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女神を守る家

 夜空を彩る光の輪が打ち尽くされると、パーティーはお開きになった。ミリアはレティとコールドウェル家へ帰る。その数分の間、レティから置いて行かれたことに対する非難めいた眼で見られ続けていた。無言の抗議ほど威力の高いものはない。


「レティ」

「……なに?」

「この先、ずっと私が一緒にいられると思う?」

「……」

「学舎の生徒とは打ち解けないと辛いでしょ?」

「……でもでも、せめて心の準備させてくれたって」

「だーめ」


 だが、レティのこれからを考えるなら、ずっとミリアがついているという選択肢は存在しない。他人を警戒するのはいい。だが、度を過ぎれば逆に生きづらくなるのだから。


 もっとも、今日それを実行したのは、ミリアが一人になりたかったというところが大きいのだが。

 帰宅してそれぞれの部屋に戻り、再び一人になる。静かな空間に迎えられて、ミリアは少し前までの賑やかさと現状を思わず比べてしまう。


「なんなんだろ……」


 ベッドに倒れこんで、ミリアは一言呟いた。なんとなく、そうせずにはいられなかったのだ。静寂に包まれた部屋では、何か呟いたところで返事は帰ってこない。そう思っていたのだが。


「ミリア、まだ起きてるー?」

 唐突に、頭の中に能天気な声が響き渡る。こんなことができる相手の心当たりは、ミリアには一人しかいない。先ほど教えられたとおり、伝えようと意識して頭の中で言葉を練る。


「まだ寝るには早いでしょ」

「うんそうだよねぇ。だからさ、今から色々聞いていい? 門の中(ヘイブンクラウド)のこと」

 何も考えずに思った通りを伝えた結果、帰ってきた返事を聞いて深く考えずに答えたことに後悔する。今日一日中大人しかったのは歓迎を成功させるためであって、たぶん最初から遠話の許可だけ取っておいて夜終わったら質問攻めにする予定だったのだろう。


 そんなことを考えている間にもアレンはどんどん門の中(ヘイブンクラウド)について知りたいことを述べ続けている。ミリアが口を挟まないため、まったく途切れることがない。止めなかったらどれだけ話し続けるつもりなんだろう。そう思いながらも、アレンが話終えるのを待っていたら最初の方の質問など忘れてしまうに決まっているので、ミリアは口を挟んで止めることにした。


「ストップ。そんないっぺんに答えられるわけないでしょ」

「あ、実際に行けって言わないんだ」

「その結果酷い目見て帰ってこられたら私の気分が悪いでしょう」


 あの時はああ言ったが、実際に子ども一人で行って無事に帰ってくるにはそれ相応の下調べが必要だ。無責任なことを言った結果は、あまり見たいものではない。


「でも、一気に聞かれても、答えられないから、一日一つにしてちょうだい。それなら、答えられる限りちゃんと考えて答えてあげるから」

「え、一つ?」

「今すぐ遠話の許可取り消してもいいんだけど」

「分かった。一つでいいから取り消さないで」


 相手の許可が必要なスキルは、許可を取り消された瞬間使えなくなる。基本的には、再び許可を取りなおせばまた使えるが、再び許可をくれるかは相手次第だ。ミリアが金輪際アレンが遠話でミリアに話しかけるのを拒否すれば、アレンはスキルをミリアに使うことができない。


「それから、もう一つ。私からも、一つ質問していい?」

「うん、いいけれど」


 聞かれるばかりというのは不公平。それはアレンも感じ取ってくれたのだろう。あっさり了解してくれる。さて、どんな難しい質問で困らせて報復してあげようか。提案したときのミリアはそんなことを考えていたのだが。


「じゃあ、さっそく今日の分。ミリアは門の中(ヘイブンクラウド)でどうやって暮らしてたの?」

「校長には話したけど、聞いていないの?」

「……本人のことは、本人に聞けって言われてる」


 アレンの言葉を聞いて、ミリアは察した。校長は、まず間違いなく漏らしている。知っているのは本人に聞いたからだということにする前提で。そして、アレンはその知識を前提にして聞きたいことがあるのだろう。


門の外(オーダルー)からの観光客の案内人。今みたいな贅沢な暮らしはできなかったけど、生きていくには十分だったかな」

「そっか」

「他にも案内人やってる子どもはいるけど、アレンの歳だと客だって認識されないから自分から話しかけないと案内してもらえないからね」

「そうなのか……」


 案内人さえ見つければ、自分一人でも大丈夫とか思っていそうだなとミリアは思う。まぁ、間違いではない。アレンが好奇心を抑えて、案内人の言うとおりに動くことができるならだが。


「じゃあ、私の質問の番ね。うーん、そうだな。じゃあ、今日の二つ目に聞いた物語、世に出回った時、女神様がどういう反応したのかが気になるな」

 さて、無理難題に困ればいいと思いながら、ミリアはこの質問をアレンに尋ねた。女神様個人の感想だ。そんな記録はまず残っていないだろう。


「え。ちょっと待ってて。聞いてくる」

 だが、アレンから返ってきた返答は、ミリアの予想の斜め上だった。分からなくて困るでも、すらすら答えるでもなく、聞いてくる、である。その言葉の直後に遠話が途切れたため、ミリアからは聞き返すことができない。誰に聞いてくるというのだろう。約100年前の記憶を持っている人がいるのだろうか。


 不可解に思いながらも待っていると、再びアレンの声が頭の中に響いた。

「お待たせ。フィオナ様、面白かった、だって」

 色々と、突っ込みどころがある返答だった。まず、女神を名前で呼んでいる。まぁこれは分からないでもない。女神様と呼ぶのが一般的なだけで、名前で呼んではいけないということにはなっていないのだから。


 だが、今まさに本人から聞いてきたという口ぶりはいったいどういうことなのか。そう思ってふとアレンのフルネームを思い出し、ミリアは納得してしまった。アレン・ホワイトガード。それは、白い神様を守る家ということだ。


「あれ、ミリア聞いてるよね?」

「ああうん、聞いてる聞いてる」

 おざなりに返事を返しながら、どういう仕組みなんだろうとミリアは思う。聞いてみたいが、今日質問する権利をミリアはもう持っていない。


「じゃあまた明日ね」

「そうだね。じゃあまた明日、同じ時間に」


 だから、明日にまわすことにした。どのみち、しばらくアレンはミリアに毎晩話しかけてくるのだ。ミリアに急ぐ必要はなかった。

一日一質問。

しばらくの間のアレンとミリアの日課です。

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