いきなりイベント
とりあえずと決めた宿は1泊2000カナだが半額1000カナ。
宿の受付でカードを見せて1週間分を前払いして部屋に入り装備を外して一息ついた。
今日は色々ありすぎた。
まだ日は高いが食事をして翌日からに備えて早めに休もう。
生活に必要なものを揃えないといけないし、水筒や携帯食、後はヒロ君が背負っていたような大きなリュックがいる。
剣と鎧だけでは冒険は出来ない。
そんな事を考えながらうとうとしているとドアをノックする音に目が覚めた。
窓から見える空は既に暗くなっていて大きな月が2つ輝いていた。
2つだ。
まあ異世界なら不思議じゃないな。
ちょっとしたショックを受けているともう一度ノックされた。
当たり前だが開けはしない。
俺は常々日本人の警戒心のなさは異常だと思っている。
ましてここは日本ではない。
剣を取り、鞘から引き抜いて扉を警戒する。
最悪いきなり殺人も辞さない覚悟だ。
「誰だ」
「カイさんヒロです」
その声は昼間会った少年の物で、警戒しながら扉を開けると確かにヒロ君だった。
しかし色々違った。
まず雰囲気が違う。
やわらかい感じだったのが冷たい感じがする。
次に剣を3本持っていたのに短い方の剣が1本無くて2本しかない。
そして黒い皮の鎧だったのに白い金属製のプロテクターのような物になっていた。
「話があります。いいですか」
「いいよ、とにかく中へ。その辺に座ってくれ」
いきなり俺を訪ねてくるとは何の用事だろうか。
俺が借りたのはそれほど広い部屋ではないが、作業用なのか一応テーブルがあるので俺達はそれを挟んで向かい合うように座るとヒロ君は背負ってきたバックパックの中から水晶玉の様な物を取り出した。
確か目と呼ばれていたアレだ。
テーブルに置かれたのはギルドで見たのと同じに見えた。
「ギルドに行ったならこれが何か知ってますよね」
「目って呼ばれてたね。多分魔法の嘘発見器だろ」
「そうです。ちょっと持ってください」
ヒロ君が手渡して来たので何も考えずに受け取った。
何だ。
聞きたい事があるって事か。
「カイさん。貴方はギルドに行きましたか」
「ああ、行ったよ」
目は青く光った。
ギルドでもそうだったが、本当の事を言ったら青なんだろう。
「貴方は女神に会いましたね」
「ああ、会ったよ。言ったよね」
目はまた青く光った。
「貴方はカーナに会いましたか」
一瞬答えに詰まった。
言っていいものかと。
「会ったよ」
目は赤く光った。
嘘を言えば赤くなるか。
うん嘘は通じないな。
だがヒロ君は続けた。
「貴方はカーナではなくローに会った」
「知らないね」
目はやはり赤く光った。
知らないと自分に言い聞かせても無駄だった。
「貴方は理を無視する万能無属性魔法を貰いましたね」
「俺は誰にも話して無いし、君に会ってからギルドに行って直ぐにここに来た。何故知ってるんだ」
彼は間違いなく知っている。
だが何故だ。
もしかして彼は相手の能力を見ることが出来るのか。
「今見たとようにその目は本物です」
手を出されたので目を渡す。
「俺は別に相手のステータスを見る事が出来るわけではありません」
目は青く光った。
「貴方がローに会ったのも、万能無属性魔法を貰ったのもある人から聞きました」
目は青く光った。
「俺は言ってないはずだ。それとも何か知らない間に俺は話したのか」
気付いて無いだけで話をさせられてしまったか。
だがヒロ君は首を横に振った。
「貴方は自分の意思でその人に話しました」
「覚えが無いが何時だい」
「2年後ですね」
目は青く光った。
2年後に俺が話しただと。
それでは目の前のヒロ君は。
「つまり君は未来から来たって事かい」
「そうです。貴方は今日この世界に来た。だから俺はこの日を選んだ。まあたぶんこの辺だろうと思って10日くらい待ってましたけど」
目は青く光った。
未来から来たと言う。
しかも嘘を言ってないと証明するために目を持って来たと。
信じられないと言いたいが言い切れない。
「貴方は明日迷宮にもぐる。だが初心者を狙っている連中と戦いになって5人を返り討ちにしますが左手を失います」
目は青く光った。
つまり俺はいきなり躓くわけだ。
「この世界では腕をなくしたら戻りません。だから貴方はずっと片手で生きて行く事になった」
「それを伝えにきてくれたって事かい」
「それもあります。けど俺が貴方と初めて会ったのはもっとずっと後ですけどね」
目は青く光った。
本当ならこれはとてもありがたい。
片腕で生きていくなんて考えられないしな。
だがそれだけではないようだ。
「ちょっと待ってくれ」
整理しよう。
彼が俺と始めてあったのはもっと後と言った。
だが俺は今日彼と互いに初対面だった。
つまり今目の前にいる彼の歴史と既に違うと言う事か。
「続けてくれ」
「はい。単刀直入に言います。カイさんに手伝って欲しい事があって来ました」
「この世界に来たばっかりの俺に。一応聞くけど内容は」
「一緒に来て欲しい場所があります。そして倒して欲しい相手がいます。俺ではアイツは倒せません」
それはは血を吐くような、とてつもなく苦いものを飲み込むようなそんな様子だった。
ヒロ君が倒せない相手とはどんな奴だろうか。
「何処に」
「4年前に」
「相手は」
「魔王配下の七魔人の1人。月のジャン」
魔王の配下の七魔人とかどう考えてもボスだろ。
レベル1の俺に死ねと言うのか。
「無理は承知です。ですがどうか、どうかお願いします」
彼は立ち上がって深く深く頭を下げた。
見事なお辞儀だった。
「とりあえず全部話してくれないか」
何はともかく知らない事には話にならない。




