予想の外
翌日、全ての授業が終わり、帰る段階になって、ミリアはようやくレティに、昨夜のアレンとの会話の内容を話した。なんとなく、伝え辛かったのだ。別に何も後ろめたいことなどないというのに。
「なんだろうね? 話すだけなら、会わなくてもできるのに」
「分からないけど一人でって言われたから今から言ってくる。帰りは、……たぶん、そこまで遅くはならないと思う」
長時間話し込むようなことにはならないと思うが、アレンが相手ではどうなるか分からない。ミリアは適当な時間には切り上げて帰るつもりでいるのだが、ついつい引き止められる可能性は大いにある。
「大切なことはちゃんと会って話すって考えなのかなぁ。それでも、なんだろうね?」
「分かってたらこんなに頭を捻ってない……」
「普通、男女で二人っきりで会うとなると、告白とかなんだけれど」
「……ないでしょ」
少し考えてみようとしたが、どんなに頑張ってみてもアレンが誰かに夢中になっている姿が想像できない。自分の知らないことに対して夢中になっている姿ならいくらでも見てきたのだが。
「うん、ないよね。じゃあ、先に帰るから、頑張って」
「うん、とんでもないことじゃなきゃいいけど」
レティもどうやら思い浮かばないらしい。応援の言葉を言い置いて、レティはミリアを置いて帰っていった。ミリアは覚悟を決めて屋上に向かう。今ここで考え込むより、直接本人に理由を聞く方が早いのだから。
屋上で浴びる夏の始まりの日差しは夕暮れ時が近づいていてもまだ強かった。空が赤く染まるまではまだ少し時間があるとはいえ、眩しい光が容赦なく照り付けてくる。きっと、気温に関しての操作がなにもなされていなかったら、暑いという感想を持つのだろう。
だが、今ミリアが身に着けている服には、着ている人が常に快適に過ごせるような温度変化機能がついている。どれだけ外気が暑くても寒くても、この服を着ている限りミリアが感じる温度は常に一定だ。門の中にいた頃では、考えられない暮らしの質である。
もっとも、服一着一着にまでその機能が付与されているのはよっぽど金銭に余裕のある人だけで、門の外の一般民衆は、その機能が付与されたアクセサリーを身に着けている場合が多い。手が届かないほどではないとはいえ安い買い物ではないので、生活に余裕があればあるほど所持している種類が増えおしゃれに幅ができる。
ミリアは澄み渡った空の下、アレンの姿を探す。晴天の空に溶け込むような髪の持ち主は、外を見下ろせる屋上の端にいた。落下防止の囲いに体を預けて、広がる景色を眺めている。
「約束通り、来たけれど」
「来てくれてありがとう、ミリア」
とりあえず、ミリアは声をかけてみた。アレンから返ってきたのは約束通りミリアがやってきたことへの感謝だ。が、何かがいつもと違う。アレンからいつも溢れている自信というものが、影を潜めているようなそんな感覚だ。
「約束したからね。それで、何の用なの? わざわざ会って話したいことって」
わざわざ会わなくても、アレンとなら話すことはできる。実際、ここで会う約束を行ったのも、アレンの遠話スキルでだった。遠話で済ませたくない話だということは分かるのだが、逆にそれ以上のことがまったく分からない。
昨日全部明日話すと言っていたのだ。まず理由を聞かせてもらおう。そう思って、ミリアはアレンにここに呼び出した理由を尋ねた。色々な無茶振りが来るのではないかとミリアは予想していた。が、アレンの口からはミリアの想定外の言葉が飛び出す。
「うん、あのね。ちょっとミリアを口説きたいなって思って」
「……はい?」
レティとそれだけはないと言い切っていたことだっただけに、ミリアの困惑は大きかった。
敢えてここで切ります。
「口説く」の意味はたぶん予想の通りです。




