自己紹介
一つ上の先輩という言葉を聞いてミリアが予想した通り、移動した先の玄関ホールにはアレンの姿があった。その他にも3人いて、ミリアはアレンの同級生だろうと推測する。赤緑青紫と色取り取りな4人だった。
「入学おめでとう。伝統的に、初日は一つ上の組が、新入生に学舎内を案内し、そのまま歓迎会を行うことになっているんだ」
鮮やかな赤の髪で、4人の中で一番背の高い少年が口を開いて説明する。そんなことならあらかじめ説明されていても不思議ではないのにとミリアは思う。他の同級生3人も同じように思っているようだ。
そんな考えに毎年触れてきているのだろう。校長が補足説明をする。
「皆、せっかく準備するからには驚いてもらいたい。そう考えるのが自然ではないかい。だから、学舎入学前にはこの情報には絶対に触れさせないことになっている。それじゃあ、後はよろしく頼んだよ」
そして、言うだけ言うと、ホール内に置かれている転移盤の一つに乗って、この場を去ってしまった。
「そういうことだ。去年、俺たちもだいぶ驚かされた。それが、毎回続いてきてる」
「楽しんでくれたら、なにより」
その様子を目で追った後、紫の髪の少年と、緑の髪の少女が言葉を付け足した。そして最後に、空を映したような髪の色の少年、アレンが口を開く。
「でも、始める前にまずは自己紹介からだよね。家同士の交流がないと、お互い顔も知らないだろうし。僕は、アレン・ホワイトガード。スキルは見て分かる通り干渉能力で、許可を得た人なら相手が側にいなくても会話をすることができる。で、全員許可をもらいたいんだけどいいかな」
青系統の髪の物が持つ干渉系のスキルは、他者に何らかの影響を及ぼすことができるが、基本的には相手の許可を得ないとスキルの行使ができない。普通いきなり所持スキルの能力まで話すことはしないが、アレンの遠話であれば初対面時に能力を話して許可を取るのに意味もあるからだろう。
「ミリア・コールドウェルです。遠話は自由にどうぞ」
だから、同じ干渉系であっても、記憶の封印などという、基本使うことのないスキルのミリアは特に説明をしなかった。
「クレア・サンダーフロウです。お話は、いつでも大丈夫ですよー」
「ルーサー・ヒットライトです。遠話、いつでも承ります」
バカップル二人もミリアと同様に名前だけ名乗る。そして、同級生で残るはレティだけなのだが。
「……あ、レティ・コールドウェルです」
若干人見知りが再発していた。出会った頃を思えば目覚ましい進歩ではあるのだが。どうやら、教室で発動しなかったのは、それ以上に驚くことがあったかららしい。まともな状況になって落ち着いて、人見知りをする余裕が出たのだろう。
もっとも、レティの現状は恐怖からというよりもともとの性格のような気もしていて、これ以上の改善は無理じゃないかとミリアは思い始めているところだ。
「じゃあ今度はこちらの番かな。もっとも、アレンは先にしてしまったけれどね。僕は、ハル・マインレッド。よろしくね」
鮮やかな赤い髪が目に眩しい少年が名を名乗る。数年後には、落ち着いた好青年になりそうな風貌の彼が、どうやら4人の中の仕切り役のようだ。
「次俺な。俺はウォルト・プロトガルドだ。これからよろしくな」
次に口を開いたのは、青紫の髪の少年である。ハルとは真逆の活発な印象で、表情がよく顔に出ている。この自己紹介での一幕だけでも、ウォルトがハルに対してなんらかの対抗心を抱いていることがなんとなくミリアには分かってしまった。邪魔こそしなかったものの、自分が先に言えばよかった。そんな雰囲気がありありと伝わってくる。
「スー・ソフィレッジ。よろしく」
最後に、深緑の髪が丁寧に編み込みでまとめられている少女が名を告げる。言葉の数は少ないのに、何事に対しても深く考え込んでいるような、物静かで知的な雰囲気の少女だった。
「全員自己紹介終わったね。じゃあ、さっそく始めよう!」
全員が名前を言い終えるのとほぼ同時に、アレンが勢いよく歓迎開始を提案する。ミリアはそのアレンの様子に、数か月前初めて会った時に見た、とても楽しそうな様子を思い出す。あの時は、こちらが若干困っているのにも関わらず止まる様子がなくて多少困ったが、今日は楽しませてくれるということらしい。
なら、どういうものが用意されているのか、楽しみにしてみよう。アレンがどんなことを歓迎と言いながら行ってくるのか、ミリアは少し楽しみに感じ始めていた。
所持スキルの能力は、どこ出身なのというような初対面時の話のタネにはなりますが、真っ先に紹介するようなものではないです。




