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【完結】魔族の若様は転生して勇者の養子になります  作者: 城崎
第三章 魔族を選ぶか、家族を選ぶか
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第22話 フランはユウとアルベルトに愛を伝える【聖女♂視点】

 店員さんの傷を治療した後、私はマーフィー卿と共にユウさんが走り去った方角へ向かった。


 魔族が現れてフランさんをさらった時、私は何もできなかった。


 ただでさえ魔法の技術が乏しいと評価されていたのに、その魔法さえ奪われてしまったら無能で、役立たず。

 魔族が離れて魔法が使用できるようになるまでひたすら店員さんの傷を止血することしかできなかった。


 私は何のために旅に出たんだろう。


 ユウさんがいなければ魔物を倒すことができず、フランさんの母としても力不足で、目の前で苦しむ人を救うことすらできない。


「アルベルト、大丈夫だ」


 ひと通りの事態を把握したユウさんはそう言って私を励ましてくれた。でも瞳には襲ってきた魔族への深い怒りが宿っているのがわかる。


 ああ、この人は強いな。


 大叔母様からユウさんの話はよく聞かされていた。抜けていて、叱るとすぐしょんぼりして、ちょっと頼りなくて。だけど戦う時は誰も傷つかないよう必死に前に立つ勇敢な人だと。


 そして彼が唯一心から愛した人が、魔王の息子であることも。


 不思議なおとぎ話だと思った。そのくらい現実味がなくて遠いことのように思えた。ユウさんとフランさんと出会うまでは。


 彼らは特別な人たちだ。

 そんな彼らの輪に入れてもらえたのに、私はまた何もできなかった。


「ママ!」


 馬を歩かせるのも難しいほど生い茂った森を進んでいくと、茂みの奥からフランさんが現れた。


「フランさん!」


 私はすぐに駆け寄り小さな体を抱きしめる。お日様のような温かい匂いがして、安堵のあまり涙が溢れそうになった。


「フランさん……ああ、良かった。大丈夫ですか、怖い思いをしたでしょう」

「大丈夫だよママ。ありがとう」

 

 所々にすり傷があるし、どうやら脇腹を打ってアザを作っているみたいだ。私はすぐに魔法で治療をした。


 泣き腫らしたのか目も赤くて、心がギュッとしめつけられる。

 こんな小さな子を傷つけるなんて、ひどいことを……。


「アルベルト、エイモンも来たのか」


 続いてユウさんも現れる。浜辺の時とは一転していつもの穏やかな彼だ。

 マーフィー卿は兜を脱いでユウさんに一礼する。


「魔族は……」

「消滅した。自分の理想が叶わないとわかって自決したんだ」


 やはりフランさんを魔王の後継者に戻すため連れて行ったのだろう。魔族はまだあきらめていなかったのか。

 この先もフランさんが狙われるかもしれないと思うと不安は増えるばかりだ。でも今は無事で良かったという思いの方が強い。


 フランさんはすり傷が無くなった腕を見て、私にニッコリ微笑みかけてくれる。


「ママ、ありがとう」

「いえ……ごめんなさい。私はあの時何もできなくて」


 ふるると首を横に振って、フランさんは私を抱きしめる。とても温かくて愛おしさが湧いてくる。


「ママが無事で良かった。店員さんは?」

「治療をして別の場所で休ませています。心配ありません」

「良かった……」


 その言葉と共にフランさんは目を細めると、私の胸にぐったりもたれかかった。


「フランさん?」

「気が抜けたらちょっと疲れちゃった……」

「大丈夫かフラン」

 

 ユウさんがしゃがんでフランさんに目線を合わせると、フランさんはそちらに向いて両腕を差し出した。


「パパ、抱っこして」

「ああ。もちろんだ」


 パパ。フランさんが彼をそう呼ぶのは初めて聞く。

 ユウさんに横抱きにされたフランさんはすぐ目を閉じて寝息を立てた。


 ああ、フランさんはユウさんに本心を伝えられるようになったのだろう。その寝顔は本当に安心しきっている。


「ユウ様、現在騎士団を周囲に派遣して魔物や魔族がいないか探させています。恐らく誰かが指導していると考えられるので……。しばらく警戒状態となるでしょう」

「そうだな。忙しくなると思うが頼んだ」

「はい。今日はユウ様に任せっきりとなってしまい、団長として恥ずかしい限りです」


 マーフィー卿は自分の無力さに歯痒そうにしている。彼も私と同じ気持ちなのかもしれない。


 魔王が倒されてから50年以上、この国は平和だった。でもこれからどうなるかはわからない。


 私も家族を守れる強さが欲しい。もっと強くなりたい。

 きっと修道院から出なければ感じることができなかった気持ちだろう。


「アルベルト、迎えに来てくれてありがとう。助かった」


 ユウさんが気遣うように話しかけてくれる。

 いや、きっと気遣いではなく無意識に言っているのかもしれない。


「お礼を言うのは私の方です。ユウさんがいなければどうなっていたか」

「確かにそうかもしれないが……ほら、こんなに気持ちよさそうに寝ている。アルベルトやあの店員さんのことがずっと気がかりだったんだろう。だから迎えに来てくれて、フランを安心させてくれてありがとう」


 温かい言葉に涙が頬を伝う。

 何もできない自分を責めていたのに、彼はそう思っていない。なんて優しい人なんだろう。


 私はユウさんとフランさんを両方抱きしめるように腕を回し、ギュッとした。

 

 彼らは私の家族だ。

 かけがえのない、とても大切な人たち。


 かつて勇者として戦い続けた異世界人と、魔王の後継として争いの場に囚われ続けた魔族の少年。裏切り、殺し合い、そして別れた2人が親子という形で一緒にいる。


 はたから見れば歪なのだろう。でも私にとって2人は本当に愛おしく、慈しみを感じる。


 この世で一番美しい愛だと思った。


※※※


「ママおはよう〜!」


 数日後、すっかり元気になったフランさんが、窓から差し込む朝日の光を浴びて元気よく声をかけてくれる。


「おはようございます」


 宿にある厨房を借りて朝食の支度をしていた私は笑顔で振り返った。その首には指先サイズの小瓶にオレンジ色の紐を通したペンダントを下げている。


 小瓶の中にはキラキラ輝く巻き貝の破片。ユウさんが「フランからの贈り物だった」と持ち帰った紐や貝を洗って、どうにか形にしたのだ。


 ユウさんも同じものをつけている。

 フランさんはそれを見るたびに少し誇らしそうな顔をするので、この先もずっと大切にしようと思っている。


 フランさんは私たちにいっぱい愛を伝えてくれる。

 だから私も。


「フラン、アルベルト。おはよう!」

「おはようございます」

「おはようパパ」


 また新しい1日が始まる。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

これで第3章はおしまいです。残り2話です。


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