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【完結】魔族の若様は転生して勇者の養子になります  作者: 城崎
第三章 魔族を選ぶか、家族を選ぶか
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第20話 ユウはフランを傷つけられて激怒する


 ヴァンに連れてこられたのはビーチから離れた山の中で、斜面を削って作ったような洞窟に入ったところで降ろされた。

 中は薄暗いしジメジメしてどこか不気味だ。魔王城を思い出してしまい気持ちはさらに沈む。


「どうして俺を拉致したんだ」

「拉致? 違います。あなたを助けに来たのです。まさかあの勇者の監視下に置かれていたとは大変でしたね」


 ヴァンは心外だと言わんばかりに答える。俺が勇者に正体がバレて不自由を強いられているように見えたのかもしれない。


「若様が私が作った魔物に魔法を放たなければ、あなたの正体に気づけませんでした。ああ、あの忌まわしい勇者に私の可愛い魔物を葬られるなんて不愉快極まりない。ですが……あなたを見つけられたのは幸運でした」


 あくまでも淡々と感情の無い言葉が並べられる。本当に腹を立てているのか、喜んでいるのか、それすらわからない。


「何のつもりだ」

「時期だと思ったんです。先代は勇者の剣で魂ごと切り裂かれ消滅しました。しかし若様の魂の消失は確認できなかった。だからそろそろ転生し、力に目覚める時だと思い最近活動を始めたんですよ」

「つまり魔物の動きが活発になったのは俺が関係しているのか」

「ええ」


 ヴァンは当然だと肯定する。

 奴は俺が転生して次の魔王になると信じて疑っていなかった。


 長い間繰り返し魔王が倒されても復活し続けたのは、そうやって記憶を保持したまま転生したからじゃないのか。

 もし記憶が戻らないとしても、ヴァンみたいに探して連れ戻しに来るのだ。


「でも、でも! 今の俺は人間だ。俺はお前たちの敵だ」

「そうでしょうか? 若様の魂は今も魔族のままでしょう。私にはわかります。その闇の力は魔王一族のもの。作られた生命、作られた力。魔族のためだけに生み出された道具」

「違う! 俺はもう魔王とは関係ない。今の俺はあの男の息子だ」

「生みの親には捨てられましたか」


 ヒュッと息を飲み込んでしまう。


「人間どもは闇属性の魔力を嫌う。最近は認識を改めさせようとする動きもあるようですが……若様は拒絶されたんでしょう?」

「それは、そうだけど」

「こんな愚かな人間共は殺し尽くして大地を浄化させましょう。あなたにはそれだけの力があります、望まれています、使命を課されています」


 ヴァンの細長い指が俺の頬に触れる。


 嫌だ。


「気安く触れるな無礼者!」


 その手を勢いよく弾く。


「勇者には触れさせたのに? 女のような下品な容貌を持つ男も側に居させてましたね」

「俺が許可を出し、お願いしたんだ。俺は2人の子で、2人は俺の親だ。俺はその生き方を選んで望んでいるんだ!」


 ヴァンは驚きで目を見開いた後、細長いため息をつく。静かな森の中で嫌に呼吸音が響いた。


「気色悪い」


 横腹に衝撃が走る。体は浮き上がりすぐ地面に落ちた。


「うっ……ぐう、あ。あぁ……」


 蹴られた。鈍痛で体が悲鳴をあげてる。

 頭がガンガン揺れて耳鳴りで周囲の音が上手く聞こえなかった。


 痛い、怖い、痛い。


「やはり今の器がダメだな。下品で愚かな人間の思想に侵食されている」

「お、まえ……」


 抵抗しようと念じてみるが、やはり魔力は強制的に抑えられて魔法を使えない。揺れる視界をどうにか前に向けると、目の前にはあの貝殻のネックレスが2つとも地面に転がっていた。

 蹴られた衝撃でポケットから飛び出たらしい。


「あ……」


 嫌だ、気づかれる前に取らないと。

 大切な、大切な物なんだ。


「何ですかこれ。汚らわしい」


 ネックレスの上に勢いよくヴァンの足が振り下ろされる。


 パキッと軽い音を立てて、ネックレスの貝はあっという間に粉々になった。綺麗だと思った貝の破片が外の光に当たってキラキラ輝く。


「あ、ああ……」


 紐は土にまみれて茶色くなっている。ユウにピッタリだと思った鮮やかな青と、アルベルトの髪色に似ていると思った優しいオレンジ色だった。


 だけど汚れてしまった。壊れてしまった。

 もう渡せない。


 ポロポロ。


 水が頬を伝う。

 ヴァンに隙のある姿なんて見せたくないのに、止まってくれない。


 悲しい、悲しい。


「はぁ。ここまで人間に染まってしまうとは嘆かわしい限りです。魔族の体に魂を移し替え最初から調整をする必要があるようですね」

「何で……どうして俺なんだよ。俺は、嫌だって。魔王が欲しけりゃ……お前が。お前がなれば良いじゃないか」

「ダメです。魔法の強さは魂に属する。魔王の魂が勇者に消滅させられた今、最も相応しいのは若様だけなんですよ」


 つまり俺だから。俺の魂が存在する限り俺は魔王の運命から逃れられない。


 ――生まれも育ちも環境も関係ない。生きてるものは生まれたその瞬間から愛される資格がある。


 ユウはそう言ってくれたけど違った。

 俺は、生まれながらに呪われている。愛される資格なんてない。


「……」


 抵抗の意思を失ったのを悟って、ヴァンは再び口元を歪めて笑みを作る。

 幸せな生活はもう終わりなのだ。


 ぽたんと涙が地面に落ちる。


「フラン!」


 そんな時、どんな人よりも聞きたかった声が聞こえた。


 顔を光が差す方へ向けると、そこには息を乱し汗で顔を濡らすユウが立っていた。

 

「ゆ……う」


 その必死な顔も、真っ直ぐでよく通る声もずっと変わらない。

 誰よりも俺に寄り添ってくれた、優しい人。


 ユウは俺の顔と俺の前にある砕けた貝殻を交互に見る。そしてゆっくりとヴァンの方に向いた。


「フランを泣かせたのか」


 無感情な声が洞窟に響いた。

 次の瞬間、ヴァンの顔にユウの拳がめり込んだ。


「ぐゥ!?」


 くぐもった声と共にヴァンの体は壁に叩きつけられる。


「お、まえ……」


 ヴァンが体勢を直す前にもう一度拳が顔面にめり込む。ヴァンに接していた洞窟の壁はヒビを入れ全体が大きく揺れた。


 ユウは崩れ落ちるヴァンの前に立ち、殺意がこもった怒りの表情で相手を見下ろした。


「お前……俺の息子に何をしたッ!!」


ここまで読んでいただきありがとうございました。

ユウはフランを傷つけられた時に一番怒りを感じます。

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