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むかしのおはなし 2

 ミリアが一人で生きてきた方法を話し終えても、雨の止む様子は一向になかった。むしろより強くなっているかもしれない。


「これで話は終わり。悪い方法じゃないと思うけど」


 ミリアは話が終わったことを四人の子どもたちに伝える。後は、彼らが選ぶことだ。


「オレもノーリも、どこに何があるのかなんて知らねえんだけど」

「アル、話聞いてた? この人だって、最初から街のすべてを知っていたわけじゃない。危険な場所を教えるためにお客さんと一緒に歩いていて、そうやって覚えて案内できるようになったって、話の流れで分かるでしょ」


 アルの反対意見を、ノーリがばっさりと切り捨てる。それにしても、アルの罵倒をはじめてから、ノーリが急に饒舌になった。どうも、そういう言葉には舌の回転がいいらしい。その様子を見ていても何もできることがないので、ミリアは幼い二人に目を移した。くっついている男女二人は、不思議そうな目でミリアを眺めている。流石にこの二人は、事態の理解できるほど頭が追いついていないらしい。


「聞いてたっての」

「ああ、ただのバカだったね。ごめん」


 アルとノーリの会話を、ミリアは微笑ましく見守る。言い合える仲間がいるのはいいことだ。ずっと一人だったからこそ、ミリアはそう思う。小さな二人組がまったく慌てていないのを見ると、どうやらこれが日常のようだ。


「ありがとう。この方法で、頑張ってみる」

「おい、オレはまだ賛成してな」

「いいでしょ、試して見るくらい」


 ノーリがミリアに対しお礼を言うと、アルが勝手な決定に怒るが、結局ノーリに言いくるめられた。アルも、試すことに損はないと認めているのだろう。


「うん、それであなたたちはどこに住んでいるの?」

 この質問の答えは、ミリアはある程度予想がついていた。考えるまでもない。彼らは今後の方針を話し合っているくらい、逃げ出してきたばかりなのだ。


「どこにも。夜は適当な場所で過ごしている」


 それでよくもまぁ数日無事でいられたものだ。裏路地にいる子どもたちなど、ちょっとした小金稼ぎに利用されそうなものなのに運がいい。


「もしよければ、全員うちにくる? すごくボロボロだけど、雨はしのげる」


 本当に、なぜ助けようと思ったのだろうか。わざわざリスクを連れ込む行為だ。それだけ信用できるほどに、相手のことを知っていないというのに。雨の中、同じ軒下で過ごしたことで相手に情が移ってしまったのだろうか。


 アルとノーリはすごく驚いた様子で、だが二人の次の行動に今度はミリアが驚くことになった。


「サイ、このお姉ちゃんについていっても大丈夫か?」

 確認を取った相手が、幼い男女の方の男の子だったのだ。サイと呼ばれた男の子は、しばらく一生懸命考えた後、この雨の中でも見た人間を晴れやかにする笑顔でこう言った。


「うん、大丈夫!」

「だいじょぶー」

 サイがそう言った後、サイに抱き込まれていた女の子が言葉を楽しそうに繰り返す。


「サイがネリーの安全が関わってるのに嘘言うわけないし……。姉ちゃん、変人だな」

 アルの言葉にそれがこれから世話になる恩人にいう言葉かと思うが、事実なのでミリアは何も言い返せない。普通、会ったばかりの人間を家に置いたりしないだろう。言葉に乗って世話になる方もなる方だが、どうもサイが安全に関するスキル持ちのようだ。


 サイの髪は黄色、目は緑。守護の中でも知覚に特化しているスキルを持っていることが、その外見から見て取れる。四人が数日何事もなく過ごせたのは、サイがいたからなのだろう。


「オレはアルシャイン。皆はアルって呼ぶけどアルシャインって呼んでいいんだからな。その方がかっこいいし。んで、こっちの口うるさいのがノーリ。で、ちっこいのの男の方がサイで女の方がネリーだ。よろしくな、姉ちゃん」

「アルはアルでいい。長々と呼ぶの面倒だし調子に乗るから。よろしく」

「おいこらノーリ!」


 アルとノーリがまた賑やかに言い合いを始める中、サイとネリーもミリアに挨拶をくれた。


「よろしくお願いします!」

「しますー!」


 四人それぞれの挨拶をもらい、ミリアは自宅への案内をはじめようとする。が、その前にアルの言葉で足を止められた。


「それで、姉ちゃんの名前はなんていうんだ?」


 その問いに対して、ミリアはこう答えた。

「私に名前はないの」


 当時のミリアには、名前を付けてくれる人も呼んでくれる人もいなかった。だから、名乗る名前がなかったのだ。

 そして、ミリアは今でも、自分がなぜミリアと名乗るようになったのか、そのきっかけが分からない。封じられた記憶の中に、自分の名前に関する記憶までもが含まれている。自分の名前はミリアだという自覚はあるのに、呼ばれていた記憶が一切欠けているのだ。


 いったい誰がミリアに「ミリア」という名をくれたのか、気になるのに知ることができない、記憶が欠けていることで一番ミリアが困ったことがこれである。

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