表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17 歳  作者: 灯凪田テイル
10/10

Air Mail


 大人の事情だって?

 あの夜のことを、聡子の言葉を思い出すだけで、凌は異様な怒りが込み上げてくる。

 そんな無責任な態度を大人の事情というなら、子供たちは傷つけられ放題じゃないか。アンタ等のしたことは、猫を公園に捨てるのと同じことだ。誰かいい人に拾ってもらうのよ、と言って。もう仔猫でもなくなった捨て猫を拾って育てるなんていう、そんな奇特な人間がどれだけいるというのだ。

 あれから何度、杏胡の携帯に電話やメールをしたかしれない。

 ある日、この番号は現在使われていませんと、無機質な声で告げられるまでは。

 夏菜との関係は変わらない。

 いや、杏胡が突然いなくなった週末、凌は初めて夏菜と喧嘩をした。激しく感情を剥き出しにする夏菜を見るのも、初めてだった。

「なんで、いなくなったあの子を探すの?探してどうするの?凌はあの子の保護者じゃないのよ。そんな責任なんて、初めからないじゃない」

「じゃあ、このまま放っておけっていうのか?」

「父親がいるじゃない」

「海外だ」

「海外にいたって父親は父親よ」

 埓が明かない言い争いは、一時間以上も続いただろうか。

「凌は、凌は私のものなんだから」

 夏菜が泣きながら、澄ました仮面を脱いだ。

 いま、凌は思う。

 父さん、父さんは一つだけ間違っていたようだよ。文句だって、正論だって、なんだって言わなきゃダメなんだよ。

 ベッドの中で本音を見せない女の喘ぎ声なんて、ウソっぱちだ。


 本格的な盛夏がやってきた。

 その夏の最高気温を記録した日、凌のもとに一通のエア・メールが届いた。イギリスからとわかる葉書には、こう書いてあった。

〈先生。私、9月からこの街の高校に通うよ。

 一年生からやり直しだけどね。

 夏休みだけど、手続きに学校行ったら、

校庭でダンスしてる子たちと友達になったんだ。〉

住所は書かれていなかった。

 でもそのどこかわからない街で、欧米人と思われる数人の子達に囲まれて、葉書の中の杏胡が笑っていた。体格のいい子達の間で、小柄な杏胡がいっそう幼く見える。

 でもお前、18歳になったはずだよな。

 17歳だったお前は、もうこの世の中のどこにもいない。

 なあ、杏胡。

 僕はいつか、もっと大人になったお前に逢えるだろうか。

 杏胡は、自分を通り過ぎていった瑞々しい季節だった、と凌は思った。


              〈了〉


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ