第13話 ユウは犯人を打ち上げてたまやをする
「魂に帯びた魔力から、お前が魔物を操る呪術師だとわかっている」
「何だそのデタラメな能力は! 突然落ちてきたと思ったら拘束して……本当に何なんだよお前らは!」
バタバタ暴れるのは黒いローブを着た怪しい男。そこら辺にあった丈夫な蔓で手足をグルグル巻きにしているので、逃げられはしないだろう。
魔物を使役した犯人の位置を特定したユウは、森に突っ込んでそのまま着地する勢いで男にキックをかました。
体重が乗った激重キックを喰らった男は転がって木に激突し、ついでに奴が待機させていた数体の魔物たちはユウの回し蹴りで呆気なく倒されていった。
その間俺ことフランはずーっとユウにお姫様抱っこされてたので、ほぼ何もしてない。というかする必要がなかった。
楽だけどなーんか納得いかないよね。
降ろされた今もモヤモヤして小さい石を軽く蹴り飛ばした。
「人間の世界では有名な禁術が2つある。1つは魔法で命を生み出したり生き返らせたりする『生命の冒涜』。もう一つは魔物を操って人を害する『害獣使役』だ。どちらも呪術の類いだけどな」
ユウの言葉に男は気まずそうに目を逸らす。
「こいつは呪術師だろ? 産みの親から聞いたことある、なんか裏社会で汚い仕事を得て生活しているんだってさ」
表社会では嫌われ者だが、平和になった今でも仕事があるっていうのはなかなか皮肉なものだ。
「ああ。先ほど倒した魔物たちの特徴から、町で現れたのと同じことがわかった。つまり彼が依頼を受けて修道院の地下に魔物を送り込み、暴れさせたんだろう」
「ちっ、まさかそこまでバレてたとはな」
忌々しそうに唾を吐く男。汚ねっ、品がない。
「おいお前、誰の依頼を受けたんだ。ていうかあの院長だろ」
「こらフラン、決めつけは良くないぞ」
ユウの言葉を無視して男を睨みつけると、相手は鼻で笑ってきやがった。お前も俺が子どもだからって馬鹿にするのか! ちくしょう!
「これでも裏稼業で生活してきたんだ。お前みたいなガキに話すわけないだろ」
「じゃあ拷問するか。この木の枝なら先が細いし、鼓膜を破るのには十分だな」
「えっ」
平然とした態度で小枝を拾う俺に、何故か素っ頓狂な声を出す男。そんなに変なこと言ったか?
「こらフラン」
「目じゃなくて鼓膜だ! 再生するから良いだろ」
「そういうことじゃない。すぐ乱暴な発想をするのはやめろ」
「ユウはキックしてたじゃん。それに大勢の人を傷つけたんだから普通だろ」
「ハンムラビ法典みたいなこと言い出した…」
ユウこそ変なことを言ってるけど、ダメと言われたら仕方ない。痛い思いをさせずに吐かせるにはどうしたら良いだろう。
「じゃあユウの魔法でコイツを空に打ち上げるのはどう。風の魔法で痛くないように雲くらい高く上げるんだ」
「ふむ……それなら可能だが、どうするつもりだ」
「そのまま落とすんだよ。人間は空飛べないし、ダイナミック高い高いしてやろう」
男は雲行きが怪しいことを察したのか、冷や汗をかいている。
「とりあえずやってみて!」
「そうか、わかった」
「は? おいお前ら一体何を……!」
ユウが男の方へ手をかざすと、相手の周囲に風の魔法が発生する。
『風よ誘え!』
瞬間、男の体は雲より高く打ち出された。小さく小さく見えるそれはフワリと止まったかと思うと、すぐさま垂直に落ちだす。
「ぎゃああああああああッ‼︎」
縛られた体を芋虫みたいに暴れさせながら落下する男。どうやら呪術以外は何もできないようだ。
「どのくらいの高さでキャッチすれば良い?」
「30cm」
ユウの問いに答える頃には、枝をバキバキ折りながら落ちてくる。
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
単調でつまらない悲鳴は地面から30cmの高さで止まった。男の体は空中で数秒停止すると、そのまま土へ顔面を打ちつけた。
「ぎっ!」
「おっとすまない。手が滑った」
ユウは申し訳なさそうに謝る。相手の顔を覗き込んでみると意外と怖かったのだろう。目から鼻から口からばっちい体液をダラダラ流していた。
「次は20cmの高さでキャッチするのはどう?」
「そうか、じゃあまた打ち上げるぞ」
俺たちの会話に男は青い顔をさらに青くして紫っぽい色になった。
「ちょっと待ってくれ、話を……っ」
「次、俺の父親が手を滑らせたら頭ぐっちゃぐちゃになるけど……その時はごめんな!」
俺の合図に合わせて再び男の体は空に打ち上げられる。
先ほどより悲鳴が大きい気がした。
「あ、やっぱ5cmの高さでキャッチできる?」
「もちろんだ!」
……
結局男の言葉を待たずに3回目も打ち上げてもらい、キャッチしたところでもう一度問い詰めた。
上からだけでなく下からも体液を垂れ流していた(ばっちい!)男は観念して色々教えてくれた。
依頼主はやはりあの院長だった。
「観念しろ院長っ!」
全身グルグル巻きにした呪術師を連れて修道院に戻ると、院長は顔を真っ青にしていた。呪術師に負けず劣らずの青さだ。
俺たちが修道院から離れていたのは30分くらいと意外に短く、院内は混乱しているだけで終わってしまったようだ。
そういえば院長が逃げ出すかも……なんて思っていたけど杞憂だったらしい。
アルベルトも軟禁されていた個室から出ていて、心配そうにこちらを見ていた。
「お前はコイツに依頼して魔物を暴れさせたんだろう。質問したら親切に答えてくれたぞ!」
「そんな……」
俺がズンズン詰め寄ると院長は信じたくないと言いたげに後ずさりをする。
「もう言い逃れはさせないぞ! 吐け! なんでこんな真似をしたんだ」
「私はやってない!」
見苦しく断言する院長。埒が明かないと思ったのか、ユウが俺の肩を叩いて微笑みかけてきた。
「フラン。打ち上げる準備はいつでもできてるぞ」
アンタも意外とノリノリなんかーい!
ケガさせなきゃいいと判定が甘いあたり、もしかしたらユウも腹が立って仕方がないのかもしれない。
「打ち上げる……? 一体何をするつもりだ!」
「さあな? でもこの呪術師さんは空中散歩のサービス提供したら素直に白状してくれたぞ」
未だにガクガク震えてされるがままになっている呪術師を見て、ヤバいと思ったのだろう。院長は動揺を隠しきれず目を泳がせている。
「もう十分ですよ」
すると聞きなれない声が響き渡る。振り返るとそこには見覚えのない老女が立っていた。あの若い兵士が横にいるあたり、彼が連れてきたのかもしれない。
修道士達と似た色の服装をしているが、比べるとより上質な布が使われているし、たたずまいも何だか神々しさを感じる。
ユウは驚きで目を見開き、ポツリと言葉を漏らす。
「ヒーラー?」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
そろそろ第2章終盤です。




