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夏の夕暮れ

 横長のソファーにうつ伏せになって休憩していると、レティがコップに飲み物を入れて持ってきてくれる。綺麗な透明のグラスに、しっかりと冷やされたレモネードが入っていた。最初の頃は贅沢さに一々おっかなびっくりだったミリアだったが、慣れとは恐ろしいものでひんやりとしたレモネードは今ではすっかり生活の一部になっている。


 中が一定温度になる機能が付加された箱は、冷蔵庫と呼ばれている。安くはないが、食糧の保管が便利になるため一家に一つは置いてある。凍らせられるほどの温度の物だと冷凍庫となる。こちらはそこまで必需品ではないので普及率はそこまでではない。コールドウェルには当然のように置いてあり、レティが持ってきたレモネードにも当然のように氷がいくつか入っていた。


 レティはミリアに一つコップを渡すと、ソファーの端に腰掛ける。レティもここでくつろぐつもりなのだろう。くつろぐ時間というのは、とても大切である。一生懸命行った後は、頭を切り替えてゆっくりと休む。議論が中心の学舎の授業では、特にそれが大切だ。


「疲れた」

「うん、お疲れ様」


 現在ミリアは帰宅して、レティと一緒に休憩をとっているところだ。なんせ、ミリアが疲れているのは勉強のせいだけではない。元気いっぱいで毎日休憩時間に会いに来る元気いっぱいな輩がいるからだ。周りが若干呆れ始めるほどに、毎日よくもまあ言葉が尽きないものだとミリアは思う。


 聞いているだけで疲れるのは、レティが労ってくれていることからも、気のせいではないことは確かだった。


「アレンって、なんであんなに元気なんだろ?」

「でも、ミリアも避けないよね。なんで?」

「結局すぐ見つかりそうだし、だったら図書室で相手する方がいい」


 休憩時間を過ごす場所を図書館から変えるだけで、確かに一時的には平穏な時間を過ごせるだろう。だが、なんとなくすぐに場所を特定されてしまう気がする。それに、そもそも向こうは遠話でいつでも自由にコンタクトをとれるのだ。だったら、人が落ち着いてすごくことが考えられている空間である図書室で迎え撃つ方がいい。


「そっか」


 そういうレティの顔はなんだかとても楽しそうで、何が言いたいのかと少し問いただしたくなる。が、それを行ったところで話題がいい方向に向かう気がしないため、ミリアは実行には移さなかった。


「それよりレティこそ、別に私に付き合って図書室に来なくてもいいんだよ。アレンがウォルト連れてこないことってないし、率先して話したいわけじゃないでしょ?」

「……なんで私があいつのために、ミリアと一緒にいるの止めなきゃいけないの?」


 代わりに同じ問いをレティに行うことにした。レティの返事を聞いて、たぶんウォルトの方も同じことを言っているんだろうなぁとミリアは思う。この二人は、互いに意地の張り合いなのだ。


 ミリアは手の中のレモネードに口をつける。レティの髪と同じ色の飲料は、口の中に甘酸っぱさを運んできた。清涼感が心地いい。


「うん、美味しい」

「ミリア……。ま、いいけどね」


 あっさりと話題をレモネードのことにミリアが逸らして、レティは何か言いたげだったが何も言わなかった。


「レティ」

「何?」

「レモネード、ありがと」

「いいよべつに。私が飲みたかったんだもん」


 夏の夜の時間はゆっくりと過ぎていく。穏やかな時間は、ミリアにとって何にも勝る清涼剤だった。

たまには、ヤマもオチもないのんびりとした時間の話もいいものじゃないかなと思います。

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