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説得不可能

 向こうからは自由に話しかけられるのに、こちらからは連絡の手段がないというのはなかなかに焦れるものだった。いつもアレンが話しかけてくる時間が近づくにつれて、まだかまだかと気持ちがはやるのだ。結局、アレンが遠話で声をかけてきたのはいつも通りの時間だった


「やあミリア、昼はごめんねー」

 長時間待っていたこと、更にそののんきな物言いに、ミリアの導火線にあっさり火が付いた。


「うん、悪いと思ってるならどうしてやったのかな? 理解してなくて馬鹿なことやらかすのは迷惑だけれど仕方ない面もあるって諦めけど、理解しててそれでも行動を起こす大ばか者はどうしようもないんだけれども」

「え、僕、ウォルトとレティを同じテーブルにつかせたことは悪いと思ってないよ。今謝ったのは、事前にミリアに言えなかったこと。急だったし、驚いたでしょ?」


 とてもいい性格をしている。アレンの一言でミリアはそう思った。それにしても、仲が険悪になっている二人を一緒にさせて何がしたかったというのか。


「ミリアは僕たち一族がどうやってランディックを治めているかはもう知ってるよね?」

「うん。で、それが」


 一族の中から毎年一人の代表者を選び、その人の指示の下政は行われる。指示を形に変えるのが代表以外の一族の仕事で、十五になって学舎を卒業したら全員がその任につくのだ。


「歳が近いと一緒に仕事することが多くなる。配置場所が違っても、連携する場面は多々あるだろうしね。もちろん二人とも仕事に持ち込むようなことはしないだろうけど、険悪なままより仲いい方がいいでしょ?」


 それくらいの理由で、とミリアは思う。ウォルトの方がどうだかは知らないが、レティは仲が険悪になっていなくても打ち解けるのが難しい人種だ。上辺だけでもいいなら、ウォルトが誠心誠意謝りなおせばどうとでもなるだろうが。


「それにね」

 ミリアがそうんなことを考えていると、アレンは更に一言を付け足す。

「ウォルトとレティ、きっと互いのこと分かり合えると思うんだ」

 そして、その内容はミリアが思っていた通りだった。だが、それが可能だとは思えない。レティは改善したとはいえ人を信じるまでにまだ時間がかかっているし、更に相手が会ったばかりの時期に酷く気分を害された相手であれば余計だろう。


「そんな理想ばっかり口にしても、上手くいくわけないでしょ」

 理想は綺麗だ。思い描くだけならいくらでもできて、そして正論だから賛同者も得やすい。けれども、理想だけでは統治は行えない。どんなに善政を敷こうとしても、必ずどこかで切り捨てなければいけない物が出てくる。為政者にできることは、犠牲にしたことを教訓に、忘れないようにすることだけだ。


 今回だって同じだ。これ以上二人の感情を刺激しないようにして風化させたほうが、多少わだかまりが残ったとしても五年も経てば薄れているはずだから。

「そうかな? 少なくとも、試さずに諦めるのは違うと思うんだけどなぁ」

「試した結果、余計悪くなったらどうするの」

「僕が、悪くなんてさせると思う?」


 これまで、話が通じる相手だと思っていた。が、どうも予想以上にアレンは頑固者どころか自信家らしい。

「悪くすると思ってるから、そう言ってるんでしょうが」

「大丈夫、任せて。手が届くことなのに放置なんてしないよ僕は」


 止めようかとも思ったが、ミリアは諦めることにした。それに、仲直りさせようと必死で動いている人を見たら、レティもあからさまに怒りを表さなくなるだろう。五年後の練習にもなるだろうし、アレンは諦めそうにない。


「分かった。折れてあげるから明日からもずっと図書室にいるけれど、明らかに悪化させたらそれ以降はないからね」

 ずっと、膠着状態が続いてそのままずるずる続くだろうなとミリアは思う。が、意見の相違が明らかなのでアレンには伝えなかった。


「うん、じゃあ明日からしばらくよろしくね。それで、今日のミリアの分の質問は?」

 自分の考えを伝え終え満足したのか、アレンはミリアに今日の分の質問を促す。そういえば、待ちわびる方に意識が言っていてまったく考えていなかった。もう適当でいいかと、ミリアは思いついたものを適当に言う。


「アレンを言い負かすために必要な物が知りたいわね」

 若干の皮肉を混ぜた物言いに、顔は見えないがアレンが苦笑いしたように見えた。

「ミリアは手厳しいなぁ。僕が考えていることよりも、ずっとすごいことを提案してくれたら、僕は折れると思うけど」

「……すっごく、認めなさそうなんだけど」

「ええ、そんなことないよ」


 間違いなく、色々と論理の隅まで吟味しつくして、そして隙が無いと分かって初めて相手の主張を認めるタイプだ。自分の方が正論だと示せるだけの強い根拠が必要になる。それを示せなかったから、今ミリアは折れているわけで。


「そんなことあるでしょ……。じゃあ、また明日ね」

「そうかなあ。また明日」

 別れの挨拶の後、繋がっていた遠話が切れる。ミリアは明日でアレンが諦めてくれることを祈りつつ、そうはならないだろうことを諦め半分で覚悟していた。


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