祭りの前触れ
その日の授業が全て終わってふと窓の外を見ると、白い塊がひらひらと風に揺られて舞っていた。初雪の到来である。まだ積もりはしないだろうが、外はかなり寒いだろう。
「雪、今年は早いね」
「そうだね、年越し前に降るなんて、今年の冬は寒いのかな」
レティもミリアの視線を追って、窓の外の冬の知らせに気が付いたようだ。風に翻弄されながら落ちていく白い欠片たちは、地面に落ちると溶けて消えてゆく。
「年越しって言えば、お祭りは私も見に行っていいんでしょ? 街に出るの楽しみだなー」
「うん、楽しんでくるといいよ」
「あれ、レティは行かないの?」
「……私は、人込みはちょっと無理かな」
入学から九か月、レティが学舎内の人間にはすっかり慣れたために忘れそうになるが、初めて会った人に対するレティの恐怖は消えたわけではない。年越しの祭りは、人が沢山集まるらしい。どう考えても、レティには辛い環境だ。
「じゃあ一人かー。ルーサーとクレアの邪魔はしたくないし」
「ごめんね」
「いいよ、気にしないで。たぶん祭りより町並み見て回るから付き合わせるのも申し訳ないし」
「そっか」
そう言いはしたが、レティは明らかに申し訳そうにしている。言葉の選択を間違えたなと、ミリアは後悔した。
年越しの祭りは、文字通り年末から年始への年の変わりを祝う祭りである。一年は十二カ月で、一月はすべて三十日。一週間は五日で、それが月に六週ある。だが、この暦だと一年には少し日数が足りない。一年の区切りは年で最も日が短い日だ。そこで、十二月三十日が終わってから一月一日の間にある数日間は年越し祭りの期間となる。
新年を祝うための準備期間ということで、派手な祭りが開催されるのだ。そして、最終日には女神が民衆の前に姿を現し、次の年もまた実りの多い一年であることを民の前で約束するのだ。
門の外に住む人々にとって女神様がどれだけ絶対な存在なのかは、ミリアは知識では知っている。さぞや人が集まることだろう。
もっともミリアは女神様の姿よりも、人がどのように暮らしているのかを見る方が楽しみだった。自分が今置かれている環境が、門の外でも常識外なほどに豊かな暮らしだということは分かっている。知識では散々吸収したが、聞くだけと実際に見ることでの違いをミリアは知っている。祭りの期間になるのが楽しみだった。最終日だけとはいえ、街をこの目で見れるのだから。
「街、活気があって面白いから、祭りの真っ最中のところも少しは見るといいと思うよ」
「レティが最後にお祭りに出かけたのって何年前なんだっけ?」
「そりゃ、もう五年前の話だけど! でも、変わってないって話だもん」
「はいはい」
五年もあれば様変わりしていてもおかしくない気もするが、変わっていないということは大きな変化はないのだろう。
「じゃあ、ちょっとは見てみようかな。話を聞く限りだと、人込みに負けそうな程の人出らしいからすぐ離れそうだけど」
「混んでる場所は嫌いなの?」
「門の外じゃないだろうけど、スリの温床だからあんまり居たくない」
門の中で人込みに突っ込むことは、所持品が無くなることを意味する程度に人込みはスリが多い。そこを避けて移動するには少しコツが必要で、案内人を行っていた頃は客に感心されたものだった。
「あー、それは確かに嫌かも」
そういうレティの言葉には妙に感情が籠っていた。おそらく、スリを殺人に置き換えてみたのだろう。根本は同じ人に危害を加えられるかもしれないという恐怖なのだから。
流石にまずないと分かっていても、忌避する心は消えてくれない。レティの心理状態は、今感じている感情がもっと逼迫した物なのかもしれない。そう、ミリアはひっそりと思った。
ミリアが一人だということは、アレンには想像がつくわけで。
さて、どうなることでしょう?




