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 他人の夢の話を聞くほどツマラナイことはないというのはよく聞くことだが、俺と妹の夢に限ってはそうでないと自負できてしまうほど不可思議な夢に苛まれることが多くて、楠本家が見た夢は獏にでも喰われてしまえばいいのにといつも思っている。


 最近で一番悲惨だったのは俺が名状しがたいスライム状の何かに襲われている夢で、現実の異世界では苦労なく楽に倒せたというのに夢だとそうはいかなくて、散々な目に会うほど追い回されたことである。


 その時、俺は何を思ったか「この世界が自分の思い通りに動くって言うのならば、俺がその身勝手な考えを改心させてやるよ!」などとヒーロー願望モドキなことを口走り、いきなり服を脱ぎだすからどうかしている。


 頭の片隅ではこんなこと絶対ありえないとさかんに訴えてくるのだが、いかんせん夢だからどうしょうもない。


 それで服を脱いだ半裸の俺がその次に何をしたかというと「母乳ミサイルっ!」とかまた妙なネーミングを口走り、胸からピピピピピピと萎えてしまいそうな効果音とともに粘着質の母乳をかっこつけてぶちかますものだから死にたくなる。


 夢は現実を映す鏡だと言われているが、そうだとしたら俺はこの事態に絶望するね。フロイト先生はどういう欲求だと診断してくれるんだろうか。


 結局その日の夢はそこでうやむやになったものの、同じ日に妹が見た夢が俺にとって最悪の内容で、兄の母乳を飲んでパワーアップした妹が世界の害悪を打ち滅ぼすという壮大なストーリーだったからその類似性に驚きを隠せない。


 しかもその話がそこそこに面白いのだから、まったくもって始末に負えないといえよう。


 ともあれ、俺が見る夢というのは普通でない割合が多い。


 そこに意味を見出すのは難しい夢ばかりで、不可思議極まりない。


 今見ているやつもその例外に違わず、液体の表面張力の感触を楽しむという意味不明の夢である。液体の表面張力で遊ぶなんてことは実際に出来ないと思うのだけど、夢の中でそこに触ってみるとマシュマロみたいな感触を味わえている。心地よくて何度でも触ってしまうくらいだ。


 俺は液体の表面張力を心ゆくまでいじり倒し、やがてその感触に飽きた頃になっていくとだんだんと目が覚めてくる。もう起きる一歩手前なのが自分でも感じる。


「んっ」


 と、ここで艶めかしい声。


 なんだか嫌な予感がする。


 慌てて目を開けて今の様子を窺うと、俺は両隣りに寝ている下着姿のユウコとお姫様の胸をそれぞれの手でわしづかみにしていた。


「はいはいはいはい。そういうことですか」


 心地よい感触はこういうオチだったのかい。などと関心している場合ではない。それに二人とも俺の部屋へやってきてベッドに寝ていることを憤慨している状況でもない。


 早くこの状況から脱却しないといろんな意味で大変なことになる。


 なので俺は、急いで身をくねらせこの危険極まりない状態から抜け出そうとする。しかし思いのほか、ユウコとお姫様の足が俺に絡んできてなかなか抜け出せない。胸をつかんでいた手だけはどうにか外せたが、起き上がることがまったく出来ない。


「ユウコ、お姫様。二人とも起きてくれ」


 俺は呼びかけてみるものの、熟睡しているのか返事はない。気持ちよさそうな寝息だけが聞こえてくる。


 ああ、困った。本当に困ったぞ。どうしよう。こういう時は素数を数えて落ち着くんだ。素数に勇気をもらって心の平静を取り戻せばいい。


 しかしその効果もなく、ユウコとお姫様からは女の子特有のいい香りがしてきてくらくらする。 


「ユウコ。お姫様」


 二人の肩を強く揺らして起こそうとしたその時、ガチャリと鍵の開く音が聞こえてきた。


 終わった。社会的に終わったぜ。


「ただいまっ。パジャマパーティだったけど一人でいるお兄ちゃんが心配で帰ってきたよ。もう起きてるー?」


 起きてるけど、兄ちゃんは大変な状況にあるんだ。 


 相変わらずくっついている二人から抜け出せない俺は、すでにどうしようもないことを悟る。


 案の定、居間で寝ている銀髪の神様に驚いている妹の声が聞こえ、俺の部屋に駆けこんでくる足音。


 バタン、とドアがかつてないほど勢いよく開けられた。


「お兄ちゃん。居間に銀髪の女の子がいるけどどうしたのさっ? って何これ? どういう状況だってばよ?」


 言葉使いがおかしくなった妹はあんぐりと口を開けて固まってしまった。そのままの姿勢で一ミクロンも動かない。完璧なまでの固まり具合だった。


「おーい。妹よ。この状態の兄ちゃんを助けてくれ」


「……」


 反応がない。ただの屍のようだ。口からはエクトプラズムが出ている。


「兄ちゃんは不可抗力なんだ」


「……」


「こうしたくてこういう状況になったわけではないからさ」


「……」


 しばらくこのままの均衡状態が続く。時間にして数十秒に過ぎなかったけど、やけに長く感じられる。


 やがて妹がおもむろにロボットみたいな動きをしだして、輝きが消えた虚ろな目で語り出す。


「ありのままに今起こったことを話しましょうか。私が一人でいるお兄ちゃんを慰めようと早く家に帰ってきたかと思ったら、いつのまにか女の子三人を連れ込んでいました。何を言っているのか解りませんか? そうです。解らなくていいのです。私も何が起こっているのか解らないのですから。催眠術だとか超能力だとかそんなチャチなもんでありません。もっと恐ろしいモノの片鱗を味わっているのです。……ありのままに今起こったことを話しましょうか――」


 再生テープみたいに以下ループ。


 妹が怖い。未だかつてこんなに恐怖を感じたことはあったのだろうか。信仰しないと大変な目にあってしまうやばい宗教の教祖みたいでおっかない。


「えっと楠本さん。どうしたのですか?」


 ここで神が来た。いや、本当の神様だけど。


「神様。助けてくれ」


 俺は一生懸命に嘆願する。


 しかし神様は、この現状を見て不服を訴えてきた。


「なんだか私の扱いだけぞんざいだったり。私だけ仲間外れじゃないですか」


「ギクッ。そ、そんなことはないぞ」


「今、ギクッって言いましたっ」


「ああ、そうかもな。俺はギクッて言ったよ。それが悪いか?」


「開き直ってる?!」


 相変わらずリアクションが激しい奴だ。


「とにかくこの状況は俺の思うところじゃないんだ。妹はこの通り行動不能になってしまったし、ここから脱出するのに手伝ってくれ」


「しょうがないですね。では交換条件として、私のこともっと構ってくれますか?」


「あー解った。解ったよ。だからお願いします」


「そこまで言うのなら仕方ないですね。わかりました。私がなんとかしてみせましょう」


 こうして俺は神様の手助けによって、ようやくユウコとお姫様の添い寝から逃れることが出来た。


 まったく異世界でもないのにこんな目に合うとは思わなかったぜ。











「お兄ちゃんの不潔」


 妹の言葉がドップラー効果を伴って脳内で繰り返される。


「不潔不潔不潔不潔」


 ドップラー効果じゃなかった。現実だった。いや、現実の方が辛いけどね。


「話を聞いてくれ、妹よ。違うんだ。さっきそうなった経緯を説明しただろ。それで一定の理解を示してくれたんじゃなかったのか?」


「理解してないもん。私以外の女の子と一緒に寝ているなんてひどい」


「だったら俺はどうすれば良かったんだよ」


「知らない。そんなの」


 妹からの罵声と軽蔑するような視線が身にしみる。


 だが、俺だってショックなんだぜ。まさかこんなシーンを妹に見られるとはさ。


 だいたい妹だってよくベッドに入ってくるではないか。いつのまにか一緒に寝ているなんてざらにあることだし、今回もそういう事情だと察してくれてもいいだろうに。


 妹なんかひどいもので、俺が寝ているタオルケットなんかを勝手に取って、カーテンの金具やタンスなどに引っ掛けて仮設テントを作ったりするものだから困るんだぜ。


「で、どういうことなの? 兄ちゃんからはなんか勇者っぽいへんなオーラが出ているし、ユウコさんからは魔王っぽいオーラが出ている。それにこっちの銀髪の女の子とお姫様っぽい女の人とどういう関係?」


 一同リビングに介して集まり、妹からの申し開きはまだ続いている。


 しっかりと熟睡していたユウコとお姫様も、起きてからは服などを着る身支度を整えてこの場に座っている。神様だってその辺はぬかりはない。


 妹は部外者であるにも関わらず、俺とユウコが勇者と魔王であることを容易く看破した。これは俺とユウコに備わってしまっている『核』というのが影響しているのだろうか。


『核』がどういうものか詳しく認識できないけれど、普通の人から見ても俺とユウコが勇者や魔王であることを判別できるみたいだ。これは後々困ることになるに違いない。


 俺はユウコ、お姫様の順番で顔を見て、そして最後に神様の顔を見てから妹の方に向き直る。


「これを説明すると長くなるぞ。いいのか?」


「もちろんいいに決まってる」


 妹が頷くので、俺は少しずつ説明していく。


 まずは銀髪の少女に超常現象をさせて神様の存在を理解させ、その神様に異世界召喚でされた旨を伝える。次に俺が勇者でユウコが魔王という異世界の役割をこなしてきて、時間軸を動かさないままで戻ってきたことを話す。そして最後には戻ってきた俺たちが勇者と魔王という役割を持った『核』にいまだ悩まされていることを報告する。


「そうなんだ」


 順応が早くて助かる。


「それで兄ちゃんが勇者に見えて、ユウコさんが魔王に見えるわけかー」


「まあな。そういうわけだ。で、もう一つ別問題なのがこのお姫様」


「え? 私?」


 当事者のくせにまったく自覚がない表情をする。困ったもんだね。


「ここのお姫様はな、勇者の俺を追って逆トリップしてきたんだ」


「逆トリップ?」


「そう。俺たちが異世界トリップしてきたのと同じように、彼女が魔法の鏡を使ってこっちの世界にやってきたわけ。つまり異世界人」


「異世界人っ!」


 妹は興味津々というようにお姫様の方を向く。


 神様の超常現象にはそこまで興味を示さなかったのに、異世界人というフレーズだけで物凄い反応だ。これでは神様の立場がないじゃないか。案の定、神様はへこみにへこんでいる。


「お姫様は異世界人なんですか?」


「そうなるわ。こっちの人の基準だと」


「じゃあ、魔法! 魔法は使えるんですか?」


 先ほどまでは恋敵を見るような目で睨んでいたのに、一転して尊敬のまなざしに変わっている。


「使えるわ」


 お姫様が自信を持って言う。


 俺も妹の評価を取り戻すために会話に参加する。


「待て待て妹。俺だって勇者だから魔法が使えるぜ。ユウコだって魔法に似た魔術を使えるし」


「わ、私だけ仲間外れ?! いや、私だって全知全能の神様だから魔法は使えるはず。よって仲間外れじゃなかったりっ」


 神様が何か喚いているが気にしない。


「なんならやってみせようか」


「えっ? お兄ちゃんホント?」


 俺の言葉がクリティカルヒットだったのか、妹からの軽蔑の眼差しがなくなった!


 俺は先ほどユウコとお姫様に異能に関することで説教を垂れたのもすっかり忘れて、妹のために起動術式をイメージしつつ構築していく。『収集』の簡易魔法を展開して、粗雑に散らかっていた紙束を一ヶ所に集めてみせた。


「どうだ、妹よ」


「うーん、お兄ちゃん。私がイメージしている魔法と違う。なんか地味」


「ぐはっ!」


 妹の言葉に大きなダメージを負う。


「だったらこれならどうだ」


 俺は妹の欲求に応えるために次々と簡易魔法の起動術式を構築する。だが、妹がイメージしているような派手に展開する魔法はなく、お眼鏡にかなうことはなかった。


「お兄ちゃん。勇者といっても魔法はたいしたことないじゃん」


「剣技、剣技ならっ!」


「剣技なんてどうでもいいの。それよりも話を戻すけど、勇者の行動様式の一つでもある周りの女の子を魅了するっていうところ許していないからね」


 話が舞い戻ってしまった。しかも一番痛いところを突いてくる。


「でも、そんなこと言われてしょうがないよな」


「しょうがなくない。私を差し置いて、ユウコさんもお姫様もお兄ちゃんにデレデレ状態になって。この中で私が一番想っているのに」


「違うわ、サエ。それは私よ」


「ううん。私」


 二人も負けじと主張してくる。


「じゃあ、お兄ちゃんに聞く。そこのところお兄ちゃんはどう思っているのさ。誰を一番に想っているの?」


「俺は……」


「「「俺は?」」」


 三人が固唾を飲んで、俺の発言を待っている。


「妹を一番に想っているぞ」


「お兄ちゃんっ!」


 目を見開いて歓喜の抱擁をしてくる妹を受けとめる。 


 ユウコもお姫様も目に見えて機嫌が悪くなっていたが、これだけは譲れない。妹は家族的な意味で一番に想っているのだ。


「楠本さんはあれですね。正真正銘のシスコンだったり」


 蚊帳の外に置かれていた神様がぽつりとつぶやくと、ユウコとお姫様が深く頷いていた。


 まあ、そう思われてもしょうがないとは自分でも思うけどね。











 日曜の朝といえば惰眠を貪るのに一番適している日だと心から思うが、さすがにあれほどの騒動があった後もう一度就寝する気になれなかったので、俺は朝のニュースに興味を持った神様やお姫様と一緒になんとなくテレビを見ている。


 お姫様はテレビの中に人が入っていることをしきりに不思議がっていて、その異世界間のギャップで悩んでいる姿の可愛さに身悶えしそうになるほどときめいてしまった。


 やがて料理を作っているユウコの呼ぶ声が聞こえてきて、一応収拾のついた俺たち五人は少し遅めのブランチを仲良くいだたく。すっかり機嫌を直した妹がお姫様に異世界でのいろんなことを問いかける形で会話が進んでいき、いつもより賑やかな食卓となっていく。


 妹の質問にお姫様も真摯に答え、またお姫様もこの世界や道具(特にテレビ)などの疑問を聞くものだから話が弾んだ。


 気がつけば一時間以上経っていて、すでにお昼を迎えていた。


 一通りその話が終わると、今度は俺とユウコが勇者と魔王の『核』に悩まされている件についてを話し合いをする。人も増えればいい案が浮かぶかもしれないと思ったのだが、残念ながら良い対処法を見つけることが出来ない。


 だけど、俺とユウコはいろいろ警戒するのではなくて日常通りに過ごそうと考え直した。


 なぜなら、今のところは主だった実害は出ていないからだ。


 女の子にもてるばかりな俺の勇者としての影響はともかく、懸念されたユウコの魔王としての影響は影を潜めている。これはユウコの自制心が強いからかも知れないし、『核』の影響がこの程度なのかもしれない。


 しかし仮にもっと『核』の影響が強ければ、魔王のユウコは世界を滅ぼしたいとでも考えるのだろうか。


「…………」


 そうなったらどうなるんだ? 

 どうしようもないことなのか?


 などと考えたところでこの悩みは杞憂だと思ったね。解りもしない未来の、しかも最悪の事態に想いを馳せるなんて馬鹿げているぜ。予防線を張っておくのも必要なことだが、今ある問題に対処するほうがもっと大切に違いないな。


 だから、そうなったらそうなったで出たとこ勝負でいいのさ。知恵がないなら、せめて豪胆に行こうではないか。 


「ということは、誰もがヒサタカとユウコを勇者や魔王だと解ることなのね」


 お姫様が全てをまとめてくれた。


「そしてこっちの世界ではそれが不都合であると」


「そうだな」


 現状把握をするとその通りである。


 今の時点での大きな問題をあげるとすれば、周囲に勇者や魔王だと解ってしまうことである。妹に看破されたように、他人から見た俺とユウコは勇者や魔王としてのオーラを備えているように見えるらしい。


 勇者のオーラや魔王のオーラというのがどういうのか判別がつかないくらい抽象的な概念だけど、とにかく一目で勇者だ魔王だ、と即座に思ってしまうという。


「私の力でもその『核』を覆すことはできないし、原因究明もできなかったり」


 神様が申し訳なさそうに言う。


 最初に会った時はワープしたり時間軸を凍結させたりするもんだから、なんでもできるチートだと思ったんだけどな。今ではちょっと変わった超常現象使いってとこか。まったく慣れってものは恐ろしいぜ。今置かれている現状といい、いろんな意味でだけどさ。


「神様。それはしょうがないって昨日も言ったぞ。とにかくこうやって気にして縮こまっているのもあれだし、せっかくの休みだからどこかに出かけるのはどうだ?」


 危機感がないというなかれ。じっとしたところで何かが変わるわけでもないし、楽しくやって行こうとすることだって大切なんだ。


 それに異世界のクエストから久しぶりに帰って来て、地球人らしい健全な休日を過ごしたいのもある。


「そうね。いい考えだわ。煮詰まってしまうよりずっと大切だと思う」


「うん。私もそう思うよ、お兄ちゃん。それにせっかくだからこの世界をお姫様に案内したいし」


 お姫様と妹も俺に賛同してくれる。


 ユウコは黙って頷いているし、神様からも反対意見はでない。


「私、ヒサタカのことを追ってここまで来たけれど、せっかくだからこの世界を堪能したいわ」


「そうだよな。堪能したいよな。たぶん誰だってそう思うぜ。まあ、俺は妹が待っていたから早く帰りたかったけどさ」


「お兄ちゃん!」


 妹が両手を合わせて感激している。この手のことは常日頃から言っているけど、妹はいつだって新鮮な反応してくれるな。


「私はおいしいものが食べられたらそれでよかったり。でも、みんなでお出かけするのはいいことですね」


 初日会った時にユウコの料理をがっついていた神様らしいセリフだ。


「ユウコは?」


「私はヒサタカに任せる」


「そうか」


 これもこれでユウコらしいセリフ。


「それで私をどこに連れてってくれるの?」 


「そうだな。まずは、お姫様の貴族みたいな格好ではあれだ」


 服のすそを持って首を傾げるお姫様。すごくぐっときて絵になるしぐさだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「妹の服ではサイズが合わないしな。うーん」


 俺がどうしようか考えこんでいると、神様が期待に満ちた視線でこっちを見てくる。いかにも頼られてほしいといった様子で、犬だったら絶対にしっぽを振っていそうな感じだ。


「楠本さん。それなら私に任せてください」


 しまいには自分で言いだした。


「そうか。ならば神様なんとかしてくれ。お姫様の服を今の現代人に沿った格好に変更させ、ついでに自分も変身してくれると助かる」


「はいっ、解りました」


 返事をしたと同時に神様とお姫様の全身にもやがかかり、ボフっと音が鳴ってほんの一瞬で着替えが終わる。魔法少女もびっくりの早着替えで間違いない。


「どうですか。私の格好は」


「おう。神様にしては珍しく納得のチョイスだな。普通のセンスがあって良かったぜ」


「楠本さん。私だってやればできるんですよ」


 神様が腰に手を当ててまったくない胸を張る。


「ヒサタカ」


「どうした?」


「私はこの服に違和感を感じるわ」


「そうか。でも、なんとか慣れてくれよ」


 お姫様がTシャツとキュロットスカートの組み合わせなんてしないだろうからな。慣れるまで幾分か時間がかかるのかもしれない。


「とりあえずこれで格好整った。さて、どこに行こうか」


 大いに頭を悩ましてはいるが、お姫様と神様はどこに連れて行っても目を輝かせて喜んでくれそうな気がする。その姿が目に浮かんできて仕方がない。


「お兄ちゃん。これは地球人としての何かが試されているよ」


「いや、試されていないからな」


「試されているって。異世界人をちゃんとしたところに連れていくか否かで地球が滅亡するか決まってくるんだから」


「おい、いつそんな設定になったんだよ」


 そんなバカな話はないはずだ。どこかでSF映画でも見すぎたのかね。


「とにかく、異世界人のお姫様に納得してもらうようにしないと」


「あのー、妹さん? 私の存在忘れていませんか? 私だって一応異世界の神様なんですよ」


「えー、異世界の神様? そんなこと言ったって神様は神様だもんね。異世界人の方が私にとって重要なんだよ」


「妹さんにまで軽んじられた?!」


 神様が妹の虚言を真に受けて落ち込んでいた。


 そしてそんな神様をユウコがなぐさめている。


「お兄ちゃん。夏と言えばやっぱ祭りだよね。でも、七夕祭りは昨日までで私は友達と楽しんだしなー」


 妹が残念そうにつぶやく。


 そういえばもうずいぶん前のことになるのだが、俺とユウコが異世界召喚されることを神様に仕向けられた時、妹は友達と七夕祭りをするということでパジャマパーティをしたんだった。


「サエ。その七夕という祭りはどんなことをするの?」


 お姫様が七夕と言う単語に興味を示したのか妹に聞く。


「お姫様。七夕とは自分の叶えたいお願い事を書いて星に祈る祭りなの。でも、それより重要なのはね、浴衣というきれいな格好をして屋台でおいしいものを食べたり、楽しいゲームをしたりすることんだよ」


 その説明でいいのか、妹よ。後半部分はまるっきり違うと思うけどさ。


 お姫様はその説明で納得したのか、うんうんと頷いている。


「それやってみたいわ。特にお願い事を書いて星に祈るってところ素敵」


 どうやらお気に召したようである。


「そっか。そしたらそれは夜だな。夜の方が風情があるからさ」


 









 夜まで何をするかが問題だったけど、その相談時にたまたま行楽地で泳ぐ人々をテレビでやっていて、それに反応したお姫様と神様の嘆願でプールへ行くことになった。


 夏だプールだ水着だという三段構えなわけではないが、結果としてそうなってしまうところにそのコンテンツの魅力を感じざるをえない。異世界人と神様も興味津々なのだから、プールの影響力はすごいものである。


 プールと決まってからは女性陣が水着を選び出し、神様はなんでも出してくれる便利ポケット扱いに変わったのでちょっぴりいたたまれなくなる。まあ、神様も頼られて喜んでいるのだから、相互作用になっていいのかもしれない。


 そしてそんな中、俺はというと自分の部屋から海パンを取り出し、これを使うのはいつ以来だったかなと思い返している。すると今年は初めてで、去年以来だったことが判明した。ただ、泳ぐのは先週(といってもずいぶん前だが)のプールの授業以来である。


 そうそう、プールといえば今年のプール開きの日にある事件があったことを思い出す。いや、事件というほど大きなくくりではないのかもしれないが軽い笑い話にはなるだろう。


 で、その話なのだが、例によって三バカトリオの一員であり年上好きの山原が、一つの決心を宿して二十五メートルの潜水をすると言い出したことからすべては始まった。


 その決心とは潜水に成功したら最近上手くいっている先輩に告白するという青春の裏切りに値する内容であったため、俺たちは万が一の成功でさえあってはならないと思いここぞとばかりに団結して山原を罵倒した。


 山原は俺たちに呪いの黙示録をたくさん受けたが、それでも決心が固かったのか潜水をしようとするのを止めなかった。オマエそんなことをしても無駄だ。とうとうプールサイドでしこたま頭を打ちつけたか。これに成功しても告白は死亡フラグだぞ。などといろんな罵声を浴びせもしたが、山原は全くひるまなかったのだから困りものである。


 結局、潜水を開始するのを見届けるだけになってしまった俺たちは、山原の失敗を天に祈るしかなかった。服部なんかは、オマエどこの熱心なキリスト教かってくらいひざを折って祈っていたのだからその真剣さも窺えるはずだ。


 しかし俺たちの邪心に満ちた祈りよりも、山原の想いの方がはるかに強かったのか潜水は順調に進んでいった。あまりにも順調すぎるので、俺たちも手に汗を握ってしまうくらいだ。


 残り十メートル。五メートル。三メートル。


 ここまで来たら誰もが諦め、山原の快挙を見届けようという気になっていた。そうさ。潜水に成功したからといって、好きな先輩に告白することが成功するとは限らない。


 山原の脈ありは素人が作った砂糖入れすぎの菓子よりもはるかに甘いんだ。だから、そこは一旦離れてこの快挙を大いに称えようじゃないか。


 ここまで心変わりして、山原の潜水成功を称賛しようと思ったその時だった。


 二メートル付近で山原の足の動きが止まり、そのまま垂直に浮かんできたのだ。


 どうした、山原。オマエは願掛けをすることによって希望を叶えるんじゃないのか? ここまでがんばってしまうほどにどこまでも崇高で純粋な願いじゃなかったのか?


 ただ、それでも山原はそのまま微動だにしないので、俺は大変な事態になっているとようやく悟った。


「山原!」


 声は出せるが、助けるという行動に移せない。自分の足が硬直したように止まっている。


 俺と服部が足を縫いつけられたように動けない中、最初に行動を取ったのは飯倉だった。


「山原ぁ!」


 飯倉は叫びながらも一目散にプールへ飛び込んで、山原を水中から助け起こす。飯倉に抱えられた山原は遠目から見ても酸欠が意識が遠のいているように見える。


「山原。オマエは俺が救う」


 力強く宣言した飯倉は緊急の手口に乗っ取って、人工呼吸をし始めようとする。


 だが、ちょっと待てよ。それはやり過ぎなんじゃないか。よく状況を把握したらどうなんだ。山原はとっくに復活しているぞ。


 案の定、山原はとっくに息を吹き返していて、男同士なのに唇を奪う奪われるの屈辱な攻防戦を繰り広げていた。特に山原は大事な尊厳がかかっているから必死である。ただし、飯倉も必死なのだから状況は変わらない。


「飯倉落ち着け」


「落ち着けって、飯倉」


 俺と服部が飯倉に声を掛けるも、彼はまったく気づかない。


 やがて山原はいい加減業を煮やしたのか、飯倉に素晴らしいまでの投げっぱなしジャーマンスープレックスをかましていた。これはクラスに一人できるどうかの大技なのは間違いなかったので、飯倉の身を案じることもなく男子全員から大きな喝采が上がる。


 しかもこの瞬間、飯倉に笑いの神が舞い降りたらしく、伸縮性に優れているはずの海パンが破けてしまった。ビリリ、ビリリリリリ。小気味良い音とともに、周りは一気に大爆笑の渦になっていく。もうこうなったら笑うしかない。


「え? もしかして俺の海パン?」


 プールの中で呆然とする飯倉の表情を見て、笑いの第二波がやってきた。


 おい、飯倉。いつも必死になって話すトンデモ飯倉理論よりかもはるかに笑いを取っているぞ。失笑じゃなくて大爆笑を。


 俺たちが腹を押さえながら笑っていると、山原は飯倉に歩み寄り声をかけた。


「なあ、飯倉。いくらなんでもあれはやりすぎだ。俺はあの時点で大丈夫だった。それにオマエとの人工呼吸なんか死んでも願い下げだって解っているだろ」


「う、うるせえな。こっちだって願い下げなんだよ。だいたい俺は小さな女の子を助けるための予行練習をしたかっただけだ」


 照れ隠しなのか、支離滅裂なことを言うロリコン飯倉。やはり裸の男は何を言っても説得力がない。体を張ってそれが証明できている。


「でも、助けてくれて嬉しかったぜ」


「お、おう」


 こうして山原の告白潜水騒動から始まり、飯倉の体を張ったギャグからの大爆笑、そして仲直りという一連の流れで無事大団円を迎えた。


 後に山原がすがすがしい表情でしてこう語っている。


「たった二メートル分の想いが足りなくて遠くてさ」


 山原が太陽に手をかざしながらかなりかっこつけて言っていたけど、今回ばかりは不問にしておこうと思う。やけにかっこつけたくなる瞬間ってのが男にはあるからな。


 そしてここからは完璧な後日談になるのだが、あの時の奇跡と栄光を振り返るためのフレーズに『山原の放物線』『飯倉のビリリ』という二セットがあって、そのワードだけで一ケ月くらい経た今でも男子の間では鉄板の笑いのタネになっているのだった。


「お兄ちゃん」


 海パンを見て懐古に浸っていたら、妹がドアをノックをしてきた。


「入っていい?」


「いいけど、どうした?」


「うん。ちょっとお兄ちゃんに見てもらいたくて」


「ん? 何を?」


 俺は首をかしげるも、妹が入ってきてその疑問が氷解した。なぜなら妹が水着姿で立っていたからだ。


 妹はなぜか部屋の鍵を掛けて、ありえないことを俺に問いただす。


「ドキドキする?」


 少しだけ前かがみになり、胸の前で手を組むようにして合わせる妹。もちろんドキドキなんてしない。そりゃ、当たり前だ。妹だからな。


「どう? お兄ちゃん」


「いや、言うまでもなくしないから」


「えー。お兄ちゃんのいけず」


「それは意味が違うぞ」


 だいたい妹でドキドキするバカがどこにいるんだか。いたとしたらそいつは変態だ。てか、それにしても相変わらず胸の部分が成長していないのな。ヒラヒラのパレオタイプでごまかしているが、まったくごまかしきれてないぜ。残念だ。


「ちょっとお兄ちゃん。いくらなんでも胸の辺りを凝視しずぎ。女性の象徴だからって興味を示すのは解るけど」


 妹が恥ずかしそうに身をくねらすけど、俺には言ってやらねばならないことがある。


「あのな、妹。勘違いもほどほどにしておけよ。オマエは胸だと呼べる膨らみはないからな」


「えっ? それ言っちゃうの?!。オブラートに包むのではなく断言しちゃうの?! お兄ちゃんひどいよっ。たしかに同年代の女の子よりは私の胸はないけど、マッサージをしていればそのうち大きくなるに決まってるよ。なんならそのマッサージをお兄ちゃんに任せてもいいけどね」


「マジで? いいのか?」


「ち、ちょっと待って。今の言葉を本気にしちゃうの?! なんだか目が本気になっているよ」


 妹が焦ったように後ずさる。


 この本気で恐れられている現状を見て、揉む気なんか一つもないのにいささかがっかりである。


「てか、冗談だぞ。誰が好き好んで妹の胸なんか揉むかよ。そんなのありえないって解るだろ」


「だよね。お兄ちゃん。いくらお兄ちゃんでも私の覚悟が出来ていないうちはダメだって。でも、覚悟できたらその時はお兄ちゃんに揉んでもらっても」


「なあ、もうその話題飽きたから止めないか?」


「ひどいっ! 話の途中なのに。そんなこと言うなら今ここで脱ぐよ。脱いじゃうからね」


 自分を担保にし始めた妹の愚行に、俺はあっさりと断言しておく。 


「誰も得しないから止めておけ。それと俺も海パンを服の上から穿きたいから出てってくれ」


「はーい」


 妹は肩を落として、ようやく俺の部屋を出ていった。


 まったく何がしたかったんだろうな。謎は深まるばかりだぜ。











 海パンを穿こうとズボンを脱ぎかけたが、妹が部屋を出たと同時にユウコとお姫様と神様が水着姿で入ってきた。三人ともいろどりみどりの水着で目に毒なのは間違いなく、俺はただそれを黙って呆けて見ているだけだ。


「どうかしらヒサタカ。この水着というのはドレスよりも布が少なくて恥ずかしいけど、ヒサタカが喜ぶと思って身に着けたわ」


「ヒサタカ。私は似合っている?」


「私も似合っているか聞いてみたかったり」


 三者三様の問いかけだが、いっぺんに答えられない。


 格好はお姫様は情熱の赤いビキニ、ユウコが白のワンピースタイプ、そして神様が紺のスクール水着。それぞれが自分の身体的特徴にあった格好をしていることは間違いないのだが。


「できればプールサイドで見たかったな。その眩しいくらい似合っている格好を」


 俺がユウコとお姫様を褒めたたえていると、妹がひょっこり顔を出して文句を言ってきた。


「お兄ちゃん。私が入ってきた時と反応が違うよ。ずるい」


「ずるいって……そんなの当たり前だろ。ユウコもお姫様もここまで完璧に水着が似合っているんだからな」


「え? 私は入っていないのですか?」


「あ、オマエの水着は論外だった。ごめん」


「ちょっと楠本さん、今のは絶対に失礼ですよっ。特にごめんのところが」


 神様が喚いているが、説得力のないスクール水着で騒がれてもこっちは困る。


「ということは私、神様よりは上なんだね」


「楠本さんはともかく、妹さんまでナチュラルに失礼だったり」


 神様がズーンと落ち込んで、ユウコがそれを慰めるいつもの構図が出来上がっていた。俺も神様を慰めようかと思ったけど、やっぱりめんどくさいので止めにする。


 それに大事なことをみんなに言わなければならない。


「なあ、水着の格好はいいとしても、プールの場所を決めていなかったよな」


「そうだったよ。お兄ちゃん」


 と、妹がしまったとでもいうように呟く。 


 そして誰もが虚を突かれたような顔をした。


「これから行楽地に出かけるには時間があまりにも足りない。かといって、近くの市民プールだとしても人がいっぱいで都合が悪い。そもそも勇者、魔王、お姫様、神様と悪目立ちする俺たちにちょうどいい場所などあるのかって話だが」


 俺は全員に語りかける。


「私がプールの空間を作って、そこで遊べばいいと思いますが」


 神様がぴしっと手を上げてとんでもない主張する。ていうかそんなことできるのか。それは素直にすごいな。


「それもいいかもしれないけど、それではなんか味気ないぞ」


「そうですか」


「なら、どうすればいいの? ヒサタカ。私は異世界の人間だからプール事情なんて詳しくは知らないけど、とにかくテレビで映っていた人達みたいに楽しみたいわ」


 お姫様が口を尖らせて言う。


「そうだよな、お姫様。そこでだ。俺の友達にプールを所持しているくらい大きな家を持つ服部という奴がいるからそいつを頼ろうと思う」


「服部先輩って、あの変態先輩とは違って優しくていい人だよね、お兄ちゃん」


「まあ、そうかもな。バカだけどさ」


 優しいかどうか知らないけど、女の子を前にするといい人止まりな服部。ロリコンで妹狙いの飯倉や年上好きの山原とは女の子に対するアグレッシブさで大違いだ。


「とにかくさ、俺とユウコが勇者と魔王である影響力を一般人で試すには俺の友達が格好の相手といえるに違いない」


「そうですね。私も神様として勇者と魔王の行動様式に影響を及ぼしている『核』への対策を考えなくてはいけませんから、誰かへ遭った時にどうなるかの判断材料はあった方がいいと思います。かといって、いきなりまったく知らない一般人に影響を与えるのもどうかと考えていましたので」


「そうか、なら決まりだな。それでいいか? 他にも飯倉と山原の二人を呼ぶけど」


「ん。ヒサタカが決めたのなら」


「私もヒサタカの言うことに従うわ」


「ちょっと待て、お兄ちゃん。あの変態先輩も来るの?」


 妹の天敵である飯倉の存在を警戒している。無論、俺だっていつもならかわいい妹を近づけたくないけど、今回の場合は問題ないだろう。


「それに関しては大丈夫だと思うぞ」


「ホント?」


「ホントだ」


 俺は神様の方をちらりと見る。たぶん飯倉の犠牲になるのはよりロリ度の高い美少女神様のほうだ。


 妹は俺の視線の先を見て納得したのか、ほっと胸をなで下ろした。


「さて、それじゃあ順繰りに電話していきますか」 


 コンセントに繋がれていた充電器から携帯を取って、まずは服部に電話を掛けようとする。


 ――トゥルルル。トゥルルル。


 しかし俺が電話を掛けるっていうのに、みんな離れないでくっついて耳をそばだてている。


 展開が気になるのは解るが、ちょっと待ってくれ。自分たちが悩ましい水着姿なことを忘れてないか。特に素晴らしいスタイルを持つお姫様の胸の感触が気になって仕方がない。


 そのお姫様はというと携帯に過剰な興味を示してるのか、俺の懊悩にまったく理解を示さないから困ったものだ。胸が形状変化するくらいまでくっついてきて、携帯を凝視している。


 そしてそれに対抗してか、反対側に位置しているユウコもスレンダーな身体を当ててきた。スレンダーながらも出るところはそれなりに出ていて、胸の感触はいやでも解ってしまう。


「ユウコもお姫様も少し離れてくれ。後、妹と神様も俺の背中に体を預けて大根おろしみたいな感じですりすりして遊ぶなっ」


『楠本?』


「あ、やべぇ」


 電話がいつのまにか繋がっていた。


『おい、やべぇってなんだ? それよりもなんか女の子の雰囲気がすごいするぞ』


 しかも勘付かれた。なんという嗅覚だ。


『どういうことだか説明しろ、楠本。どういう状況にくんずほぐれつしているんだ?』


「や、説明はめんどくさいから用件だけ言う。うちの妹も含めて女の子四人連れてくから、服部の家のプールで泳がせてくれ」


『は?』


 意味を理解できなかったのか聞き返してくるので、俺はもう一度ゆっくりと説明してやった。


『……ちょっと待て楠本。それマジで?』


「今回ばかりはマジだ」


『……マジかよ』


 電話越しでもかなり驚いている感じが伝わってくる。


『楠本。何をしたらこんな大盤振る舞いが出来るんだ? オマエ、俺たちは仲間じゃなかったのか?』


「ああ、仲間だよ。ってそんなことはなどうでもいいけどさ、どうなんだ?」


『どうなんだって何を言ってんだよ。もちろんいいに決まっているじゃないか。ありがとう、楠本! オマエに感謝する!』


「そっか。じゃあ、いつものメンバーを呼んでおいて。で、一時過ぎくらいにオマエんちへ行くから」


『わかった。俺は最高のおもてなしをしてやるぞぉぉぉ! オー!』 


 服部が暑苦しいので適当にやりすごして電話を切った。


 俺はなおもくっついているユウコとお姫様を丁重に引き離し、さらには背中にぶらさがっている妹と神様も振り払ってから全員に告げる。


「これで承諾は取れたから、みんなはもう一回服を着直してから服部の家に行こうぜ」


 俺がそう言うと、女の子全員はうなずいてくれた。






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