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私が修道院を目指す理由

「それで、君はどこに行く予定だったんだ?」


オーク顔の男はまっすぐに私を見つめる。

カイヴァーンがオーク顔になってくれているせいか、私は内緒にしようとか考えることも無く、ぺろっと正直に答えていた。


「北のヘシュム女子修道院に行く予定」


「正気か? 君は魔女だと追われているんだろう?」


「ふふ。魔女じゃないって言い張ると拷問の末に火あぶりだわ。だから、魔女でしたと悔悛するのよ。歴史上、魔女だと告発されて無実を主張した人は全員処刑されているけれど、悔悛した人は」


「全員が解放されたな。だが五人の内三人は無傷で生きのびたが、残りの二人は裁判結果を不服とした民衆による私刑で亡くなっているぞ。そんな面倒な事などせずに、亡命したらどうだ?」


「魔女の汚名を被ったまま国外に出たところで、逃げた先の国の国境で火炙りだわ。どこの国も魔女は認めていないじゃない」


「そうだけどな。……くそ。処刑される魔女と国の英雄だともてはやされる魔法使いの違いを知りたいよ。もしかして、君は魔法で誰かを呪ったのかな?」


「呪ってはいないわ。ただ、私に擦り付けられた冤罪は、私の体が二つ無ければ実行不可能なものなのよ。そんな魔法は私は使えないし、あることも知らなかった。そもそも禁呪らしいわね。そしてそんな魔法を私は得意としているらしいの」


「どこまでも冤罪か。そんなバカバカしい告発ごっこ。誰もおかしいと告発者に言えなかったのか?」


私は軽く笑い声をあげると、カイヴァーンに撫でられたままのアブを引っ張り出して抱き上げた。アブの温かさは私を癒してくれるし、自分の身の上話はオークの姿にでもなっていないとバカバカしすぎてやってられないから。


「ほんと、バカバカしいけど、私を裏切った婚約者はケイン・ゼーリジュ。宰相の三男坊で三男坊つながりでやんごとなき方のお友達をされているわ。殿下は親友を大事にされる方ですから」


「まさか、告発者が第三王子か? 確かにあれのする事に口を挟める奴はいないな。それで、君を魔女にしてまで擦り付けたかった冤罪はどんなものだったのだ?」


「胸糞悪い事件の濡れ衣ね。学園の倉庫に一晩閉じ込められた人がいたの。その子は倉庫の窓から脱出しようとして、その窓から落ちて亡くなってしまったのよ。その子を倉庫に閉じ込めたのが私だそうよ。私はその日は父の残した遺産について弁護士事務所で話し合っていたというのに」


「腐ってんな。完全に言いがかりじゃないか」


私の頭に大きな手の平が乗った。

それで、ぐりぐりとアブにしたみたいに撫でてきた。


「なにを」


「頑張ったな」


「せっかく素敵な台詞なのに台無しよ。あなたオークになっている」


「うそ。間接もダメか。ハハハ」


「いいな。ぼくもオークになりたい」


「いいえ。同じになっちゃ駄目。あなたはこの呪いを解くのよ。そうだ、カイヴァーン様こそ目的地はどちらだったのですか?」


「俺も呼び捨てでカイでいい。それで、俺は亡命を考えていたんだが、君と一緒に君の目的地のヘシュム女子修道院に行くのもいいな。聖なる場所ならば、もしかしてアブの呪いが消えるかもしれないしな。それに」


「それに?」


カイヴァーンは私から手を剥がし、もともとの顔立ちに戻ると、オークの時の顔の方が好青年だったと思える笑みを顔に作った。


「君の告解が聞きたい。多分やるんだろ? 公式記録が残る魔女裁判で、私は犯人を見たのに告発することができませんでした、と言ってやるつもりなんだろ?」


私は、勿論よ、と笑った。


「私が分身できる魔女だと言い張るなら、きっと私は確実に見たはずよ。そして犯人は、私がしようとする事に気が付けば私を追ってくると思うの。そしたら名指ししてやるわ。ここに来た事こそお前が人殺しの魔女だという証拠だって」


「それじゃあ、ここでのんびりしてるわけにはいかないな。さあ、さっさと喰ってひと眠りしよう。下見も無いぶっつけの真夜中の山越えはキツいぞ」


私はそこでハッとした。

もしかして彼はそもそもベッドで寝る気は無く、私とアブを宿屋に残した後に土砂崩れで通れなくなった道以外の道を探りに行く予定だったのではないかしら。


「どうしてそこまでしてくれるの?」


カイヴァーンは手を伸ばして、アブの顎をくすぐった。

アブは子供らしい楽しそうな笑い声をあげる。


「俺の大事な弟を抱いてくれる君だから」


オークの顔になっているのに、カイヴァーンの顔はとても優しそうで良いものにしか見えないのはなぜだろう。

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