雨宿りの代償
なろラジ大賞参加作です。
土砂降りだった。
黒い雲が空を覆い昼だというのに薄暗い。
びしょ濡れになる前にと小さな軒先に駆け込んだ。
建物の前には鉄骨が屋根を作っている。錆びた廃れたガソリンスタンドの跡地だろうか?
「ひでぇ降りだ」
独りごちて滴る水を払う。
雨脚は強く軒先の向こう側の道路は白く霞んでいる。電波も圏外。
最悪のタイミングで、ソレは現れた。
奇妙な自転車に乗って……。
鮮やかな青のフレーム。
サドルもハンドルも異常に高く、まるで竹馬に乗っているかのようだった。
それを操るアレは、人……、ではない。
形はかろうじて人のように見えるが、全身乾いた土のような灰色の皮膚に覆われ、関節がありえない方向に曲がっている。頭部に目鼻もなく、ただ大きく裂けた口があるだけ。
その口が俺を向き横に伸びた。
雨音は激しさを増す。
アレは雨など気にもせずゆらゆらと進んでくる。サドルには乗らずフレームにしがみ付くような格好で。
やがてソレは俺のいる道の反対側にある電柱に自転車を立てかけた。
ギィッ、と軋む金属音。
顔のない頭部が不自然な角度でクイッと傾く。
「ウゥ……」
雨音の合間を縫って不快な声が脳内に響いた。
喉から絞り出すような声が。
アレは親指と人差し指で何かを弾くように動く。
次の瞬間、俺は背後の壁を蹴って横に飛ぶ。
直感だった。
死から逃れる危機感だった。
直後、俺の背後にあった建物は崩壊していた。
チリン……。
自転車のベルの音。
可愛らしい無邪気な音色、だがその音は、必死で逃げる俺の背後から迫る存在を告げていた。
建物の裏手にあった背の低いブロック塀を乗り越える。
雨で滑り肘を強く打ったが痛みは感じない。
振り返るとアレはまだガソリンスタンド跡地に立っている。
自転車は立てかけたまま。
サドルに手を置くアレは、遠目からでも分かるように大きく笑う。
「チリン」
ベルが鳴る。
ふいに背後を見ると建物の陰から別のアレが現れた。
今度は真っ赤な自転車にまたがるアレが……、。
二匹目は、赤の自転車に奇妙にねじれた体で乗っている。
突如その二台が俺を追って動き出す。
降り注ぐ雨粒を切り裂いてソレらは追ってくる。
ソレらが追ってくる限り俺は走るのをやめられない。ソレらは俺がいつかは力尽き止まることを知っている。
土砂降りの中、自転車に乗ったアレらとの終わりの見えないサバイバルが始まる。
「チリン!」
ベルの音が耳の奥で恐怖を掻き立てる。
俺はただ泥まみれの道をがむしゃらに駆けるしかなかった。
終
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