第19話 フランは魔族に連れていかれる
「ぬ~」
その後もユウとエイモンは情報交換をしていたが、俺はつまんなくなってしまったのでアルベルトと浜辺で遊んでいた。
「えいっ」
砂の上を歩いていたカニを捕まえると、手の中でピチピチと動いているのがわかる。すると指に痛みが走り反射的にカニを地面に放り投げてしまった。
カニは慌てて海の方へ逃げてしまう。
「ママ〜挟まれた」
「あらら、痛かったですね」
アルベルトは砂だらけになった俺の手を握って優しくさすってくれる。カニに挟まれた痛みはすぐに引いたので、腫れてなさそうだ。
ちぇ、スープに入れたら美味しいだろうって思ったのに。
しばらく地面を眺めながら歩いていると、砂に埋もれた貝がキラリと太陽の光を反射した。拾ってみると巻き貝が2つ。どちらも海を思わせる青だった。
貝殻ってこんなに綺麗なんだ。
どこも欠けていないし中身は空っぽだ。これは丁度良いかもしれない。
「ママ、ちょっと海の家に行ってくる」
「そうですか、では私も一緒に」
「ダメ。俺1人で大丈夫だから!」
心配そうな顔をするアルベルトに手を振ってすぐそこにある海の家に駆け込んだ。
中では店員さんがつまんなそうにしていたけど、俺を見てニッコリ笑いかけてくれる。きっと魔物のせいでお客さんがいなくなって商売できなくなったんだろうな。
「店員さん。あのさ、俺相談したいことあんの」
「パパやママには難しい内容?」
「んー。言いたくないこと、秘密のことなの」
「なるほど~じゃあお兄さんが聞いてあげよう」
俺はこっそり持ってきた2つの貝殻を見せる。もう一度見ても綺麗な青色で宝石のようだ。
「おっ、これはいいもの見つけたね。お土産にも好まれる巻貝なんだ」
「これね、俺の両親にプレゼントしたいんだけどいい感じにできないかな?」
店員さんは微笑むと奥から道具入れを持ってきた。蓋を開けるとそこには鮮やかな色の紐やビーズが入っていて、まるで宝石箱みたい。キラキラ魅力的な中身に思わず目を奪われてしまう。
「海に来た記念に好きなものを使っていいよ」
「わあ、本当? ありがとう!」
店員さんに貝殻に小さな穴を空けてもらい、そこにユウやアルベルトをイメージした色の紐を通す。さらに木を削って作ったようなビーズを通して紐の端を結んで輪っかにした。
「できた!」
そしたら貝殻のネックレスの完成。
子どもだましな出来だけど、子どもの俺が作ったんだからまぁ許されるだろう!
「パパとママも喜ぶよ」
「むふっ。本当に喜んでもらえるかなぁ」
「あたりまえさ。可愛い子どもがくれるのはぜーんぶ宝物なんだから」
ユウともアルベルトとも血の繋がりはない。しかも出会ってまだ1週間ちょっとしか経っていないのだ。
でも前世の俺を知ってもなお親として愛すると約束してくれた2人には本当に感謝しているし、今まで知らなかったくらい心は満たされている。
2人はどうなのかな。俺と一緒にいて楽しいかな?
「俺はずっと2人と一緒にいたいなぁ……」
俺のつぶやきに店員さんはよしよしと頭を撫でてくれた。
すると足音が近づいてきたので、俺は慌てて水着のポケットに貝殻のネックレスをしまう。ゆっくりとした足音は多分アルベルトだ。
「フランさん」
「ママ」
「ユウさんに宿を探して休んで欲しいと言われたので先に向かいましょう。店員さん、彼の相手をしてくださりありがとうございました」
アルベルトが微笑むと店員さんは頬を赤く染めて「いやぁ、全然」と照れた様子で答えていた。未だに性別を間違えているのかもしれない。
ま、美人だし意識しちゃうのは仕方ない。俺だって10年後はアルベルトくらいの美男子になってる予定だけどな!
「さ、行きましょう」
アルベルトが差し出した手を取ろうとした時。
俺のすぐそばで轟音が響く。
壁が勢いよく吹き飛ばされ、店内の商品は全てひっくり返った。その衝撃で店員さんもアルベルトも地面に倒れこんだ。
「なっ!?」
だけど俺の体は動かない。誰かに掴まれて……。
「若様。まさかこのようなお姿になっていたとは」
俺の腹に腕を回して抱えているのは、嫌というほど見た相手。灰色の肌に漆黒の民族衣装、血のように赤い目に鋭い歯。
魔族の特徴を有するその姿を見間違えるわけがない。
「ヴァン……」
前世の俺の側近だった男。50年以上経っても変わらないヴァンは俺を見てゆったりと笑う。
「フランさん!」
壁の破片で顔に傷を負ったアルベルトがすかさずヴァンに向かって魔法を放とうとする。
『光よ、貫け!』
しかし伸ばされた手からは魔法陣どころか魔力の光すら現れない。
「どうして……!」
「ママ、コイツは相手の魔法を封じる呪術を使う! 逃げろ!」
ヴァンは独自の能力で周囲の魔力の流れをせき止めることができるのだ。そうして次期魔王の座を奪おうと俺を殺しにかかってきたことがあるが、当時の俺は素手でも強いので軽く返り討ちにしてボコボコにして土下座させた。
だけど今は人間の子どもの体だ。魔力を封じられたら何もできない!
ヴァンが空いてる方の手を上げて振り下ろす。すると見えない刃が床を抉りながらアルベルトに迫った。
「ママ!」
アルベルトは間一髪で避けるが、当たった壁は紙を破るように裂けて土埃を舞わせる。
「このっ! その子を離せ!!」
今度は起き上がった店員さんがヴァンに殴りかかるが、その前にヴァンの手が向けられる。
「やめろ!」
俺が必死に手を伸ばしてヴァンの袖を引っ張りわずかに軌道を反らせる。だけど風が目の前を通り過ぎたと思ったら店員さんの肩から血しぶきがあがっていた。
「ひっ……うぁ、あぁ…ああッ!」
「店員さん!」
アルベルトが駆け寄ってうずくまる店員さんの傷口を素手で押さえる。だけど魔法が使えないから血はみるみる溢れていく。
「ヴァン、やめろ。やめてくれ! 用があるのは俺だろう!」
「……若様。ずいぶんと変わり果ててしまったのですね」
必死に止めようとする俺に向けられる視線は、氷のように冷たい。
違う。魔族は本来このくらいの温度で相手を見る。ここ最近俺に向けられていた眼差しは暖かくて、優しくて、過去のことなんて遠いことのように感じていた。
「さて、ここだと騒がしいので場所を変えましょうか」
俺を抱えなおすとヴァンは黒い翼を広げて飛び立つ。ぶわっと体が浮く感覚に恐怖を覚え、俺は硬く目を閉じた。
「フランさん!」
アルベルトの声が聞こえる。顔に受ける風に耐えながら目を開けると、半壊した海の家が小さくなっていくのがわかる。
ああ、ユウもこっちを見てる。魔法を発動できないことがわかったのか、必死にこっちに向かって走ってるみたいだ。
ごめん、ごめんね。俺は何もできなかった。
「フラン……フラン!!」
ユウが何度も俺の名前を呼ぶけれど、声は遠くなり聞こえなくなった。
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