物語を辿る
一度、ミリアたちに割り当てられている教室に戻って説明する。そのアレンの言葉で、ミリアと同級生他3名は自分たちの教室に戻る。アレン以外の上級生は、静かにそれを見送ってついては来なかった。
ミリアたち4人が自分の席に着くのを確認すると、アレンはこれから行うことの説明を始める。
「物語を辿ろう」
その言葉で始まったアレンの言葉に、ミリアはただただ耳を傾けた。たぶん、他の3人も同様だっただろう。
「僕達がなぜ政治を任されているのか。それは、先祖が選ばれたからだ。でも、それだけじゃない。それからずっと、女神様に選ばれ続けているからだ。じゃあなぜ、女神様に選んでもらえることができたのか。選ばれ続けるために必要なことはなんなのか。政治について学ぶ前に、もう一度見つめ直してみて欲しい。そのために、女神様と初代王の伝えられている物語を辿ろう」
よく通る、有無を言わせない力強い声。真っ当なことを言っているならば、これほど説得力を強くするものはない。もっとも、これで間違った主張をされると、困ったことになってしまうのだろうけれども。
「実は、どの物語にも共通する印象的な場面3つが、学舎の建物内で行われている。この建物、昔王宮だったものの一部だからね。だから、その3つを探してみて欲しい。正解だったら、その場所にはウォルトかハルかスーがいる。ただし、その場所が物語の舞台の場所だと気が付いていないなら、3人は姿を現さないからね」
総当たりを防ぐためだろうが、それを実際に行うのは大変なのではないか。ミリアはそう思いかけたが、すぐに気が付いた。だからこそ、アレンが自分達についているのだと。分かっていないのに正解の場所に近づきそうなら、アレンが遠話で連絡してその場を離れさせる。とても、簡単なことだった。
「難しく考えなくていいよ。一人見つける度に一つ、物語の中でも有名なものを話してくれることになっているから。だから、今日中には終わるよ。夜は、大広間で歓迎パーティーだからね」
ごちそうを用意してるから、時間までには終わらそう。じゃないと一緒に動く僕も食べ損ねる。アレンはそう付け加えて、話を終えた。後は、ミリア達がどう動くのかを見守るつもりらしい。
「私は、どんな物語があるか詳しくはないんだけど、でも、それでも一つだけは分かる」
たぶんこの話を聞いたとき、全員が一番最初に思い浮かべた場所。現状の政治体系ができるまでの物語で、もっとも有名な場面。王宮のバルコニーでの、女神の説得だ。
「この建物の中でバルコニーっていったら、3階の大広間だろうか?」
「アレン先輩、この建物で他にバルコニーってありませんよね」
ルーサーとクレアがそれぞれに言って、アレンに確かめた。アレンは、先輩と呼ばれたことに何やら感動しているらしい。少し、反応が遅れた。
「うん。バルコニーは、大広間だけだね」
それでも、アレンはちゃんと反応は返す。ミリアは、自分も先輩を付けて呼ぶべきだろうかと少し考えてみる。数カ月、頭の中で呼び捨てで呼んでいたため、先輩とつけることに違和感しかない。そんなことを考えながら、転移盤の上に乗って移動を始めた面々の後に続いてミリアも大広間へ向かった。
大広間のバルコニーにはスーがいた。既にアレンから連絡を受けていたのだろう。ミリア達がすぐに表れたことに対して、まったく驚きを見せていない。
「そうだね。まず来るべきはここ」
だが、そもそもまず真っ先に自分のところに来ると分かっていたようだ。まぁ、一番有名なシーンなので当然ではあるのだが。大広間の壁にまさにそのシーンの絵画が飾ってある時点で、どれだけ有名なのか推し量れるというものだ。
「ここが、女神様が初代の王に政治を任せることを決めた場所だってなっているバルコニーだね。じゃあスー、皆に物語一つ頼むよ」
「分かってる。私が語るのは、一番古い物語」
アレンが正解だと告げ、そのままスーに話を振る。そして、スーが語った物語の内容は次のようなものだった。
圧政を敷き始めた支配者に困惑する女神。貴族の一員だった初代王はこっそり町に出かけることが趣味で、街に兄が契約保障、妹が修復スキル持ちの兄弟の友達がいた。
妹が初代王が貴族であることに気が付いていたため、圧政が始めったとき、何が起こっているのか初代王に尋ねた。
それによって初代王が調べた結果、女神の意志が既に現支配者にはないことを知り、女神を王宮から連れ出すことになる。
結果、王宮は大混乱になり、政治はさらに厳しいものになった。
それを見て、もう人に任せるのは止めようと、これからは自分が政治を行うと告げるために王宮に忍び込む女神。
前の支配者に預けていた支配者の地位を剥奪したところで、女神がいないことに気が付いた初代王が追いつく。
そして、兄が追いついて一緒に説得した結果、女神はもう一度人に任せてみることにした。
旧支配者は初代王を除き民衆の手で裁かれた。
兄弟はそのまま天に召し上げられ、星座になって天からこの国の行く末を見守っている。
そんな内容の物語を、語り聞かせられる。いくつもあるうちのもっとも古いと言われる物語を語り終えたスーは、最後にこう付け加えた。
「著者、ペンネーム、パイロス。……個人的な感想は、一番古いから、洗練されてない。妹のスキルにまったく意味がない。でも、無意味なことが多い分、真実に一番近い」
真実を知るがゆえに、物語に徹しきれなかった。そんな作品だとスーは言いたいのだろう。
「うん、やっぱりスーは語り聞かせるのが上手いなぁ。皆気が付いてる? もう昼ご飯の時間だってこと」
アレンに言われて初めてミリアは時間を意識した。壁に掛けられている時計に目をやる。確かに、昼食をとる時間だった。
「だったら、食べながら次にどこに行くか考えるのがいいでしょうね。お昼にしましょう」
ミリアはそう言って、アレンに食堂への行き方を教えるようにいう。そのまま、玄関ホールを経由して、一同は食堂へと移動した。




