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むかしのおはなし 1

 ミリアがアレンと別れて帰宅したのは、丁度夕食の前だった。何の話だったとレティに問われミリアは返答に困る。説明が難しいことを正直に伝えると、レティは落ち着いてからゆっくりでいいよと言ってくれた。どうやら、ミリア自身が整理しきれていないことを見抜いていたらしい。


 今ミリアは一人、部屋でぼんやりと考え事をしていた。アレンのこともだがそれ以上に、ミリアが門の中(ヘイブンクラウド)で暮らしていた際の記憶がアレンの発言のせいで呼び起されたのだ。


 約一年前、一人ぼっちで門の外(オーダルー)からの観光客を相手にミリアの前に現れた四人の子どもたち。ずっと一人だったミリアは仲間ができたことが嬉しくて、一生懸命年下の彼らに自分の持つ知識を教えた。結果、徐々に子どもたちの案内人組織は大きくなっていって、門の中(ヘイブンクラウド)に対する影響力が分不相応な大きさにまで膨らんでミリアではどうしようもなくなってしまったことはぼんやりと思い出せる。


 だが、どうやって解決したのか、どうしてミリアが門の外(オーダルー)に来ることになったのか、それは封印された記憶の中だ。ミリアは、どこか信用できるところにすべてを預けて、その際前のリーダーである自分が邪魔になるため追い出されたのだと考えている。


 それを考えれば、一年ほど前に彼らに出会ったことが、ここに来るきっかけだったともいえる。あの日は、雨が激しく降っていた。

 思い出していく度に、ミリアの思考は一年前に帰っていく。これまでゆっくりと思い出す暇がなかったため、一度振り返りだすと急速に昔の光景がよみがえってきた。




 酷い雨だった。撥水能力が付与された何かを身に着けている人はともかく、傘を差して歩かなければならないミリアは寄り道を止めてまっすぐ帰宅することを選ぶほどの雨だ。帰宅を急ぐ人々で大通りの遠距離転移盤は非常に混雑していて、ミリアは路地裏に点在する近距離転移盤を渡り歩いて帰ることにする。転移する数は増えるが、順番を待つよりこの方が雨に打たれている時間は短い。


 早く屋根の下に入りたい。その一心で帰宅を急いでいたミリアだったが、路地に雨の中言い争っている子どもたちがいて足を止める。せっかくある軒下を塞いでいるため非常に邪魔だ。が、行く当てもない子どもならば雨を防げるのはこういった場所しかない。


「だから、食べ物だけならオレがとってくればいい。死んだ人たちに命令されてやっていたことが食べ物に変わるだけなんだし」

「アル、それは駄目。お店から恨みを買うと、私がお金を稼ぐ邪魔になる」

「じゃあどうすんだよ。ノーリが稼げる金額じゃ安全を確保するだけで精一杯なんだろ」


 どうやら、話を漏れ聞く限り、どこかの組織が壊滅してそこで使われていた子どもたちが路頭に迷っているらしい。大人しくその場に残っていれば、有用なスキル持ちならそのまま壊滅した側に使用者が変わるだけで生活には困らなかっただろう。それとも、自由が欲しくてわざわざ逃げ出してきたのだろうか。


 歩み寄って分かったことは、言い争っている二人と、それを聞いている更に幼い二人がいることだった。年齢が上の男女二人は七、八歳で、年少の男女二人は四、五歳だろうか。アルと呼ばれた男の子と、ノーリと呼ばれた女の子が言い争っていて、幼い二人組は女の子が自分の胴体と同じくらいの大きさのぬいぐるみを抱えており、それを更に男の子が抱きしめている。


「サイにだって限界はあるからちゃんと安全な場所を作らないといけないって言ったのはノーリだろ。ノーリが稼げる金額全部そこに使うんだから、食べ物とかは別で稼がないといけない。他に手段があるか?」

「……」


 アルが言った言葉に、ノーリは反論しない。しかし、納得できているわけではなさそうだ。それにしても、この街には子どもでもお金を稼ぐ手段はあるのだが、それに彼らは思い至っているのだろうか。案外これまでスキル頼りの生活をしていて思い至っていないのかもしれない。


「ところで、そこの姉ちゃんはオレ達の話聞いてどうしたいんだ」


 話を聞いていて、ミリアの足はいつの間にか止まっていた。それに気が付いたのだろう。明らかに立ち聞きしているミリアに、アルが警戒心を露わにする。こんな裏路地なら、当然だ。


「物乞いの組織に属せば、スキルに頼らなくても生活できるんじゃないかなって思って聞いてただけ」

 ミリアにこんなところで争う気はない。敵意が無いことを示すためにも、思ったことをそのまま述べた。組織に属さなくても物乞いはできるが、物乞いの組織が物乞いを行っている子どもを見逃すわけがない。すぐに声を掛けられ仲間に入れられるだろうから同じことだ。


「それができるならそうしている。私たちには、それを選べない事情がある」

「だから、オレが必要な物全部とってくればいいんだから、姉ちゃんには関係ないだろ」

「アル、それは駄目だって言ってる」

「じゃあどうするんだよ」


 どうやら、訳ありらしい。そもそも、わざわざどこかの組織が使っていた子どもたちだ。身柄を狙われる可能性のあるスキルを持っている可能性が高い。ミリアは四人の髪の色に意識を向ける。アルは橙、ノーリは赤、男の子が黄色で女の子が紫。変化に付与に保護に破壊だ。破壊のスキル持ちを示す紫の髪では、確かに物乞いは難しいかもしれない。


「子供だけでもスキルを使わずに稼ぐ方法、教えてあげようか」


 なぜこの時手を伸ばす気になったのか、今でもミリアは分からない。いくら自分より幼いとはいえ、優秀なスキルを持っているなら十分警戒対象だ。潜在的に一人は寂しいとでも思っていたのだろうか。確かに、その後の生活はそれまでとは打って変わって楽しいものになったけれども。


「そんな方法、あるわけないだろ」

「人の恨みを買わない方法なら、教えて欲しい」

 アルとノーリの言葉が被る。ミリアはいらないというアルを無視して、話が通じそうなノーリを相手にすることにした。


「私は強制しない。選ぶのは、あなたたち」

 そう前置きして、ミリアは四人に自分がこれまで生きてきた方法を分け与えた。一層激しく降りしきる雨の中、ミリアはただただ自分が生きてきた手法を伝える。聞き手の四人は音を絶やさない雨とは違い、終始静かにミリアの話に聞き入っていた。

もう少し続きますが、この4人について詳しく語るのは、別に番外編を作って行おうと考えています。

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