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17 歳  作者: 灯凪田テイル
9/10

大人の事情


 叔母の聡子が訪ねてきた翌日、杏胡からメールが凌の携帯に送られてきた。

〈先生。迷惑かけてごめんね。私、クリニックやめます。いままでありがとうございました〉

 ちょっと待て、と凌は思った。こんなメール一通でカタをつけようなんて、いくら杏胡でも、いくらバイトでも社会性がなさすぎる。

〈杏胡、ちゃんと話をしよう。金曜の夜、いつものようにウチへ来なさい〉

 命令口調のメールに、せめてもの怒りを込めたつもりだった。

 しかし、心配の種は別のところにあった。聡子が結婚したい相手というのは、案の定、杏胡の担任である教師だったのだ。

「不登校の相談に親身になってくださって。親でもないのに、そこまで姪を心配する貴女が、愛おしいと言ってくださって」

 聡子は一転、ただの女の顔になって、初対面である凌の前でそうノロけたのだ。

 その教師が、杏胡にどんな行為をしたか、聡子は知らないようだった。知らないほうがいい、と凌は思った。いや、杏胡は母の愛人と言った。杏胡の話にも若干の矛盾がある。真相を暴きたいわけではない。ただ、杏胡が心配なだけだ、と凌は自分に言い訊かせた。

 しかし。

 金曜の夜、0時を過ぎても杏胡は凌のマンションに現れなかった。携帯の電源も切ったままだ。

 失敗した、と凌は思った。杏胡の住所を履歴書で確認しておけばよかった。こうなったら、明日にでも杏胡の家を訪ねるしかない。

 叔母の聡子には、突然やめるという杏胡の真意を確かめに来たとでも言えばいい。

 ああ、明日は土曜日だ。夏菜には少し遅れると、いや明日は都合が悪いと伝えよう。話が拗れるかもしれないから。


 杏胡の家は、クリニックから6駅離れたところにあった。建売と思われる2階建の玄関に灯りがついているのを見て、凌はほっと安堵した。

 杏胡に会えることを疑わず、凌はインターホンを押した。

「どなた?」

 と出てきたのは、40代後半と思われる男だった。安っぽいスウェットの上下姿が、凌の神経を逆撫でする。

「一ノ瀬と言います。杏胡さんの働くクリニックの…」

 男の顔が、いきなり愛想良くなり、凌は胸の奥がムカムカした。

「や、これは。先生でしたか。おーい、聡子」

 すっかり夫婦気取りである。

 聡子がエプロンで手を拭きながら出てくる。所帯じみた様子が、腹立たしいほどよく似合う。

「あら、先生。どうなさったんですか?」

 どうなさったはないだろう。

「杏胡さんから、突然、クリニックをやめるという旨のメールをもらったものですから」

 凌は憮然とした表情で答えた。

「あ、そうですか」

 なぜ、驚きもしないんだ。

「あのう。杏胡はもう、此処にはいないんですけど」

 あっさりと告げられた言葉に、凌の方が驚くばかりだった。

「いない?いないって、どういうことですか?」

 杏胡は、突然出て行ったのだという。友達か誰かの家にしばらく泊まるから、この家は叔母さんが自由に使っていいよ、と言って。

「そ、それで、探しもしないんですか?」

 非難めいた凌の言葉に、聡子は迷惑そうに答えた。

「私たちにだって、大人の事情というものがあるんです」



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