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子供達は大人よりも考え深い

バトラス君は辺境伯が孫の為にと選んだ子供だけあった。

彼はザリガニの生態をよく知っていただけでなく、ザリガニは小川でお魚さん達を守る王様だから捕まえたらお魚さんが困るよ、とアブを諭してもくれたのだ。


カイヴァーンよりも説得力高い。惚れそう。


けれども私がバイラム君に惚れずに踏みとどまれたのは、その後の彼の行動が私の三男恐怖症を再燃させてくれたからである。


バイラムはやっぱり危険な子供だったのだ。

危険どころか、彼は悪魔の手先なのかもしれない。


僕達は陸の生き物なのだから飼うならば陸の生き物がいいよ、と、アブを唆し、翌日には彼の家で生まれて半年という仔犬を連れて来たのである。


バイラムが連れてきた仔犬は、頭の大きさに対して体が小さく足も短い不格好な小型犬だった。顔だってあまり可愛らしくない。口吻や目元の毛がモサモサしているからか、しょぼくれたオジイサン顔に見えるのだ。毛皮など黒と茶色と黄褐色のまだらな不思議な色合いで、煤けていると言われればそんな感じでみすぼらしい。


煤けてみすぼらしく見えるのは、短毛と長毛の間ぐらいには伸びるだろう毛が、フワフワどころでモサモサな剛毛だからであろうか。


「どうです? 我が家が誇る穴ネズミ狩りの達人、ケアン家の秘蔵っ子です」


「バイラム。君の家はディバインだろう。君の家の犬には家名があるのか?」


「はい。我が家のガニが穴ネズミ猟でバフラーム領では一等となった時、ガニの仔犬には銀貨五枚の値がつくようになったんです。そんな奴に家名一つも与えないとは器が小さいと、父がガニにケアンと家名を与えました。全く、最高の穴ネズミ猟犬を生み出すのに嵌った父のせいで、いまやケアン家は我が一族よりも大所帯ではないでしょうかね」


自慢そうに仔犬を紹介していたバイラムだが、自分の父親について語る時には子供にあるまじき自嘲気味の顔付きだった。


わかる。

私の父も何かに嵌ると、採算度外視でそれに夢中になっていたもの。

でも私の父が夢中になったものは飽きた後は売り飛ばせば良い静物であったのと違い、バイラム君の家のはワンワンキャンキャン煩い犬の大集合ですものねえ。


私に見られている事に気がついた仔犬は、黒くつぶらな瞳で私をじっと見つめたあとに、ニパッと笑みにしか見えない表情となった。


「賢い子ね。それに大人しいわ」


「僕が手綱を掴んでますからね。だから、ほら」


バイラムが手綱をパット弛めると、犬はやっほいと飛び上って飛び掛かった。

アブに。


けれど、アブこそこの仔犬に一瞬で惚れこんでいたようで、いつでも抱っこしたいという風に両腕を広げて待っていたのだ。


彼らは再会した生き別れの兄弟みたいにがっちりと抱き合う。


「お兄ちゃん、グリ!!飼っていい? この子飼っていい? この子はオークにならないの。僕が触ってもオークにならない可愛いままなの。この子は僕が大好きなのにオークにならないの!!」


私は、いいわよ、と反射的に答えていた。

カイヴァーンだって目元の涙を拭いながら、いいよって答えた。

それから彼は、私達が気付かねばいけなかったアブの悲しみを教えてくれたバイラムの肩にそっと手を触れた。まるで戦友にするような、敬意を持った仕草で。


「ありがとう。君は最高だよ」


「母もそう言ってくれます。この子は父が繁殖用に残した仔犬なので、これで父のさらなるケアン家繁殖計画を頓挫さられます」


おませだと思ってたけど、それ以上だったわバイラム君。

これもいつ死ぬかわからないバフラーム辺境領の子供達の特徴なのかしら。


「ねえ、ねえ、シュクー。お腹は空いていない?」


「まああ。もうお名前を付けたのね。栄光(シュクー)なんて素敵な名前。こんなにすぐに素晴らしい名前を思いつく何て凄いわ」


「うふふ。しゅごいでしょ」


私を見上げたアブの瞳はキラキラと、とても嬉しそうに輝いている。

私は彼の顔にほとんと無意識に最高の笑顔を返せたはず。だけどアブには見えないように心の中で自分を責めた。自分を愛する人がオークになってしまう事を、幼いアブが心を痛めていたことにも気がつかなかったなんて、と。


アブのいじらしさに胸が痛かった。

だから、私はカイヴァーンの手を掴んだ。

彼は私の指が触れた瞬間びくっと震えたが、私が「やるわ」と囁けばしっかりと握り返してくれた。


「絶対にアブの呪いを解くわ。魔女になってでも」


「ケツモチは任せてくれ。女のケツだったら好物だ」

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