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借金した



「探索者ですか」

「ああ、さっき金を稼ぐ方法として小耳に挟んだんだが、そいつはいわゆる冒険者なんだろ。迷宮に挑んだり素材をはぎとったりする」


知ってはいるが知らないふりをした。

ヒロ君はそんな俺に疑問を抱くことなく話し出した。


「そうです。お金を稼げるのは間違いないですよ。ただし命の危険があります」

「それは、そうだろうね」

「けどカイさんは魔法を使えるみたいですから無理しなくても魔法ギルドで仕事を斡旋してもらえます」

「魔法ギルド」 

「そうです。この世界で魔法使いって言うのは案外少ないんですよ。けど魔法使いにしか出来ない仕事って結構有りまして。だから魔法使いって割と楽して稼げます」


それは魅力的だ。

しかし魔法使いがそんなに稼げるなら探索者に魔法使いはいない事になるがさっき鎧を着た男達と杖を持った男が一緒に歩いていた。

おそらく同じパーティーメンバーだ。

つまり魔法使いでも探索者になる人間がいると言う事になる。


「なら探索者になる魔法使いって言うのは」

「はい、それとは比較にならないくらい稼げるからです。でもカイさんは、その、えっとそこそこの魔法使いなら魔法ギルドで1月働いて10万カナくらいだそうです。カナってのはお金の単位で1カナで5円くらいです」


ヒロ君は非常に言いにくそうな顔をした。

言わんとする事は分かる。

社蓄だった俺が楽して稼げるならそっちを選ぶべきだと。

本当に1月50万を楽して稼げるなら普通はそっちを選ぶだろう。

しかし駄目だ。


「駄目だな」

「どうしてですか。仕事内容も魔力結晶から魔力を抜いたり込めたりする割と簡単な仕事ですし、勝ち組ですよ」


確かにそれだけ稼げれば勝ち組だ。

話通りなら簡単な仕事だ。

だが嫌だ、


「魔法ギルドってのに属せば金は稼げるけど上司からの命令が来るだろう。俺はもうノルマとか沢山なんだよ」


ノルマとはこれだけはやらなければならない数字を指す。

おもいだすな。

一月に契約金の額を決められていて、それをこなさなければ存在価値が無いかのように扱われる。

俺が勤めていた業界はそれが当たり前だった。


「魔法ギルドと言う場所があそこまで酷いとは思わなけど、話を聞く限り売り手市場である以上殿様商売くらいしてそうだし」

「殿様商売とは」

「ああ、つまり偉そうに強気で売るって事さ。これが無いと困るだろってね」

「なるほど」


俺の知る限りそう言った職場は上役が部下を思いやる事が無く、部下も部下で感覚が麻痺して自分が偉いと勘違いしていしまう事が多い。

そんな職場はお断りだ。


「俺は何にも縛られない!俺は自由に生きるんだ!」

「はあ、そうですか、そうですか」


そうだ俺は自由だ。

そのために仕事を辞めて社蓄を辞めたんだ。


「けどお金貸してください。お願いします」

「あっはい」


現実は非情である。 

俺はヒロ君に頭を90度下げた。

何をするにも金が要るのだ。

借金とは絶対にしてはいけないものでその末路を知っている俺だが無一文ではどうにもならなかった。

出会ったばかりの、しかも年下相手にいきなり借金の申し込みなどありえない。

だがヒロ君は嫌な顔をせず背負っている鞄から皮の袋を取り出して俺に差し出した。


「えっと今もっている分はこれだけです。けどこれだけあればそこそこのレベルで準備が出来ると思います」


中を見ると五百円玉くらいの金貨がジャラジャラと入っていた。

 

「50万くらいあります」


出会ったばかりの俺にその場で50万カナをポンと貸してくれた。 

つまり日本円で250万くらいを簡単に。


「余裕が出来たら返してください。急ぎませんから」 

「ありがとう!本当にありがとう!」


再び頭を90度下げた。

利息なし催促なしで余裕が出来たら返してくれた良いと。

あの年でそんな真似が出来るとは余程稼いでいるらしい。

俺もそうなれる様に努力しよう。

そう努力だ。

誰かに迷惑かけないでしかも自分の力で勝ち取るのだ。

そして必ず返そう。


「その、一緒に来ませんか。これでも屋敷を持ってますし部屋の空きもあります。家には先輩と後輩がいまして後輩とは一緒に迷宮にもぐってます。探索者をやるなら一人でやるより俺達と一緒にやった方がずっと安全です」 


これまで話して彼の人となりは大体把握出来た。

彼は善良であり、これも善意で言ってくれている。

あの仕事をしていた時は人の善意には付け込み、人の心の弱い部分を突いていた。

すなわちお金が欲しいと言う誰でも持っている気持ちを刺激して契約に持って行く。 

客に対して利益を出すように頑張ろうなどとそんな善意は一切無く、契約を結べば後はどれだけ追加で金を引っ張れるかを考えていた。

我ながら度し難いがそれに疑問を持つ事も無く働いていた。

そんな俺には彼がとても眩しくて直視出来ずに目をそらした。 


「申し出はありがたいんだが、その、何だ、とりあえずしばらくはゆっくりやっていこうと思うんだよ。ほらRPGでも序盤の手探り感が一番おもしろいだろ」

「それは分かります」


俺の言いたい事に思い当たる事があるのかうんうんと頷いた。


「けどここは現実です。戦いで攻撃されたらゲームみたいにHPで受けるとかはありません。当たり所によっては街の直ぐそばに出るような魔物の一撃でも死にますよ」


確かにゲームによってはHPが最大でも残り1でも行動に変わりが無い物が多い。 

しかし現実ならダメージを受けたら動けないしそのまま死ぬ事もあるだろう。

1人なら助からないしそうなる可能性も高まる。

だがそれは分かっていた事だ。


「そうだろうね。けどそれをひっくるめて楽しみたいんだ。俺はここ数年楽しいって感じた事が無いんだよ。ただただ毎日が苦痛で」


ふふふと乾いた笑いが出た。

体は泥に浸かっているように重く、頭は霧がかかっているようにハッキリしない。

自分が何をしているのか、何のためにそんな事をしているのか分からなかった。

だが今は違う。

なら全力で全てを楽しむのだ。

  

「そ、そうですかそうですか。まあ無理にとは言いませんが」

「すまないね」

「いえ、でも何か困ったことがあれば言ってください。これでもこっちでは俺の方が先輩ですから」


なんて良い少年だ。

そんな彼を騙すような事をしていてなけなしの良心が痛んだ。


「とりあえず武器屋に行きましょう。初期装備のアドバイスしますよ」

 

俺にとって武器屋とはゲームで最初に行く店である。

ヒロ君に連れて行かれたのは大通りに面していて人の出入りも多い大きな店だった。

店内はそこそこ明るく所狭しと様々な武器が並んでいて、それぞれに値札が貼られていた。


「何はともかく防具を買いましょう。攻撃は魔法主体でも剣と出来るだけ軽くて防御性能の高い動き易い鎧。それから少し重くても頑丈な盾を買う事をお勧めします」

「そうなのかい。魔法使いなら杖とローブの類じゃないのかい」


魔法使いは離れて魔法を撃つからとにかく防御よりも火力が俺の考えだ。

装備は重い鎧ではなく物理より魔法に耐性のあるローブ。

魔法の威力を上げる杖。

もっとも、この世界で杖が魔法の威力を上げるのかは知らないが。


「駄目です」


そんな俺をヒロ君は一蹴した。

 

「パーティーを組んで仲間と迷宮に行くならともかく、1人で行くなら絶対に防具は必要です。それと剣と盾」

 

しかも絶対と来たか。


「不意を突かれたり、魔法でしとめ切れなかった時に接近されたら防具なしでは一発でアウトです」


そんなわけで俺は動き易い鎧と言うより重要部分を守るプロテクターに似た物を買った。

お値段なんと20万カナ。

なにやら特殊な金属を使っていて見た目よりずっと軽くて頑丈。

武器のほうは一般的な剣でロングソードっぽい奴を買った。

お値段は2万カナ。

最後に金属で表面を覆われた盾。

そちらもお値段2万カナ。

基本的に数売りの武器は安いらしい。

もちろん武器はピンキリでこの武器屋で店の奥に飾られているいかにもな剣はなんと300万カナである。

刀身には何か細かい文字が刻まれていて戦闘中に道具で使うと魔法の効果とかありそうだ。


「あれ、でもヒロ君盾持ってないよね」


剣を3本も持っているけど盾を持っていない。

ヒロ君は少しばつの悪そうな顔をした。


「そうですね。俺は二刀流ですから盾持ってないんですよ」


二刀流とかロマンだな。

攻撃特化だ。


「だからこそ盾が欲しいって感じる場面がありまして。例えばこう、矢が飛んで来たらどうするかって事で。俺は避けるか剣の腹で受けるしかありません。もちろん剣で受けたら剣の軸にダメージが入りますから基本避けます。連続で飛んで来たら、まあ、何とかします。時代劇みたいに刀で切り払うなんて不可能です。物理法則がありますので」

「そりゃそうか。まして漫画みたいに弾丸を刀でキンキンキンなんて無理だしね」


飛んできた矢を正面から剣で斬ったら、2つに分かれても進む力は失われないから刺さるだろうし。


「だからとっさに何かを防ぐための盾です。備えあればですよ」


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