人は見かけによらぬもの
それから数日、アレンと夜に会話した分かったことは以下の通りだ。ホワイトガード家は女神を守る家であること。女神はホワイトガード家に住んでいること。ホワイトガード家の血筋が続く限り、女神に災難は訪れないこと。そして、女神は伝承が伝える通りになんでも知っているということ。
ミリアは別に、女神の存在を疑っていたわけではない。育った場所の常識の違いである。門の外では女神様の庇護の下、穏やかな生活が営まれている。逆に、門の中ではそんなことを感じる余地は微塵もない。常に、生きるために必死になる必要があるのだから。いたとしても、何かをしてくれる存在としての認識がないのだ。
そんなミリアにアレンが聞いてきたのは、門の中の詳しい様子だった。ミリアが案内人を始める前に行っていた生活、その当時の具体的な生活、餓死者は出ないのか、子供は門の中でどういった立場なのか。交換に答えた質問は以上の4つだ。
本当に、興味があるんだなぁとミリアは思う。もっとも、一日一つを緩めるつもりはない。ミリアに交渉の余地があると思われたら最後、一度に大量の質問を投げつけられるに決まっている。
そういうわけで、あっという間に4日が過ぎた入学から5日目、その日はちょっとしたイベントがあった。
学舎一を決める武闘会の開催である。まず、同級生4人でトーナメントを行う。その優勝者が、最小学年が一つ上の学年に挑み、勝ち上がったほうが更に一つ上の学年に挑むという仕組みだ。
これは、全学年混ぜてトーナメントを行った場合、最上級生と最下級生では体格差が大きくて勝負にならないためである。なら学年ごとだけ1番を出してそれで終わりにすればいいのに、学舎1番は出さなければいけないらしい。
「で、ミリアはあっさり負けたの?」
「私格闘技なんて習ってないし」
基本的な教養の一つらしいが、ミリアにそれを身に着けるほどの時間はなかった。結果、しっかりと習っていたレティに軽く転がされて1回戦敗退である。
もっとも、それを聞いてきたアレンも同様に1回戦敗退のはずだ。なぜなら、今ミリアがいる場所は敗退者が集められている場所なのだから。まだ試合がある勝者と、もう試合のない敗者はいる場所が明確に分けられていた。試合の場所からは離れているが、その分全体がよく見通せる。
「アレンは人のこと言えるの?」
「僕が負けたウォルトは、新入生ながら2つ上の先輩まで倒したからね。負けても悔しくはないかな」
「へー」
10歳で12歳を倒したということは素直にすごいと思うが、そもそも入学初日に会っただけの人に対してそこまでの興味がない。それを言えばアレンもほとんど同じはずなのだが、毎夜話しかけられている分、なんだかんだ慣れてしまっているようだ。
武闘会は一周して、新入生の決勝戦になる。レティ対ルーサーは、レティの勝ちだった。もっとも、負けてやってきたルーサーが、クレアに近づいて嬉しそうにしているのを見て、ミリアは結果が真剣勝負の結果の物なのか疑問に思っていたが。
それにしても、知らない人の中でレティは一人で大丈夫だろうか。あの人見知りっぷりを発揮して、半分震えているんじゃないかとミリアは考える。そんななか、試合場ではウォルトがハルに勝利を収めていた。とても、嬉しそうである。
「レティ、次でこっちに来れるかなぁ」
真面目なので手を抜く気の一切ないレティを見ながらミリアは呟く。まぁ、去年12歳まで倒した相手ならすぐに負けるだろう。この時ミリアはそう思っていた。
すべての各学年の結果が出揃って、次に試合場に呼ばれたのはレティとウォルトだった。レティの試合ということで、ミリアは再び試合場に視線を向ける。
明るい黄色の髪と、深い青紫の髪。見事なコントラストが互いに近寄っていた。そして、試合開始の合図の笛が鳴らされるとともに。
ウォルトが華麗に宙を舞っていた。
それを行った本人は遠目で見る限り相変わらず余裕がなさそうで、アレンからあらかじめ聞いていた情報がなければ、アレンの学年に強い人はいない、そう考えていただろう。
「うわー、人は見かけによらないねぇ。僕、ちょっとウォルト慰めてくる」
そう言い残してアレンはミリアの側から去っていく。確かに、自分は勝てると思っていた人間が、10歳になったばかりの女の子に負けたら衝撃だろう。慰めは必要だ。
レティが負けたら、私も迎えに行こう。その様子を見ていてミリアはこう思ったが、その計画が実行されることはなかった。レティは結局全員倒して優勝してしまったのである。仕方がないので目的を優勝おめでとうとなるべく早く言うに変えて、ミリアはレティを迎えに行った。




