学びの誓い
結局で出会ってすぐにくっついたらしいバカップル二人は、教師が部屋に入ってくるまでそのまま二人だけの世界に浸っていた。一瞬で静かになったクレアとルーサーに、そういう切り替え能力があるなら、もう少し前から発揮していてもらえないものかと思う。主に、ミリアとレティの居心地のために。
教師はなぜか全員が用意されている机についていないことを不思議そうに眺めたが、深くは追及してこなかった。入ってきた教師はよく見れば、ミリアが記憶を無くしてここに現れた日、色々と説明を行ってくれた男性だ。
「さて、諸君」
4人が四角を作る机のそれぞれの辺に当たる席に着くのを待ち、教師は話し始める。
「諸君らには、責任がある。約300年前より連綿と受け継がれてきた約束により、我らはこの国をよりよい方向に導く責任がある。これから諸君らは、この場で政について学ぶことになる。答えのない難問に、悩み続けることになるだろう。存分に、悩むといい。ここはそういう場であって、その悩みを通して成長する場なのだから」
入学したばかりのレティ達4人に語り掛ける声は、聞く者にそれが可能だと思わせる、鼓舞する力に秀でていた。感じていた不安を消し去り自信へと変化させていく不思議な論説は、引き込まれるような魅力がある。
「ミリア・コールドウェル、ルーサー・ヒットライト、クラリッサ・サンダーフロウ、コレット・コールドウェル。以上4名、白き女神より委任された為政者としての責を全うするため、勉学に励むことをここに誓えるか」
普段は愛称で通していても、正式な誓いを行う際には本名で執り行う。それが、伝統であり様式だ。
「誓います」
4人分の声が重なり合い、部屋の中に響き渡った。教師は満足そうに頷くと、締めくくりの言葉を口にする。
「ならば、この場で存分に語り合い、学ぶといい。学舎はそのための努力を惜しまない。諸君らが一人前になるために必要なことを、手間を惜しまず提供しよう」
教師が締めくくりの言葉を言い終えると、4人の生徒の周りに漂っていた緊張した空気が少しほどけた。4人とも、教師の言葉に改めて、自分が何をしなければいけないか考え、見つめ直していたらしい。
だが、ミリアは他の3人と自分とでは意識に差があるのではないかという点で少し不安になってきていた。統治者になるための生まれだというなら、そのために必要な知識や考え方を身に着ける努力を惜しむ気はない。だが、生まれてからずっとそれを当然として生きてきた3人と、数か月前初めてそれを知ったミリアとでは、乖離がない方が不自然だ。
「さて、では改めて自己紹介をはじめようか。私は、ケネス・マネジメディック。現在、学舎の校長を務めさせてもらっている」
ミリアがそんな不安を感じる中で、自己紹介が始められた。二人の名前は先ほど聞いたが、ミリアとレティはまだ名乗っていない。なのでミリアは一番先に口を開いた。レティは、こういう場でのトップバッターに向いている性格ではない。
「ミリア・コールドウェルです。今は、コールドウェル家にお世話になっています。よろしくお願いします」
「レティ・コールドウェル、です。……あの、よろしくお願いします」
案の定、続いて自己紹介したレティは少し口調が硬かった。昔を思えばこれでも大進歩なのであるが。
「先ほども名乗ったが改めて。ルーサー・ヒットライトだ」
「同じく改めて。クレア・サンダーフロウです」
最初とは一転して落ち着いた自己紹介だった。ミリアはこの二人が常時このテンションでいてくれることを祈るが、そんなことが成立しそうにないということも同時に感じる。
「では、全員名乗ったところで少しここから離れようか。諸君らを一つ上の先輩に預けることになっている」
校長であるケネスがそう言って、転移盤の上に乗った。4人とも、それについて続いていく。一つ上の先輩という言葉に、記憶を無くしていた日に最初に出会ったとある人物を思い浮かべながら、ミリアも後に続いて転移を行った。




