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王子と取り巻きと元婚約者とカイヴァーン

第三王子と取り巻き三人が異端審問官の格好をして、魔女と断罪した私を追って辺境伯家の裏口にやってきた。


しかし第三王子のラティムは、異端審問官が神職にある人で、その任を受けたからには今後は清廉な神の道に一生を捧げねばならない、という前提を忘れていたようだ。確かに私の魔法で、本物の異端審問官が少女を犯しその親を蹴り殺していた事実が明らかになったのだ。異端審問官になれば好き放題が出来ると思い込むに違いない。


けれど、何ごとも建前は大事にしなければいけないの。


ラティムにそのことをついて弄っている男は、私の呆れた視線に対し片目を瞑って返した。けれどすぐに真顔になり、彼はラティムを真っ直ぐに見つめた。

カイヴァーンは臣籍に落ちようがラティムの兄である。


「それでお前はどっちなんだ? 異端審問官となった司祭か? それとも、まだ王位継承権のある王子か?」


「わた、私は」


王子と答えれば、彼は何の手続きも無く砦に乗り込んだ事に対しての弁明が辺境伯に対して必要になる。ついでに辺境伯の客人の私への断罪の権利を失う。


神の使いだと言い張れば、彼は今後の楽しい王子様生活の全てを捨てねばならなくなる。彼の兄(カイヴァーン)は王族では無くなっていても、爵位のある貴族であることは変わらない。ならば誓いの見届け人となれるのだ。


ラティムがここで答えた言葉は、ラティムが選んだ未来として証言できる。


「なんて魔女だ!!改めてお前を問うてやる!!」


ラティムは私を指さして悪態をついた。

兄の追求から逃れるにはそれしか無いだろう。

耳まで真っ赤にした彼は踵を返し、地面に座り込んでフヘフヘと笑うだけとなった二人だけでなく、仲間の三人も置いていく勢いで去って行った。


「殿下!!」


「ちくしょう、覚えておけよ。って、おい。ケイン!!」


殿下の後を追いかけようと急ぐ二人のうち、私は名前も覚えてない黒っぽい髪に眼鏡の青年が、ベージュ色の髪の青年の肩を掴んだ。彼が動かないから。

私とカイヴァーンの視線のやり取りや気安さに、彼はちゃんと気が付いていたのだ。そして権利もないのにこうして怒りのまま動けなくなっていた、ということ。


私は仕方がないから一歩下がり、カイヴァーンの腕に自分の腕を掴んで彼の体に寄り添ってみた。すると、ようやく「ケイン」は動き出した。


「グローリア!!この尻軽が!」


「こいつが君の元婚約者か?」


「あなたと比べるまでもない小者だから忘れたわ」


「光栄ととるべきか。そもそもこんな輩と比べやがってと侮辱ととるべきか」


「あなたのお陰で本物の男がどういうものかわかったの。私の初めてを奪ったのだから、光栄と受け取って頂きたいわ」


「ひゃじめて!!」

「くっ」


ケインは変な叫び声をあげ、カイヴァーンは私の物言いで首を絞められたような声を上げた。カイヴァーンを知り、頼りがいのある大人の男性だわって、父以外で初めて信用できたのだから嘘はない。


いいじゃない。私は必死なの。この騒ぎで周囲にちらほらと集まってきている館の使用人や警護の騎士達に、カイヴァーンは私に責任を取らないといけないと広めておかねばってぐらいに。


「こ、ここここ」


「行くぞ、ケイン!!」


「ああ畜生!!この魔女が!!絶対に火炙りにしてやるからな!!」


私はニコニコ笑いながら、私の前から去っていく元婚約者のケイン・ゼーリジュに手を振ってあげた。手首を軽く動かす程度の適当なものだけど。


「どうしよう。俺もあいつらの仲間になりたい。今すぐ逃げたい」


「お黙りなさい。それよりもあいつらが戻って来る前に動かなきゃ」


「逃げるのか?」


「いいえ。呪術師を呼んでちょうだい。目の前の男二人に呪いをかけるのよ」


「もうすでに終っているけどね」


「終わっているから人体実験に使えるわ。もう壊れちゃっているんだから、かかった呪いが私の魔法で解けるかの実験が出来るでしょ」


カイヴァーンは、魔女め、と小さく呟いたが、すぐさま裏庭に残された男達の回収を近くにいた使用人を手招きをした。

実験用の部屋の確保に呪術師の呼び出しをする気ね。


「こいつらを近くの教会の治療院に放り込んでおけ」


「ええ~」


「ええ~じゃない。君が誤解されるのはそういうところだ。冗談でなく全部本気なのだから本当に始末が悪い」


「でも。魔女だって言われても、アブの呪いは今すぐに解いてあげたいの。この世の誰にも嫌われたって、あなたとアブだけでもわかっていればいいの」


「世界中に嫌われたら、俺とアブと君で三人で山奥に住むんだものな。はあ。まず、君が考えている山小屋がコテージなんだよなってとこで頭が痛いがな」


「山にあるのはコテージでしょう?」


「まず、狩猟小屋か炭焼き小屋を想像できるようになってから、山に住みたいわって言おうな」


カイヴァーンは私の頭をポンポンと叩くように撫でてたが、そのうちにぎゅっと私を抱き締めて、今度は私の背中をポンポンと叩いた。

私はそれで自分が泣いていたって事に気が付いた。


どうして泣いているのかって、理由がわかってもっと泣けた。

学園から逃げなきゃいけなくなったあの日、私は誰か一人でも味方になって欲しかった。カイヴァーンが当たり前のように私の味方をしてくれたから、その時の気持を思い出して泣けたのだ。


「山小屋は嫌だと泣くんじゃない。海にしよう。温かな海辺に。そうしたら、その日暮らしでもなんとかなる!!」


「ちがう。そうじゃない。カイのばかあ」

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