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どうせ血で汚れてしまったその手なら

第三王子達が私の居場所を見つけ、彼等はカイヴァーンが辺境伯の客人として滞在していることも知った。ならば芋づる式にアブがここにいることも知られる。


あれから二日。

私は今後の為に部屋に籠り、辺境伯領内にある呪いの品らしきものを次々に必死に解呪しているのである。


「どうしたら呪いだけ剥がせるのよ!!」


私は呪いが掛かっていたらしい鎧を蹴り飛ばす。

けれど痛いのは私の爪先だけだった。

私は右手で片足を抱えながら、悔しさを込めて左手で机をバンバンと叩く。


物に対しても思うような魔法行使ができないだなんて!


これは別に一宿一飯の御礼の行為ではない。

私の魔法を向上させるための訓練だ。


私の魔法が人に使えることが実証できたが、記憶を読まれたアンティークの品が新品同様になってしまうのと同じに、人間では記憶の全てが消えてしまう。

それではアブの人格が壊れてしまう。


そして私がアブから引き剥がしたいのは、アブの記憶では無くてアブに掛けられた呪いだけだ。


だから、バフラーム砦中にあるいわくつきを用意して貰い、記憶と呪いの違いを読み取り呪いだけ剥がす練習をしているのだが、私には呪いと記憶の違いが判らないのだ。どちらも人の記憶や想いが圧縮されて物に絡みついているものだから。


それで結果がいつもと変わらず、来歴消えての全部が新品状態。

品を持ち込んだ人達は喜んでいるけれどね。

狙っていわくつきを買ったのではなく、高い金を払って買ったのに使うことはおろか自宅に置いておくのも恐ろしかった呪いの品が、まっさらな新品になったのだから。


「日々魔女っぽくなっているな」


カイヴァーンがトレイを運んできた。

コップに入った水と小皿には砂糖だけだ。

これは私がお願いした試験前のメニューだ。

脳を使うから砂糖は必須だけど、自分を限界に追い込むには空腹の方が良い。

それでこれなのだ。


「考え無しでヒステリーが起きているのは、こんなバカな食生活だからだ。まだ一日だが、俺こそが参っちまう。君の甲高い罵倒の声でね」


「仕方が無いじゃない。食べ物にも作り手の記憶が入り込んでいるのだもの。純粋に見たいものだけ見るには、余計な情報はいらないのよ。それに限界状態になったときこそ魔法回路が開く気がするの」


「それは飢餓状態が見せた幻だ。それに、魔法を極めたいなんて理由でアブの顔を見ないなんて行為は許せない」


カイヴァーンは私の手を乱暴につかみ、私の指と彼の指を絡める形で繋ぐ。

簡単に引き剥がせない繋ぎ方をしたのは、私がアブに触れられなくなった理由がわかっているからであろう。


私が記憶を剥いだ異端審問官の二人の男。

彼等は翌日に治療院の庭で亡くなっていたそうだ。


私が殺した。

「君のせいじゃない」


「私の魔法が」


「発端と結果は君の魔法と言えるだろうが、奴らの死は自業自得だ。異端審問官の身分を利用して少女を犯して殺し、その少女の父親も殺した。その復讐だ。少女の家族や今までに同じように奴らに娘を連れていかれて殺された家族によって、あの二人はなぶり殺しにされたんだ。君の魔法で心臓を止めたんじゃない」


「だけど、死を引き起こした、わた、私の手はアブを抱くには」


「俺の手こそ血塗れだ。怖気がくるか?」


私は自分の涙をカイヴァーンに捕まれていない腕の袖口で拭う。

それから、カイヴァーンの胸に顔を埋める。

カイヴァーンは私をぎゅうと強く抱きしめ、血塗れだと自嘲した彼らしい台詞を私の耳に囁いた。


「今度こそその手を血で染めないか?」


「何を言っているの」


「アブを呪った奴にその魔法を掛けるんだ。アブに、じゃ無くてな」


「そんなこと、出来るはず無いじゃない!!」


「アブの為になら何でもやるって、それは嘘か」


私はカイヴァーンに掴まれていない手でカイヴァーンを押しのけ、ついでに彼に掴まれていた手だって乱暴に引き剥がした。


だって私への、誤解だ、侮辱だ、裏切りだ。


「私はアブの為なら何だってやるのよ!!」


「ならば」


「あなたは呪いをわかっていない!!」


私が今まで呪いの品を幾つ見て来たと思っているんだ。

古い品は全て呪いをかけた人物は死んでいる。

呪いをかけた人物が死んだ呪いはどうなっているのか、私は見て知っているのだ。


「カイヴァーン、聞いて。いいこと? 呪いは一本の紐みたいなものなの。呪われた人と呪った人は繋がっているの。だから呪い返しは呪った相手に呪いが戻るって言うでしょ? ではその反対は? 呪った奴を殺したら、そいつが持っていた呪いの紐の端はアブに全部行くの!!ヘビみたいに呪いが巻き付くのよ!!」


「行かないさ」


「どうしてそう思うの?」


「君が剥がすからだ。君がタルマドから呪いそのものを剥がすんだ。そうすれば自然とアブからも呪いが消える。壊れるのはタルマドだけだ」


「そんなのわかんないじゃない!!それに、私には呪いも記憶も選択できないの。私が魔法を行使したら、何かが映し出される、そして物はなぜか新品同様。確かに呪いも消えているけれど、剥がされた呪いがどこに行ったのかわからないわ。そいつから剥がれた呪いがアブに行かないって保証はないでしょう」


「では、どうしてもアブに呪いが行くのならば、アブに魔法を使ってくれ」


「あなたは何を考えているの」


「――治療院の奴らの言うにはね、赤ん坊に戻っていたそうだ」


「どういう、こと?」


「君の魔法で記憶が剥がれたた奴らは、まっさらな、ああ。赤ん坊に戻ったのさ。君が古物を新品に変えてしまうようにね」


「できないわ」


「失敗してもアブが赤ん坊に戻るだけだ」


「できない」


「まだ四歳だ。赤ん坊になっても育て直せる」


「できるわけない!!」


「どうして!」


「今のアブが死んじゃうじゃない! あの可愛いアブが消えてしまう。あんな小さいのに沢山考えて、たくさんたくさん人を気遣う、今のアブが消えるのよ。私は、今のアブを殺したくない!」


「わかっている。俺だってそうだ。だが、あいつの呪いはいつ消える? あいつは大きくなるんだよ? いつまでも幼児のままでいられない。俺達がいる? 俺達が死んだ後はたった一人だ。たった一人の人生は辛すぎるだろうが!!」


私を真っ直ぐ、懇願するようにみつめるカイヴァーンこそ、アブがもうすぐ死んでしまいそうな顔をしている。強い男の癖に、涙をボロボロ流して。


「おねがいだ」


私はカイヴァーンを抱き締めた。

カイヴァーンこそ呪いの蛇のようにして、私に腕を回して私を再抱き締める。

まるで、私こそ救いの主のようにして。


「やるから、その前に。第三王子かケインに私を呪わせて」


「――魔女め。やってみる」


私を呪った相手に魔法を使い、私から呪いが剥げるのならば、カイヴァーンが提案した方法が有効だってことだから。だから、アブに私が魔法を使わなくて済む。

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