表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/100

病気と怪我

 やることが尽きないと時間が過ぎるのは早いものだ。暑くなるのも早かったが、涼しくなるのも早かった。夏の間はさんさんと照り付けてきた日差しも、今は穏やかに地上を照らす明かりになっている。


 そんな秋の涼やかな日なのだが、ミリアはベッドの上で横になっていた。朝起きて出かける支度をしていたところ、普段よりも元気がないのをレティに見とがめられたのである。ミリアの額に手を当てたレティは大変驚き、ミリアにすぐにベッドに戻るようにときっぱり言った。


「そんな高熱出てて、よく部屋から出られたね」

 そう、レティに思いっきり呆れられ、それからレティはミリアを心配しながらも一人で学舎に向かった。それから、ずっとミリアは自室のベッドの上である。頭にはひんやり冷やされたタオルが乗せられていて、それがひんやりと気持ちいい。ぼんやりとした頭でも、ミリアにはそれだけがはっきりと分かっていた。


 ランディックでは、病気は生気(エルグ)の淀みから生じるものである。体中を駆け巡っている生気(エルグ)の流れが滞ることで、人は調子が悪くなるのだ。この淀みは近くにいる他の人にも、一定の条件を満たすことでうつってしまう。


 もっとも生じる淀みが一つであれば、正常な流れに押されて淀みはすぐに治ってしまう。そのため、発症に至る場合は大抵複数個所に淀みが発生していて、それらが複雑に干渉しあっている。


 病気からの回復には、ただ休んで体力を回復に充てることで治すこともできるが時間がかかる。起こりやすい淀みの組み合わせに関しては、薬が作られていてそれを服用することでも回復が可能だ。ただし、服用する場合は薬師の許可が必要になる。淀み方に合わせた薬でないと、逆に淀みが酷くなるためだ。


 体に現れる細かな症状の違いから病気の種類を特定する必要があるため、薬師として働くのは許可制である。専門知識を吸収し、何通りもの可能性から一つの正解を見つけ出す。それが、薬師に求められる技量である。優秀な人材しか見込みがないため、入学試験は非常に厳しい。


 薬師は病人に外出させるわけにはいかないため、家に招き入れられることになる。ミリアも見てもらって、どの薬を服用するべきかという情報を教えてもらった。よくある症状の一つで、薬も開発されている病気だった。


 患う人が少ない珍しいパターンの病気の場合、採算が合わないため薬は作られない。待っていれば治る病気ならば、時が解決してくれる。しかし、待っているだけでは治らない病気や、時間が経てば経つほど悪化する病気ももちろん存在する。


 そういう病気を患った場合、頼りになるのは治癒のスキルを持つ人だけだ。治癒のスキルであれば、どんな病気だろうともたちどころに快復が可能である。もっとも、役立つスキルだからと言って所持人数が多いわけではない。慢性的に人数が不足しており、その結果代金も高いものになっている。場合によっては、政府から治癒の補助金が支給される。


 それでも、すべての病気の治癒薬を政府主導で研究するよりは安くつくため、一定人数以下しか患者がいない病気の薬の開発は進んでいないのが現状だ。


 病気の治癒がスキルは薬では非効率な部分を補う形になっているが、怪我の治療でも似たような形態である。怪我は、肉体の損傷だ。それらを直すことが医師の仕事で、肉体についての詳しい知識と、治療のための手先の器用さが必要になる。そのため、薬師とは別の能力が必要になる。


 医師も薬師と同様なるのに許可がいるが、薬師ほどまでは厳しくない。肉体の損傷は目でとらえられる分、生気(エルグ)の淀みよりも分かりやすいからである。ただし、その後の治癒が薬を飲ませるだけで終わりの薬師とは違い、医師は傷を縫ったり歯を削ったりと専門によっても色々と行わなければならない。


 また、怪我を治療するスキルは、医師では代替できない部分がある。医師の治療ではどうしても痕が残ってしまうことが多いが、スキルでの怪我の治療は完全に元に戻る。そのため、怪我の治療では医師とスキルでの役割分担がはっきりしている。


 一時的に応急処置で医師に治療してもらい、完全に治したい場合スキルを持つ人に直してもらう。医師では手の施しようがないほどの怪我を負った人が出た場合、スキルを持つ人のところに運ばれる。怪我を治療するスキルを持つ人が必要とされるのは主にこの二パターンだ。


 どっちも、患う気はなかったんだけどな。そう、ミリアはぼーっとした頭で思う。世話になっている身だ。余計な手間をとらせてしまうのは申し訳ない。そう思っていたのに病気である。よくある病気だとはいえ、手間をとらせてしまうことには変わりない。


「早く、治らないかな……」


 既に薬は服用したとはいえ、治るまでには少しは時間がかかる。その上、薬の効果はかなり無理やりであるため意識が服用前より混濁する。結局ミリアはその後すぐに寝入ってしまった。

病気の治療薬は健康な人に飲ませれば毒になります。

用法、用量がとても大事です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ