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第4話 元魔王の後継、元勇者が養父になる(前編)

「うあああ……っ、うああああん! パパもママも大っ嫌いだぁ!! みんなバカバカバカ~!」


 なんて言うのかなぁ。何でこう上手くいかねぇんだろうな。


「うえぇぇっ、ふぅ、うあ……うあああん……っひっぐ、えっぐ……っ」


 森の中を歩きながら俺は声の限り泣きわめいた。

 人間社会に染まったせいで精神がかなり幼くなっている気がする。だってみんな優しかったんだもの。大切にしてくれたんだもの。

 危険がなくて緊張状態になる必要がなかった。冷酷な気持ちを抱く必要がなかった。


 なのに。なのに。


 一体俺が何をしたって言うんだ! 前世は確かに悪いことしてたけど、魔族側からしたら仕方ないことだったし。

 今世は特に悪いことをしてない。逆に毎朝早起きして町のゴミ拾いをしていたくらいだ。こんなに誠実で理想的な住民なのに!


 愛してるって言ってたのに。大好きって言ってたのに。ずっと一緒だよって言ってたくせに!


 嘘つき、噓つき、噓つき。


 今も闇の魔力に目覚めて周囲に強いオーラを発しているのがわかる。

 子どもの体だからまだ上手くコントロールできないのだ。森に隠れてる間に魔法の勘を取り戻して、身を隠しながら遠くに行かなければならない。


 傷ついて泣き騒ぐ反面、頭のどこかは冷静だ。だから俺はポロポロ目から雫をこぼしながら迷わず近くの森へ逃げ込んだ。

 ここは昔勇者一行と抜けた深い森だ。逆を辿るように進んでいくと、当時の思い出がふわふわと浮かんでくる。


「ひっぐ……っ。この木の実……赤いからってユウが食べて、辛さのあまり飛び上がってたな」


 50年ちょっとしか経ってないし人の手も加えられてないせいか森は当時の姿のままだ。

 木々のざわめきになだめられている気分になり、俺の感情は少しずつ落ち着いていく。


「ああ、このデカイ湖で魚を釣って食べたな」


 深い森の中のオアシスである湖はキラキラと光を反射していた。俺が無理やりユウを引っ張って水の中に飛び込み、びしょ濡れになった互いを見て大笑いをした記憶がある。


 騎士や魔法使い、ヒーラーは「何してるんだ」とあきれてる様子で、それがまたおかしいのかユウは笑い続けていた。


 ああ、あの時は楽しかったなぁ。


「って何を考えてんだ俺は」


 首をフルフル振ると、近くの茂みからガサガサと音が鳴る。魔物か追手かどちらかと思い、闇の魔力を拳に集めて臨戦態勢を取った。


「フラン……?」


 茂みから出てきたのは20代半ばの男だった。くすんだ金髪に深い青の瞳をしているが、驚きで丸くする目はどこか見覚えがある。古びた服を着ていて鍛え抜かれた体は精悍さを感じた。


 しかもソイツは俺をフランって呼んだ。フランは俺が勇者一行に近づいた時に名乗った偽名だ。今の俺とは何のゆかりもない。


「……人違いです」


 警戒しながら後ずさると、男はつられるように前に出てくる。


「いや、その魂から漂う魔力はフランだ」

「は?」


 なんだその特定の仕方は。一周回って気味が悪いぞ。


「これ以上近づいたら攻撃する」


 俺は右手に魔力を集めて牽制する。今のコントロール力では強い魔力の塊を投げつけて破壊できるくらいだ。手加減ができない分、慎重にやらなきゃいけない。


 俺の敵意を感じ取ったのか、相手は慌てて止めるよう手を振った。


「やめてくれフラン! 俺はユウだよ。覚えているだろう?」

「はあ!? ユウがそんな髪色なわけねーだろ! ユウは髪も目も綺麗な闇色だぞ偽モンが」

「やっぱりフランじゃないか! 銀髪のエルフに変身していたあのフランだろう!」


 改めて相手を見ると確かに知っている顔だった。優しそうな目元、笑うと大きく見える口、少し困ったように下がりがちな眉。

 色が違ってもそこにいるのはアイツだ。


「ユウ……。勇者のユウ」

「フラン!」


 パッと表情を明るくした男は俺が臨戦態勢なのも構わず駆け寄る。あっという間に男に抱き上げられれば、7歳の体じゃまともに抵抗できないし、魔法も男の魔力の質に圧倒されて発動できなくなった。


 間近で見る男の顔の造形も、その強すぎる魔力も間違いない。俺が死ぬときに見たユウと同じだ。

 

「ユウ……なのか」

「そうだ。フラン、君はどうして。生まれ変わったのか? 確かに強すぎる魔力を持つ者は前世の記憶を持つと言われているが……何がともあれまた会えた! フランに会えた! 奇跡だ!!」


 ぎゅうう〜っと苦しいくらいに抱きしめられる。男の胸板に内臓が押しつぶされる!


「なんだよお前。お前こそ何だその格好は! 今のお前は80超えたじいさんのはずだろ」

「そんなことはどうでもいい。フランだ、フランだぁ……!」

「うぎゅう〜! はーなーせー!」


 体をポコポコ叩いてもユウはしばらく離してくれなかった。


 小一時間が過ぎてようやくユウが落ち着いてから、俺たちはお互いの身の上を話し合った。


 どうやらユウは勇者を引退して隠居生活を送っていたらしい。思い出がある森の中に住み家を作り、森を抜ける行商人や旅人を案内して交流を楽しみながら穏やかに過ごしていたのだとか。それだけ聞くとやっぱりじいさんだ。


 でも異世界に渡った際に与えられた魔力が強過ぎて、25歳以降は老けなくなったのだとか。

 寿命も普通の人間よりは長く、あと100年ちょっとは生きられるらしい。


 そしてこの世界で黒髪黒目の人間は珍しいから魔法で色を変えたのだとか。

 少し惜しいな。だって本当に綺麗な闇色だったもの。


 俺も生まれ変わってからのことを話すと、ユウは驚いてすぐに同情した。「まだ幼いのに…」と信じられないような表情をするところを見るに、感性は昔のままらしい。

 

「てか前世の俺も10歳で死んだし、そんなに歳変わらねぇだろ」

「はっ? 君はあの時まだ10歳だったのか⁉︎ 子どもじゃないか」

「魔族は成長が早いんだ。生まれた時からあの姿だったしな」


 その事実の方が衝撃だったようで、ユウはヨロヨロと座り込んだ。


「つまり……5年前に初めて出会った時、俺は当時5歳だったフランに泣きついたり慰めてもらったりしてたのか?」

「ん? まぁそうだな」

「信じられない……」


 しばらく項垂れていたユウは思いついたように顔を上げると、真っ直ぐ俺の方を向いた。まるで何かを決心したようだ。


「よし、決めた」

「何?」

「俺は今日からお前の父親になる」


 ……とうとうボケたか?


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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