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 ミリアが転移した先は、陽光を窓から取り込んでいる広い部屋だった。木製の引き出しがいくつも付随した机が何台も並べられている。机の上にはスタンドで立てられた本や、筆記用具がまとめておいてある。壁はレンガがむき出しになっているが、それでも外と違って暖かかった。


 部屋の中に居たのはスーツ姿の大人が3人とアレンだった。アレン以外の3人が驚いた顔でこちらを見る。アレンが転移してからミリアが転移するまでの間は10秒ほどで、その短い時間で説明するのはまず無理であろうから、驚かれること自体はミリアには想定の範囲内だった。ミリアにとって想定外だったのは、3人の大人全員とも、虹彩が真っ黒だったことだ。どうやらこの場所では珍しくもなんともないらしい。


 事態を飲み込めていない大人3人を前に、アレンが説明を始める。だがその説明はミリアが行って欲しかった順序立てではなかった。

「先生方は、彼女を知っていますか? 名前はミリアで、姓はないと主張しているんですけれども」


 とりあえず、ミリアは3人の見覚えは全くない。そんなことを尋ねるよりも、まず真っ先に伝えるべきは、記憶がない状態で塀に凭れているところを発見したことではないのだろうか。そう思ったが、自分がここで口をはさむとややこしくなりそうだったので、ミリアはアレンに任せることにした。ミリアよりもアレンの方が持っている情報が多いのだから。


「いいや。……アレン、彼女とはどこで会ったんだい?」

「僕が見つけたのは学舎の塀にもたれて座っているところでした。最初、距離があったので知り合いかと思って声をかけたのに返事がなくて、不思議に思いながら近づいたら全然知らない女の子がいて。最初は、学舎に通うのが待ちきれない子が様子だけでも覗きにやってきたのかと思ったのですけれど……」

「名前を聞いて、それが違うと分かった、と」

「はい、姓が無いのに目は僕たちと同じです。住んでいたのは門の中(ヘイブンクラウド)だとも言っています。更にここに来るまでの記憶も無くて、その原因が自分のスキルで自分の記憶を消したんじゃないかということらしく……。なので、僕の手には負えないと思い、先生方にお任せしようと連れてきたのですが」


 先生方と呼ばれた中の一人が、アレンと話を進めていく。彼らにとってミリアがあの場所に現れたのは、どうも子供が一人迷い込んできたというだけの話ではないらしい。ミリアのことを見る目が、皆一様に困惑の色を帯びている。


「その判断は間違っていない。アレン、後は任せてくれて構わない。君が授業前に学舎の壁際で何をしていたのかは、後でゆっくり聞くことにしよう」

 その言葉を聞いて、アレンは少し焦ったような表情を浮かべ、弁解の言葉を口にする。

「た、ただ散歩していただけですよ」


 明らかにそれだけではなさそうな声音を聞きながら、ミリアは少し申し訳なく感じた。自分がいなければ、アレンはこの大人たちにあの場所にいたことを知られなかったはずなのだ。何をするつもりだったのかは知らないが、現状を見るに悪いことができるタイプの人間ではない。いい意味で誰かを驚かすために、あそこを通りがかったのだろう。


「まぁいい。お前はよくしでかすが間違ったことはしないからな。教室に戻りなさい。私も、授業が始まる時間にはいくから」

 アレンの人柄は大人たちにも信頼されてはいるらしい。無事に予定通りの相手に驚いてもらえればいいなとミリアは思う。


「はい。……ミリアとは、また会えますか?」


 が、アレンが次に言った言葉が、ミリアに先ほどの質問攻めを思い出させる。絶対門の中(ヘイブンクラウド)の知識目当てだこいつ。そんな先ほどまでのめんどくささを思い出させる言葉のせいで、アレンのために祈っていた思考はあっさりミリアの意識から流れていく。


「現状ではなんとも言い難いが、会えない可能性の方が低いだろう。特に問題がなければ……、次に会うのは3月になるだろうね」

「3月……? あ、わかりました。じゃあ、機会が来るまで待つことにします」


 3月に何があるのだろうか。そんなことを思っていると、アレンはこの部屋に入ったのとは別の転移盤から部屋を出て行ってしまった。あの怒涛のような質問がもう飛んでこないことに安堵しつつも、大人たちの中に一人取り残されたことに心細さを感じる。


 そんなミリアの心を知ってか知らずか、3人の大人は改めてミリアを見つめてくる。男性が2人、女性が1人。その中の1人が授業が始まるからと部屋から慌ただしく出ていった。もう1人は一応記録を確認してきますと言って部屋から出ていった。そして、残った男性がミリアに対して声をかけてきた。その声は、温かみを帯びている。


「さて、ミリア、だったかな。色々聞きたいこともあるだろうが、まずは君が覚えている限りのことを話してはくれないかい。今日ここで気が付く前、門の中(ヘイブンクラウド)でどのように暮らしていたのかを」


 そういいながら、彼はメモに使うのだろう紙を取り出す。どのような判断が下されるのかはわからない。それでも、その声音から悪いことにはならないだろうと判断して、ミリアは全て正直に話すことにした。


毎日1話投稿継続中です。

次回からはミリアちゃんの過去回想編が始まります。

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