たり前と言えば当たり前なのだが、もう少し時と場所を選んでもらえるとミリアとしては嬉しい。それとも、アレンのように慣れきってしまうべきなのだろうか。
「はいはい、二人ともそこまで。行くよ」
一言で二人を諌めて、アレンは目的地に向かいだした。ウォルトもメアリーもアレンに言われたからか大人しくなって歩き出す。それについて歩きながら、ミリアは三人に尋ねた。
「目的地って、どこなの?」
「内緒です」
聞いた瞬間に、メアリーに着いてからの楽しみだと告げられる。そう言われては、それ以上突っ込んで尋ねるわけにもいかない。
「いいものが見れるから、楽しみにしておくといいよ」
アレンに言われると不安を感じてしまう言葉だが、ウォルトもメアリーも否定していないので、楽しみにすること自体は間違っていないもののようだ。さて何を見ることができるのか。ミリアはアレンたちに先導されるままに、転移盤を乗り継ぐ。
途中、何度か出店に立ち寄り、飲み物や食べ物などを買い込む。付近に特設されている机で食べないということは、どこか別の場所に心当たりがあるということだろうが、女神様が現れる広場付近にそんな場所はあるのだろうか。
「ミリアはアイスいるー?」
「冬にアイスは見た目寒いから却下」
「えー、美味しいのに」
いくら周囲の気温が常温に保たれていると言っても、冬は寒いものという感覚が骨身に沁みているミリアには、冬にわざわざ冷たいものは食べたくない。外気が冷たい分、長い時間を運んでも温度変化が少ないという利点があるため冷たい者の出店の方が多いのだろうが、多少覚めるとしても暖かい物の方がミリアは嬉しい。
「あ、じゃああちらのココアはどうですか? アイスもホットも両方売っていますよ」
「あ、いいね。それにする。メアリーありがと」
「そんな、ただ見つけただけです」
出店の位置は当然のように毎年変わるため、どこに何があるかは当日行ってみなければ分からない。見つけた物を見つけた場で買う人が多いため、人通りが多い場所は取り合いになる。激しい争いを防ぐため、出店はすべて許可制で場所はくじ引きで決定なのだ。
「いやいや、人でいっぱいなのによく見つけられるよ」
「私の髪の色が紫だから、周りにいらっしゃる方が避けて通ってくださって、それですごく見やすいんです」
だから、ミリアは何の気なしに言ってしまった。結果、メアリーがずっと気にしているだろうことに触れてしまって動揺する。楽しい祭りの最中に、人から避けられる原因について話すのは、酷く無神経だ。
「あ……、えっと、ごめん」
「そんな気もなく言ったんだろ。気にしなくていい」
謝るしかできなくて謝ったが、そうするとウォルトが謝るなと言ってくる。確かに、気にされることがこの二人にとって一番嫌なことなのは分かる。だからと言って、気にしないことはミリアには無理だった。
「はい、ココア買ってきたよ」
そんなことを考えていると、アレンがメアリーが指示した出店からココアを買って持ってきた。確かにちゃんと、ミリアの分はホットである。が、一つミリアの予想と大きく異なる点が存在した。
「なんで、ホットココアなのにアイスが乗っかっているわけ?」
「ホットでもアイスでもそこの店は乗せてたよ」
どうも、門の外に住む人は冬に冷たい物を食べることに一切抵抗感が無いらしい。敢えて冷たい物を欲しているわけでもなさそうなので、寒さの辛さを経験したことがそもそもないのだろう。
「あーもー、もうアイスが乗ってるのはいいから早く目的地に着かないと私のだけ先に溶けるじゃない」
「うん、だから難しいこと考えてないで、早く行こう?」
一人だけホットココアにアイスが乗っているのだ。今も徐々に溶け崩れている。急がないとあっという間にアイスの形が崩れてしまうだろう。そう思って、早く目的地に行くことを提案すると、アレンから返ってきた言葉はミリアの内心を見透かしたような言葉だった。
一々メアリーとウォルトのことを気にするな、と言いたいのだろう。一度アイスで話題が変わったのだから、もう蒸し返さなくていいと、そう暗に伝えてきたのだ。
「私は行き方知らないんだから、そう言うなら先導してくれないと」
ミリアは暗に言われたことに従い、メアリーに対しこれ以上気を使った話題を続けないことに決める。今は、お祭りの最中なのだ。アレンからメアリーに視線を移すと、メアリーは憧れたような表情でアレンを見ていた。
昔、レティが躊躇せずに対応したアレン以来の人だと、メアリーが言っていたことをミリアは思い出す。彼女にとって、アレンが大切な人である理由を、改めて痛感する一幕だった。




