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むかしのおはなし 3

 当時ミリアが、自分が名乗る名を持っていないことを告げた時の子どもたちの反応は、一様に大して気にしていないという反応だった。


「え、そうなの? 何か適当に決めればいいのに。オレは自分で名前決めたんだ」

「その結果、皆が略称でしか呼んでくれないって嘆くことになったのは誰だったっけ?」

「いーじゃんかアルシャインってかっこいいだろ」

「呼ぶ方が恥ずかしいんだけれど」


 そしてまたもアルとノーリの言い合いが始まる。この短時間で再び始まるということは、ほとんどの時間なんだかんだと言い争っているのではないだろうか。互いに遠慮なく言いたいことを言っている様子は、知識だけでしか知らない兄弟というものはこういうものなのだろうかと思わせる。


 しばらくそのまま放っておこう。ミリアはそう思ってサイとネリーに目を向けた。

「お姉ちゃん、名前ないの? サイは、ノーリがつけてくれたんだって。それでね、ネリーはサイがつけたんだ」

「つけたのー」


 目が合うと、サイはそんなことを言った。言葉の最後を繰り返したのはネリーだ。無邪気に笑うその顔はとてもかわいらしい。


「そっか、ノーリの名前は誰がつけたのか知ってる?」

「アルがつけようとして断られたって言ってた」

「言ってたのー」


 あの言い合いっぷりからして、簡単に想像がつく。ならきっと、ノーリも自分でつけたのだろう。


「姉ちゃん、もしよければオレが名前考えるけど」

「絶対止めた方がいい。聞かなくてもいいくらい」

「それどういう意味だよノーリ。そーだな、ヴィンデミアトリックスとかどう?」

「あーもう、なんでアルはそんなにセンスが壊滅的なの。誰もそんな名前で呼ばないからね」


 サイとネリーと話していたら、言い合いから逃げてきたのかアルがミリアに話しかけてきた。きっと言い負かされそうになって話題を変えたのだろう。とりあえず聞いてみた名前の案はノーリの言う通り名前として使うには壊滅的に合っていない。第一流石に長すぎる。


「……それは、流石にちょっと」

「いい名前だと思うんだけどなぁ」

「そんなこと思うのはアルだけ」

「そんなことない! ま、姉ちゃんは姉ちゃんで分かるしいっか。姉ちゃんが気に入る名前、ゆっくり考えればいいと思うぜ」


 気持ちはとても嬉しいのだが、流石に名前として使いづらい。断るとアルはあっさりと引いてくれた。一度聞いただけでは覚えられなかった音の繋がりを名前として使うのには抵抗があったのでありがたい。


「じゃあ、改めて私の家に行こっか」


 ミリアがそう言うと、子どもたちはてんでに同意の言葉を返す。それからのミリアの帰り道は、雨に負けないくらいに賑やかなものになった。




 この辺りまで昔のことを思い出した時点で、ミリアの思考は急に現在に引き戻された。というのも、アレンからの遠話が来たためだ。

 

「やあ、ミリア。気が変わって僕のために生きてくれる気になったりしてない?」

「こんな短期間で変わるわけないでしょ!」


 不意を突かれた形になったため、思わず声に出してしまった。それではアレンには届かないことを思い出し、頭の中でアレンに伝えることを意識して言葉を紡ぐ。


「こんな短期間で気が変わるって、本気で思っているの?」

「変わっててくれたら嬉しいなぁって、僕の希望だけど」

「うん、もういい」


 皮肉のつもりで言ったのだが、動じている様子がまったくない。ミリアは諦めていつもの日課をさっさと消費することにした。

「それで、今日の質問はなんなの?」

「あ、質問はもういいんだ」


 が、アレンはそのために遠話をしてきたのではないという。では、なんのためにわざわざミリアとこの時間に話そうと思ったのだろう。


「じゃあ、なんで今日も遠話してきたの」

「ミリアに僕のこと知ってもらったら、協力してくれる気にならないかなって思って」


 なんというか、非常に身勝手な理由ではないだろうか。いや、身勝手と言えば今までも身勝手だった気がしないでもない。だが。


「……つまり、自分語りをするつもりだと?」

「うん」

「却下」


 知識を教えて欲しいと頼むのと自分の話を延々聞いて欲しいというのでは身勝手度が違う気がする。それを肯定されたので間髪入れずに否定したところ、アレンはすごく不服そうだった。


「えー、なんで?」

「そんな無意味なことに費やす暇はない」

「無意味なんかじゃないんだけどなぁ」

「アレンの話聞いてるだけに、私に得るものが有ると思う?」

「うん」

「私は、無いって思っているの。あまりしつこいと許可取り消すからね」


 どう説得しても平行線なのは変わらない。そのことを、アレンが理解してくれる気になるようにミリアは説明した。


「……じゃあ、今日はいいや。またね、ミリア」


 そう言って、アレンは遠話を終了した。一見、割とあっさり引いたように思える。

が、この数カ月でミリアはアレンの性格を把握している。せっかく落ち着いた図書室だったが、明日はまた賑やかになるのだろう。そう思うと、ミリアは少し憂鬱だった。

今回で、ミリアちゃんの過去回想はおしまいです。

4人とのこれ以降の話は、どこかで番外編として書こうと考えています。

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