第15話 聖女アルベルトはフランの母になる
「ええ!? 私がフランさんの……母? ……母親!?」
俺の提案にアルベルトは目を白黒させる。動揺する顔も綺麗だな。
「フラン、男性に母親役を提案するのは流石に。そもそもアルベルトは聖女……って表現でいいのか? で、修道士だ。ヒーラーのように使命が無い限り町の外には出られないんだ」
「えー、何か色々面倒くさいんだな」
そんな窮屈な生活をしてつまらなくないのか?
だけどアルベルトは俺に視線を合わせて申し訳なさそうな顔をする。
「それに私は神に身を捧げたので結婚はできないんですよ」
「ああ、別にユウと結婚する必要はない。ただ俺のお母さんになって欲しいって思ったんだ」
「一体何を言っているのだろう」とさらに困惑するアルベルト。うーん、なんて伝えれば良いのだろう。
困っているアルベルトの横でユウは自分の手のひらに拳をポンと叩いた。
「つまりアルベルトには母性を求めているってことか?」
「そうそれ! それにヒーラーに許可を得れば旅に出られるんじゃない? 今は聖女は形だけって言ってたし色々自由なんだろ。アルベルトはもっと好きなことした方が良いよ」
初めて出会った時のアルベルトは俺たちを微笑ましく見ていたが、どこかうらやましそうな反応だなって感じた。
もちろんヒーラーを尊敬したり聖職者としての誇りはあったりすると思う。
「ですが……」
「アルベルトが憧れたのは、勇者一行として旅をしたヒーラーじゃないの?」
図星だったのだろう。出かけた言葉が引っ込みポカンと口を開いている。
「俺はお母さんみたいな人がいたら嬉しい。別に性別とかなんとかじゃなくて、こう! 包み込むような優しさのある素敵な人が一緒にいてくれたら嬉しいんだ」
「パパじゃダメなのか」
「ユウは暑苦しいからちょっと違う。別に嫌いってわけじゃないけど!」
「暑苦しい……」
ちょっとしょんぼりしているユウ。悪いけど今はスルー!
「で、アルベルトが旅をするヒーラーみたいになりたいなら、そのきっかけが欲しいんじゃないか。こっちにはあの勇者だっているんだぞ! 引退してるじーさんとはいえ形式的には勇者一行の一員になれるんだ。win-winじゃないか」
つまり互いに利益があるんだ。損するわけじゃないしお得だと思うんだけどな。
そりゃあ男なのにママになれ! なんて何かアレな要求だと思うけどさ。
「アルベルト。フランの言い方は少し難しいが、つまり一緒に旅をしたいってことだ。そして君が望んでいるなら俺も喜んで受け入れる」
「あの……ユウ様。私が母になるとしたら内容がともあれ周囲にはあなたと夫婦だと宣言するような形になるかと……」
アルベルトは言いにくそうにしているが、ユウは少し悩む素振りを見せると大きくうなずく。
「まあフランがそうしたいならかまわない! アルベルト、どうかこの子の母親になって愛情を注いで欲しい!」
今度は俺が反射的にむせて咳き込んでしまった。潔すぎる!
「自分から言い出しておいてなんだけど、ユウは抵抗感ないの? 魔族たちだとそこら辺テキトーだけどさ、人間社会は変に複雑だろ」
「といっても俺自身は多様性の世界から来てるしなぁ。フランが喜ぶならさほど気にしない」
「タヨーセーって万能なんだな。お前の故郷ぶっとんでるなぁ」
ユウの許可を得られるなら後はアルベルトの意思だ。
「私は……」
「別にいいんじゃないかしら。今は比較的平和だし、古い慣習に縛られる必要はないわ」
ゆっくりとした足取りでやってきたヒーラー。昨日と同じ正装で優雅な雰囲気だが、片手には出店で買っただろうドーナツがあり半分くらい減っている。
聖職者って食べ歩きも普通にするんだな。やっぱり現代は色々変わったらしい。
「結婚しろって言われてるわけじゃないし、そうだとしてもたまには神以外の人と結ばれても良いと思うわ。そっちの方がロマンチックだし」
「教会の1番偉い人がどえらいこと言ってる」
「多様性だな」
極端な物言いをしているけど、多分アルベルトが素直になれるようわざと言ってるのだろう。ヒーラーはそういうところがある。
あと単純に恋愛脳でもある。前世の俺とユウをカップリングしたがってたしな。
「あなたはどうしたいの、アルベルト」
「大叔母様……。私は」
俺が迷うアルベルトに近づいて手を握ると、ピクンと震えたあと優しく握り返してくれた。
「母という立場に実感はありませんが……。彼らと旅をしたいです」
そう言ってひょいと俺を抱き上げるアルベルト。昨日と同じ花のような良い匂いがする。
「ユウ様とフランさんを見ていると心が温かくなって、正直に申し上げるとうらやましいと思ったんです。私の両親は流行病で失っていて、お祖母様も先月亡くなって。私は家庭を持つことはできない。だから……家族に懐かしさと恋しさを感じていたんです」
「じゃあなろうよ、家族に!」
俺の言葉にアルベルトは微笑み、確かめるようにヒーラーの方を向く。
「私はまだまだ現役なんだからね。あなたはもっと外の世界を知りなさい」
「はい、大叔母様。ありがとうございます」
一緒に旅ができる!
俺は嬉しくなってユウを見ると、奴は俺の頭をポンポンなでてくれた。
何か子ども扱いされるのも慣れてきたな。まあ子どもなんだけど。
「フランさん、私にあなたを愛する資格を与えてくださいますか?」
俺と視線を交えて改まって言うアルベルトが何だか面白くて、俺は両手を口元に当ててクスクス笑ってしまう。
「ふふっ、仕方ないなぁ!」
今日、俺はお母さんができた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
第2章はこれでおしまいです。
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それではまた3章で。




