物好き二人
ミリアがゴミ拾いを一緒に行うことを了承したのは、あくまでちょっとした暇つぶしのつもりであった。が、実際に行ってみるとなかなか重労働で、二つ返事で承諾したことを少し後悔し始める。あそこで別れていれば、今頃はのんびりとした散歩中だったのだ。
だいたい、すぐにはここまで掃除の手が回らなくても、巡回して掃除される日程まで待てば道は綺麗になる。また、帰宅途中でもゴミが増えるだろうことを思うと、すごく徒労にしかならないことを行っている気がしてきた。
「ねえ、なんで今なの? またすぐ汚れるでしょ。明日まとめてやった方が効率がいいんじゃない?」
「ふむ、確かに効率はその方がよいだろう。だが、これは僕の気持ちの問題だ」
「気持ちの問題?」
「時間があって汚れている場所がある。それを見過ごすことは許せないのだ」
清廉潔白という言葉がこれ以上なく似合っている人だとミリアは思う。間違ったことは一切許せない、そんな人間だ。門の外は彼のような人には、とても生きやすいだろう。
「……なら、なんで私巻き込まれてるんだろ」
「僕は君の自由意思に任せたぞ。了承したのは君自身だ」
「そうなんだけどね……」
確かにミリアの意思で選んだのだが、断りにくい雰囲気でもあった。一言で断ったら、目の前の少年から再び不審者としての対応を受けていた気がするのだ。
「ま、用ができたら遠慮なく言って抜けてくれ。目的もなくふらふらしているのでなければ、それでいい」
その言葉が少しミリアには引っかかる。道を目的もなく歩いている人を不審に思うよりも、まずは止めたいと思っているような、そんな感情が垣間見えたのだ。
「……誰か、そんな人がいたの?」
「昔の話だ。見つかるはずの無い人を、延々捜し歩いていた。今は理解したのか、そんなことは行わなくなったが」
見つかるはずがない、ということはきっと亡くなっている人なのだろう。小さな子供が認めたくなくて亡くなった人を探し回るということは、決して低い確率で起こることではない。
「今ではすっかり金の亡者になっているが、無気力に探してさまよっているよりはずっといい」
が、この言葉で少し分からなくなった。ミリアと同年代の少年が見てきたように言うのだ。どれだけ年齢が高くても、彼が探し回る様子を見て覚えていられる相手は、せいぜい同年代までだろう。これだと、十歳と少しで金の亡者になっている人物が、門の外にいることになる。
「え、その人何歳?」
「十一だが」
「……」
ミリアと同じ歳である。何があれば十一歳が門の外で金の亡者になるのだろうか。基本的に、なんの事件もなく平和に暮らしていける場所だというのに。もっとも、今レティがミリアの隣にいないように、何事にも例外はあるのだが。
「目標額がないから、留まりどころがないのだ。仕方がない。君が会うこともないだろうし、この話は終わりにしよう」
「……そうね」
確かに、関係のない人の話だ。これ以上根掘り葉掘り聞くのは野暮という物だろう。それから特に話すこともなく、しばらく黙々とゴミ拾いを行い、しばらく時間が経つ。地上の明かりが街頭に切り替わる。それと同時に、ミリアの頭の中に声が直接届いた。
「ミリア、そろそろ町並み見るのにも飽きてきたんじゃない? 僕たちと一緒に祭りまわらない?」
「アレン!?」
いつでも思い立った時に距離を関係なく話しかけられるというスキルは、持っている方からすれば便利だろうが、前触れなく話しかけられる方としては急に声が現れるので衝撃が大きい。思わず声が出たせいで、目の前の少年がすごく不審そうな目で見ている。
「急に、どうしたの」
「そろそろミリア、一人でいるのも暇になったんじゃないかなって思って。僕たちと合流しない?」
「達って、誰が他にいるの?」
「ウォルトとメアリー。ね、もう十分町並みは見れたでしょ。一緒に回ろうよ」
明らかにまた警戒されて出した状態で、ミリアはアレンに送るための言葉を脳内で紡ぐ。少し話した結果、どうも最初から誘う気ではいたようだがわざわざミリアが町並みを見るくらいの時間を待ってくれていたらしい。それならあらかじめ声をかけておいてくれればいいのに、いつでも声を掛けられるためにその時刻に直接声をかけてくるのは止めて欲しい。
ミリアはそう思いながら、アレンに返事を返す。
「先に言っておいてくれればよかったのに。どこに行けばいいの?」
「だって、先に言っても断られそうだし」
「それもそっか。で、どこに行けばいいの?」
「じゃあ、とりあえず広場の入り口前に来てくれる?」
「分かった」
「じゃあ、すぐ後にまた」
アレンはそう言うと、遠話を切った。ミリアはすぐに移動することにするが、その前に明らかに不審そうな顔をしている目の前の少年に釈明しなければならない。
「遠話スキル持ちが知り合いに居てね、一緒に動こうって誘われたの」
「ああなるほど。それは行くべきだ」
少年はそれを聞いて、ミリアがいきなり声を上げたことには納得したらしい。
「手伝ってくれてありがとう。結構、助かった」
「いえいえ。私も暇だった時間潰せてそこそも面白かったから」
別れの言葉を言ってきたので、ミリアもお別れの意を込めて礼を述べる。そのまま歩いて近くの転移盤に向かいながら、もう会うこともないだろうがやたらと印象に残る物好きな少年だったなとミリアは思った。
会うこともない(フラグ)
少し後に登場することになります。




