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仲間外れは許しませんよ

カイヴァーンが私に何か言いかけた。

けれど元気いっぱいの男の子の戦果を報告する声によって、カイヴァーンの言葉を遮られてしまった。私は先程のアブのようにして目の前に佇む、アブより五歳年上の男の子に微笑んだ。


彼の名はバトラス。

彼は辺境伯が用意してくれた、アブの為の遊び友達兼小さな守り手だ。

領地の有力な家の三男坊らしい。


私は当初バトラスを警戒した。

別に私の三男坊ジンクスが刺激されたからではない。


だって、大事な孫の為にというのは分かるが、子供だからってそんなにすぐに仲良くなるわけ無いでしょ。私は不安がいっぱいで眠れなくなりそうだった。年上の男の子にアブが虐められたらって考えるとね。


だから私は、アブとバトラスを常に見守るために、家庭教師らしきことをしているのよ。家庭教師ならば悪い子にはビシバシ指導出来ますからね。


そしてこの選択は間違っていなかった。

私がアブのそばを絶対に離れないからか、アブがとっても安定しているのだ。

急にできたお祖父ちゃんのアブへの構い方がうざったくても、アブはいつでも機嫌よく応対している。えらい。お祖父ちゃん大喜びで私の扱いを良くしてくれたし。アブ最高。


それから、常に見守っていた事で、二日もしないでバトラス君に関しては杞憂だと分かった。逆に誤解していてごめんなさい、よ。物凄く面倒見が良い良い子なの。


けれど、バトラス君はやっぱり私にとっての三男坊だった。


ここはいつ死んでもおかしくない辺境地。

思い残すことを減らすためか、自由恋愛がお盛んだ。

その弊害として、ここの子供はとってもおませ、なのである。バトラス君を通して知っただけなので、バトラス君だけが規格外子供なのかもしれないけれど。


でも本当に、バトラス君が私に慣れた途端に口説いてきた時は、すっごく驚いたどころではなかった。


さて、今日のバトラス君は?


彼は大人の仕草で、私に微笑みながら一輪の花を差し出す。

彼が差し出して来た花は、ユリのように背丈のあるタイプで、青色の星型の小花を傘状に咲かせる繊細のようで存在感ばかりある華やかな花だった。


子供が摘んで来るような野花じゃない。


「素敵。シラーね。お庭に咲いていたの?」


「温室に咲いていたものを庭師に頼んで頂いてきました。お美しいあなたの黒い髪にシラーはとてもよく映えます」


「バトラス。あなたに褒めて頂き光栄ですわ」


「僕の心をお受け取り下さり光栄です。では、次の課題をお願いします」


「そうね」

「今日のお菓子はパイかケーキか厨房に行って聞いて来てくれ。味の報告も頼む」


「かしこまりました!!隊長!!」


私の時とは違い、それはもう子供っぽい声を上げたバトラスは、ぴゅーんと飛ぶようにして厨房目指して駆け去っていった。


「男ってこんなもんですよ。高嶺の花よりも目先の喜びだ」


「ふん」


私は庭に出してあるテーブルの上にある水盆にアブが摘んできたバラの小花を浮かべ、大き目の花瓶も用意しておいてよかったと思いながらシラーを活ける。


「君はシラーよりも水仙の方が似合うと思うな」


「うぬぼれって言いたいの?」


「いいや。口を突き出してくるところが」


「お黙り。カイヴァーン。それで? あなたが先程言いかけたことはなあに?」


「お美しいと男性の働き方が違いますね。幼いうちから女性への口説き方を学ばせて貰えるなんて、あの子達は幸せだ」


「そんな意図ないですから。もう、カイは!!」


私はカイヴァーンに向かって拳を振り、彼は大げさに私に脅えるふりをして私をさらに揶揄う。ところが急にかっと両目を見開くや、弾けたように走り出した。

あら、どうしたの? 

おふざけの続きかしらと視線で追いかければ。


カイヴァーンが向かった先。

アブがしゃがみこんで、真っ赤な何かに手を差し出している所だった。

まるで猫か犬を触ろうとしている感じで、大きな鋏を振りあげているものに。


「カイ!!アブが!!カイ!!」


恐慌に陥りそうな私の目の前で、カイヴァーンがアブを勢いよく抱き上げた。

アブはカイヴァーンに抱き上げられて、いつものように喜ぶどころか。


「いーやー!!はーなーしーてー!!」


「まって、ちょーまって、アブ。ザリガニは素手では危険なんだ!!」


「おにいちゃ、お兄ちゃん。おろして!!ざりがに飼うの。僕はこの子飼うの!!僕はこの子捕まえて飼うの!!」


「散歩を邪魔されたって、めっちゃ怒ってるじゃない!!バイバイしよう。見逃してあげよう!!」


「い~や~!!この子は僕にこんにちはしてるの!!飼うの!!」


「え~」


カイヴァーンはアブの可愛い主張に彼こそ子供っぽい声を出し、なんと私に判断して欲しいという顔を向けた。私は彼等の元へと行き、珍しく我儘を大声で叫んだアブの頭を撫でる。子供っぽい我儘を言ってくれたアブが可愛くて。


「グリもダメいう?」


「アブ。バトラスが戻って来たら図書館に行きましょう。ザリガニの育て方を知らないで飼ったら、ザリガニさんが可哀想よ」


「うん。しらべるする。おにいちゃ、おろして。ざりがにみる。バトラス来るまで僕はザリガニ見てるの!!」


「い、いいけど。さわるなよ。こいつらのハサミはお前の指をチョッキン行くんだぞ。危険なんだぞ」


「さわんないから。みるだけだから。は~な~し~て~!!」


「おい、ちょっと暴れるな。落ちる。落ちるって。グリ、ちょっと手を貸して」


「う~ん。カイはいざという時は私を置いていくって仰いますし」


「置いてかないって約束するから。俺達は三人そろってなんでしょ」


「ええ」


「俺は外見も良いし仕事も出来る。君の理想だ。俺を手放したくないって君の気持はよくわかるよ」


私は左手でアブの体を支えてから、右手でカイの脇腹を思いっきり抓った。ザリガニがするようにぎゅっと。


「いったあ!!」


青い空にカイの良い悲鳴が良く響いた。

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