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魔女を追って神の使徒がやってきた

第三王子ラティムが私を追ってくることは想定していたけれど、まさか自分自身を異端審問官にして追ってくるとは思わなかった。


それで私は捕まえられたけれど、ここは辺境伯さまの領主館の裏口で砦内という完全なる辺境伯領。辺境領は自治権が認められている。王都から遠いことで王の決済を待っていては、他国からの侵略や天災の被害に対応できないものね。


よって自治権のある辺境地では、王族と言えど好き勝手ができないのだ。


ラティムはそれで面倒な手続きがなしで辺境伯領で好きに動けるようにと、神の名のもとにどこでも入り込める異端審問官になったということね。


「異端審問官は司祭と同じく身ぎれいじゃ無ければいけないのよ?」


「お前が身ぎれいでなくとも、お前を捕まえたその者共が穢れることは無い」


私の二の腕は両隣に立つ男達それぞれに掴まれている。

彼等は私の二の腕を掴んで、私を無理矢理に歩かせようとしているのだ。

けれど、二の腕を掴まれているだけなので、私は緩くつかまれているうちに肘を折って私の腕をつかむ男達の手に手の平を添えていた。


抵抗しようとしているだけにしか見えないから、結局は身動きできない女だと彼らは被虐的な表情で笑っている。ほんと下卑ている。


「誰が穢れているのかは、神様はわかっていらっしゃる」


私は指先に祈りを込める。


ビン!!


青い空に大きな丸いガラス窓が映し出された。

二枚ほど。

私の腕をつかむ男達が直近に行っていただろう、人として許せない行為がそこに映し出されたのである。


「止めてええええええ!!止めてえええええ!!」

「やかましい!!魔女にされたくなければ言う事を聞け!!」


一人はまだ子供と言える少女の服を破り、情欲の限りを尽くさんとしたその記憶。


「助けるって言ったじゃないか。まだ子供なのに!!まだ子供なのに!!」

「放せ。お前も魔女か、魔女なんだな。この魔女が!!」

「うがっ、あがっ」


もう一人の記憶は、自分に取りすがる中年男性を蹴り殺す場面である。


私は両隣の二人のせいで、見てはいけないものを見せられた汚辱感ばかりだ。

彼等は異端審問官であることを利用して、年端も行かない少女を犯し、その父親を蹴り殺したという、彼等こそ裁かれよと思うケダモノだったのだ。


私の横でそれぞれがぐしゃりと潰れても、それが泡を吐いて廃人っぽい顔つきでへらへらしている置物になったとしても、なにも罪悪感など湧かなかった。


ただ、目の前の第三王子にも試してみたいな、そんな気持ちになっただけである。

私に助けを求めたあの少女に何をしたのかと、過去を暴いて償わせてやりたい。


「おま、お前は一体何を」


「私は何もしておりませんわ。私の指先は触れたものの過去を暴きます。この力は私こそ神に与えられた祝福を思っておりますが、あなた方が魔女と申すのならばそうなのでしょう。ならば私はさらに神へと悔悛し、神の御心に従いたいと祈るばかりでございます」


ラティムは憎々しげに私を睨む。

異端審問官は名指しされた者が魔女かどうか異端審問する者でしかないので、相手が自分を魔女と認めて神への回帰を望んだならば、何もすることがないのである。

けれどすぐに王子である自分ならばなんとかできると思ったのか、ラティムは右手を軽く上げた。


「さあ、見ただろう。この魔女の呪いを。真実を歪め人をたばかる幻術を使う魔女が言う事を信じるな。こいつの悔悛は口だけだ。さあ、この魔女を捕まえろ」


果たして、ラティムが命令に残りの三人の男は従ったか?


彼等は動きはしなかった。

なぜならば、たった今空に照射されたばかりの記憶映像を見たことで、彼等は私の魔法についてしっかり思い出したからだ。

静物だけしか効かないと思っていた力が人間にも効くとわかっただけでなく、実際に私の指の洗礼を受けた者の末路を見れば、自分の記憶を暴かれる恐怖も相まって私に触れたいとは思わないだろう。


私は顎をあげ、ラティムに対して勝利宣言でもしてやろうかしら、と。


「に、兄様!!兄様がどうして!!」


振り返れば、裏口の扉は開け放たれており、カイヴァーンが立っていた。

それも情け容赦なく、私をラティム達に差し出したメイドを捕まえた姿で。


彼は私にちらっと流し目をしたがその目は私の安否を確認どころか、第三王子が固まったのは俺のお陰だよ、と言っていらっしゃる。確かにそうね。私も女性に対して平然と無体ができるあなたに固まったわ。


カイヴァーンはラティムに視線を戻す。やれやれといった感じで。


「ラティム。どうしてもこうしても、ここは親友の家だ。軍を退いた俺が休養するにはいい場所だ。そうだろう?」


「いえ、あの」


「お前こそ何しに来たんだ? それに何の格好だ。それは? お遊びでないのならば、王位継承権も返上し、神にだけ祈る清廉な神の道を選んだのか?」


第三王子は、え? という顔だ。

私こそ、え? というかポカーンだ。

嫌だこの王子、カイヴァーンが言った事を知らずに神職者になったの?


それで私の言葉に返したのはあの台詞だったのね。本気でなんてお馬鹿。


「いえ、兄様。それは、いや。兄と言えども貴様は臣籍だ。私にそのような話しかけは不遜であろう!!」


「いや。お前は自分のその格好がなんだかわかっているのか? 神職者になったならば、平民と同じだ。坊主という事で尊敬を得られるが、まだなんの実績もないだろ? それで俺は臣籍と言えど子爵だ」


「し、子爵ごときが!!私は王子だ。誰が神職など!!これは魔女グローリア・マーフを捕らえ査問するために異端審問官任命を受けただけのことだ!!」


「魔女を捕らえる審問官の任命式こそ、神の正義を執行するために俗世の全てを捨てると誓わねばならないはずだろ? 誓った記憶もないのか?」


兄として心配だよって感じでラティムを揶揄っているが、カイヴァーンはラティムには異端審問官の資格など無いと言外に言っているのだ。資格があると言い張るならば、司祭として生きることを誓った、それを言わねばならない。


王位継承権どころか王族籍を捨てて清廉に生きる?

そんなの俗物ラティムには絶対に無理な話。

ラティムはハクハクと口を動かすだけで言葉が出ないようである。

カイヴァーンたら、なんて底意地悪い人。

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