五次元世界のぼうけん
『五次元世界のぼうけん』
という、児童文学があります。
作者はマドレイン・ラングル。レングルとも。
異次元からやって来た男たちに、弟を誘拐された女の子が、取り返しに異次元世界へ行く話です。
子供のころ読んだのですが、衝撃を受けました。
主人公が、良い子じゃないんですよ!
彼女は意地っ張りで、悪いことをしても、素直にごめんなさいが言えない。
そんな自分が、いやでたまらない。
なのに、魔女に力を借りに行ったら、こう言われます。
「向こうの世界まで、私の守りは届かない。お前は自分一人だけの力で、弟を助けねばならない。
けれど、お前一人だけでは、負けるだろう。
だから、私にできることをしてあげよう。
お前の欠点を、強くする」
主人公、愕然。
なんでだ〜、いやだ〜、と叫ぶもダメで、欠点を強くされてしまう。
で、異次元世界に行く……が。イジメやら脅迫やら、されまくる。
「お前にはなんの力もない。お前には何もできない。
お前の弟は望まれてここにいる。
お前はこの世界の者を全員、不幸にするつもりか。そんなことが許されると思うのか。
あきらめて、一人で帰れ」
こんなことを、小学生の女の子が言われたら、悩むし、揺らぎます。
しかし。主人公は、欠点を強くされていたのでした。
意地っ張りがグレードアップ。
意地っ張りなんてレベルじゃありません。
頑固一徹、初志貫徹。徹頭徹尾、折れない、負けない、譲らない、引き下がらない。
「嫌だ!」
誰になに言われても、そう言い続けます。
「嫌だ! あきらめない」
「私は絶対に、弟を連れて帰る!」
彼女はひたすら、ひたすら、ひたすらそう言い続けるのでした。
最終的に主人公は弟を見つけだし、二人は家に帰ります。
読み終えた小学五年か、六年生だった私は、
「えらいものを読んでしまった……」
と思いました。すごいよコレ。と。
日本人が書いたなら、主人公は大人の言うことをよく聞く、素直な良い子だったでしょう。
しかし……、それではこの物語の深みもメッセージ性も、何もない。薄っぺらい作品になっていたでしょう。
作中、主人公は異次元世界をさまよいますが、
中には平和と平等を主張するために、全ての人間が同じ歩幅で歩き、同じタイミングでしゃべり、
まばたきの回数まで全く同じでなければならない、という世界がありました。
タイミングをずらしてしまった子供が、みんなと同じタイミングで動けるようになるまで、
矯正部屋で拷問まがいの訓練をされる描写があって、
現代日本のイジメ問題に似ているなと。
その時は、はっきりそう考えたわけではなかったのですが。
違いを認めない、同じでなければ許さない、という雰囲気は、
どこの集団、グループでも、起きてくる。
仲が良い集団ほど、どうかすると起こりやすい。
その結果、本来なら、認め合い、支え合うはずの仲間が、
監視しあい、潰しあうグループになってしまう……。
何が問題なのだろう。
どこから、おかしくなってゆくのだろう。
そういうことを、漠然と考えました。
欠点は、育てれば、長所に変わる。
しかし、育てるためには、しっかりと自分の欠点に向き合わねばならない。
私はこの児童文学から、そのことを教えられました。
空気読まなくても、自分勝手だと非難されても、
「嫌だ!」と言わねばならない時には、言い続けなければならないのだ、とも。
子供に対して、全く手を抜かない作者だったのだなあと、今なら思います。
主張も何もかも、厳しい。物凄い。
この作品、長らく絶版でした。
しかし、復刊ドットコムに、復刊して〜の依頼を出していたところ、
『復刊に向けての検討に入りました』
とメールが。
おおおおお!
やった〜、きゃっほ〜、と小躍りしてしまいました。
まだ早いんですけどね! 確実に復刊するかどうか、まだわからないんですけどね!
でも今は、素直に喜びたい。
小学生だけでなく、中学生、高校生にも読んで欲しい本です。
ありがとう、復刊ドットコム。がんばってくれ、復刊ドットコム。
復刊したら買う。高くても買う。
だからお願い復刊して〜! と、願う今日このごろです。
2011年06月28日
日曜日の準備があるので、土日は休みます。続きは月曜日に。




