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バフラーム砦にて

峠での戦闘の後は、何の襲撃も無く私達は北に辿り着いた。

馬車で四日の距離を徒歩含めて四日で辿り着くって、私達がオーク隊(体)だからかしら。


そしてこんなに早く目指した地に辿り着いたのに、私達は私の目的地であるヘシュム女子修道院に向かわなかった。

向かえなかった、というのが正しい。


北の地は、バフラーム辺境伯の領土である。

私達はカイヴァーンよりも確実に背も体も大きな兵士達に領地に入った瞬間に囲まれ、辺境伯の住む城へと連行されてしまったのである。


バフラーム辺境領は、国境を隣国や魔物たちから守っているこの国の盾。

屈強で有名な兵士がモロモロいるのだ。

ヘタに暴れたところで次から次へと「屈強な戦士が現れた!!」となるならば、素直に連行された方が生き残る確率が増える、それだけである。


私達は王都の王城からは想像できない、要塞として本来の目的で存在する辺境伯の居城に兵士達に案内され、謁見室ではなく応接間らしきところに通された。

もちろん、ずっと私達よりも身分の高い辺境伯は、大きなソファの真ん中にどしっと座って私達を待っていた。


お茶菓子も無く、主人が格下を待っていたなんて。

普通は私達を招いてから一時間くらい待たせてから、物々しく入室するものだけど、辺境伯にはそんなすごい人演出など必要ないのであろうか。


だって彼は、こんな私でもすぐに腰を折らねばと思わせる、凄い威圧感や存在感をお持ちの方なのだ。

もちろん私は入室した途端に、彼に敬意を示して王城でするような礼を捧げた。

が、カイヴァーンは一兵士であるからか、アブを抱っこしているから仕方がなかったのか、軍の兵士が上官に向けるような胸に手を当てる簡易礼だけである。


いいの? とカイヴァーンの無作法を不安に思ったが、私達を出迎えた辺境伯こそカイヴァーンを丸無視だった。

なぜか私だけにしか話しかけてこなかった。


グローリア・マーフ嬢ですね、の後に、お館様があなた様にお話があります、どうぞそこにお座りください、と全部家令のセリフですけれど。


でも、私しか辺境伯が意識を向けていないのは事実だ。

カイヴァーンは戦士に囲まれるや私からアブを取り上げてしまったから、今の私はオークでも何でもない単なる少女だから?

勇猛果敢で公正な方だと誉れ高いバフラーム様も単なる男だった?


でも、と辺境伯を見つめる。

座ってても分かるくらいに、彼はカイヴァーンよりも背が高く、カイヴァーンよりも肩幅もある大きな体をしている。大きいだけじゃない。老齢を感じさせない筋肉質で活力のあるものだ。白髪は年齢を感じさせないぐらいに艶やかで豊かで鬣みたいで、辺境伯は白い獅子の化身みたい。


「マーフ嬢、どうぞお座りください」


辺境伯の後ろに影のように控えている家令が、なかなかソファに腰かけない私にとうとう焦れてしまったのだろう。声が強い。だけど、と私は動かず立ったまま。


「わたし、ヘシュム女子修道院に行く予定ですの。あなたとの愛人契約は結べません!!って、きゃっ」


私の後頭部に軽い衝撃を受けたのだ。

カイヴァーンが私の頭を叩いたのである。


「叩くって酷いわ」


「お前ひとりで死ぬのは構わんが、俺とアブを巻き込むのはやめてくれ」


「え。ええ? 私は修道院に行く人間です。あなたとアブはその付添いですからこの地に敵対行為することなど何も考えていません。そう続けるつもりでしたのよ? あなたは私をどれだけ薄情者と思っていらっしゃるの? 傷ついたわ。さあ、アブを私に寄こしなさいな。癒しが必要だわ」


私はアブを取り戻そうと手を伸ばすが、その手はカイヴァーンにあっさりと振り払われた。アブこそ私に手を差し伸ばして、私に、抱っこされたがっているのに。


「良いからお前は辺境伯様に失礼のないように、辺境伯様のご要望にお応えして。たぶんも何も、お前みたいな小娘に辺境伯様が懸想するって無いからな」


「まああああ。これでもわたくし、夜会では真珠姫なんて持て囃されていましたのよ。それなりに美しい顔立ちであると、自負しております」


カイヴァーンは大きく溜息を吐くと、私の肩に両手を置いた。

それから力任せに私の体の向きを、辺境伯の方へと向けたのだ。

すると辺境伯達は、私が彼等の方へ向いた途端にびくっと震えた。ふふふ、間接呪いで今の私もオーク顔ですものね。うん、これで私を愛人にしようなんて邪な考えも消えた事でしょう。


「それで、お話って何ですのって、何なさるの、カイ!!」


やっぱりカイヴァーンに後頭部を叩かれたのだ。

カイヴァーンはずしっと重く感じるぐらいの力を込めて私の肩を掴み、私の耳元でものすっごく低い声で囁いて来た。


「バフラーム閣下は、この国の要の方。王の挿げ替えは出来ても、この方は挿げ替えることは出来ない。理解した?」


「でも、英雄色を好むって」


「好んでも君はないわ」


「そんな!!アレはアレだから私よりもアレを選んだのでしょう。アレよりも素晴らしい人だったら私を選ぶはずです。あなたまで私がアレ以下だったと言うのですか」


「言わんけどな。君、すっごくイイ性格していたんだな」


「グリは、いちばんきれいよ。ぼくはいちばんすき」


「ああ。私の愛しい子はあなただけよ。アブ!!カイみたいな意地悪さんにならないでね!!」


「いいかな。こちらの要求を聞いてくれたら、すぐに解放してやる。君達がどこで野垂れ死のうが、私は一向にかまわないからな」


私は初めて口を開いた辺境伯を注視してしまった。

物凄くいい声だわ。

背骨にビシビシ響く、なんて素晴らしいバリトン!!


「あら、まあ。こんな素晴らしい声、はじめて」


「なんかお前を火炙りにしたくなった奴らの気持がわかってきた」


「カイは本当に意地悪さん。それで、辺境伯様。要求って何ですの?」


「まずは腰かけてくれないかな」


「あ、そうね。座りましょう。カイ、アブから紐を外して下ろしてあげて。ねえ、アブ。あなたはずっと縛られっぱなしで疲れちゃったわよね。甘いお茶を飲んでゆっくりしたいわよねえ」


「いや、だからさ」


「赤ん坊に私が何かするわけ無い。ほら、お菓子とお茶の用意を。このご婦人はもてなしの品が無ければ席に着く事さえする気がないようだ」


私は話がわかる辺境伯に向け、出来る限り魅力的に見えるように微笑んだ。

アブに触れているからオーク顔でしかなくて、マナー講師が仕込んでくれた笑みにはなっていないかもしれないけれど。


「ああ、そういうことか。俺は本気で君を火炙りにしたくなってきた」



この回振り返り

カイヴァーン「………。」

グローリア「黙り込んでしまってどうなさったの? カイ」

カイ「グリは辺境伯のこと、すっごく褒めるよね。俺はオークである時とか、オークでも、とか」

グリ「焦げ茶色の短く刈った髪は無造作というよりもおしゃれな紳士というもので、青い瞳は理知的。鼻の形は」

カイ「ごめんなさい。褒めてもらってました!!そして棒読みで再読されると、羞恥プレイです!!」

アブ「おにちゃが、ごめんんさい。ぐり」

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