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峠にて

私達は真夜中になると宿屋を出た。

ありがたいことに土砂崩れを起こした雨は止んでいて、連れ回す予定のアブを雨に濡らさずに済んでホッとした。

ついでに、私達は不通の街道を迂回するんじゃなく、不通となっているその道を行くのだそうだ。土砂がぶちまけられた道を? どうやって?


悩む必要なんて無かった。

カイヴァーンは土魔法に特化しているらしく、土砂の中に道を作ってしまったのである。私達が歩くには何の不都合もないどころか、歩きやすい道を。


さて、幼いアブであるが、彼は宿屋で眠っていた状態そのまま、カイヴァーンの体に紐で縛り付けて運ばれている。ぜんぜん起きない所に器の大きさを感じるが、もしかしてこれもカイヴァーンの魔法なのかしら?

だとしたら、属性が違う。


多属性持ちで、それもこんな大技も使えるって、彼は一体何者なの?


私はカイヴァーンの背中を見つめる。

アブを抱いてオークになっている彼だが、後ろ姿は人間のまま。

毛布をすっぽりと頭から被っているけど、均整の取れた体つきはよくわかる。

彼の後姿って何て素敵なんだろう。

眺めていると、彼が急に振り返った。


「疲れたのか? それとも寒くて毛布が欲しくなったか?」


「後ろに目が付いているの? 後ろ姿が素敵だなって見ていただけです」


「う。そ、そうか。毛布いるか?」


「だからいりません。毛布は貴方とアブを隠す大事なものでしょ」


カイヴァーンが決して手放さないその毛布だが、実は認識阻害の魔法が掛かっていると聞いて、私はとてもぞっとしたものだ。気軽に敷布にしちゃいましたから。


「馬車では君が俺をじっと見つめてくるから驚いたよ」


「私も驚いたわ。そんな魔法が付与されている毛布を敷布代わりにしても何も言わないのだもの。魔法は剥げていないわよね」


「剥げるかよ。付与魔法だぞ?」


「剥げないものなの?」


「付与魔法付の道具を使った事も無いのか? 君はええと、あれ、君の魔法は物の記憶を読むって奴だっけ?」


「そう。私一人が記憶を読むんじゃなくて、記憶を映像化できるの。それで適当に用意した壺やティーセットにその魔法を掛けて披露したのよ」


「あ、あ~それでか」


「なにがそれで、なの?」


「君は馬鹿なのか?」


「私の学園での成績は、三番以下に落ちたことはございません」


「勉強できる馬鹿か。一番厄介だな」


「酷い侮辱だわ」


「そうかな。考えてごらん。君が全校生徒集めて、死んじゃった子が閉じ込められた倉庫の扉にその魔法を使うんだ。そしたら?」


「ああ、それで倉庫が燃えていたのですね。倉庫が燃えたから小柄な女の子が頑張って窓までよじ登って落ちたのかと思ってましたが。そう、私の魔法で真実が暴かれないための証拠隠滅でしたのね」


「君さ、協力者には事実全部詳細に説明しようね。でないと、助けられるもんも助けられねえんだよ!!」


最後は私を突き飛ばしながら怒鳴ってきた。

私は尻餅をついたが、私がいた場所に銛のような物が刺さった。

そしてカイヴァーンは、振り向く動作のまま右腕を大きく振る。

いつのまにか、彼の右手には輝く剣が握られている!!


「ぐあ」


魔鳥みたいなくぐもった苦悶の声。

カイヴァーンの足元に黒装束の人間の体が落ちた。


襲撃だ。


「カイヴァーン!!」


「お前はそこで震えてろ!!」


「アブを頂戴!!毛布と一緒に!!」


「わお、助力する気は一切なしか」


アブを自分の体に縛り付けていた紐を彼は片手で器用に解くと、毛布にアブを包んで放り投げた。私へと。


「ちょっと、ちょ。私は非力な女の子なのに!!」


スポン。

アブは私の腕にちゃんと収まり、私は安堵の溜息を吐く。

だけど、戦闘はさらに激化しているようで、私がカイヴァーンに文句を言おうと顔を上げたその瞬間に私を囲む土壁が地面から生えた、のだ。


「そこに居ろ。俺が死なない限り崩れない」


「絶対に死なないで!!」


「惚れたか!!」


「私一人で旅なんかできないでしょ!!」


「お前はもうちっと人生のお勉強をしてくれ!!必死に戦う男を萎えさせんな」


「ふふふ」


怖くて体が震えているのに、カイヴァーンの軽口のお陰で私は耐えられている。

でも、私の腕の中のアブはぜんぜん動かなくて。

気がつかないうちに刺客に怪我をさせられていたら!!


「ああ、アブ。大丈夫なの?」


私はアブを包む毛布を剥がし、再び笑いがこみ上げた。

アブは熟睡中。

なんて豪胆な子なのよ。


私はアブの無事に気が抜けたのか、そのままぺたりと座り込む。

でも、小刻みに震える体は、安心した癖に元に戻らない。

アブをぎゅっと抱きしめる。

はやく、はやく、殺し合いなんか終わって!!

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