第10話 フランはおっさんに後悔させたい
「アルベルトがそんなことするわけない!」
まっさきに抗議したのはもちろん俺だ。
子どもに反発されると思ってなかったのか、聖職者のおっさんは俺の方を意外そうに見る。
「君はこの町の子じゃないな?」
「だったら何だ。アルベルトだってユウがいなかったら危なかったんだぞ。自分が危険な目に遭う真似をするなんておかしいし、そもそもアルベルトはそんなことをしない」
だがおっさんは小馬鹿にするように笑みを浮かべる。コイツ、俺が子どもだからと侮ってんな! おっさんはすぐに俺の相手をやめてまたユウの方を向いた。
「坊やは何も知らないようだ。この子はあなたの連れかな?」
「ああ、そうだ」
「私はカーライル。この町にある修道院の院長であり司祭でもある。町長からは今回の件を任されている」
つまり自分が1番偉いと主張したいのか。この国ではまだ聖職者が威張っているのかよ。
前の両親から話を聞いたことがある。この国の宗教はかなり強い力を持っていて、人からの人望も厚い。政治にも介入できるくらいで実質大臣と同じくらいの権力を持っているようだ。
「あなたがどれだけ素晴らしい方かはわかった。だがどうしてアルベルトが疑われているのだ」
ユウは少しも動じずに質問を投げかける。俺はアルベルトを握っていた手にギュッと力が入ると、手の中でピクリと動いた気がした。
「今回の魔物はこの町にある修道院から現れた。しかもアルベルトが使っている個室からだ。我らは彼が禁じられた魔法を使って時間差で召喚したと考えている」
「そんな…」
「アルベルトは修道士の中でも魔法の技術が低いが、魔力だけは豊富にある。禁術を発動させるだけなら可能だろう」
身に覚えがないのかアルベルトは信じられないと言いたげな顔だ。俺も思う。だっておっさんの推理は想像の範疇から抜け出せていない。
「この広場に来るまでに修道士が何人も怪我を負った。幸い死者はいないが、重症者はもう同じ生活を送ることはできないだろう」
「それをアルベルトのせいだ……と言いたいわけか」
ユウも納得していないようだ。表情が険しく未だ警戒の色をにじませている。
「私はそんなことしません! カーライル院長、何かの間違いです」
アルベルトは必死に訴えるが、おっさんはまるで聞こえないように無視をする。はなから聞く気なんてないのだ。腹たつ。
「とにかく疑いがある者を野放しにはできない。討伐してくれたことには感謝するが、アルベルトはこちらに引き渡して欲しい」
「できないな」
おっさんの合図で前に出てきた兵士に、ユウはアルベルトを庇うように立ち塞がる。兵士の男は不快そうに声を荒らげた。
「貴様! 何の権利があって邪魔をするつもりか」
声は思ったよりも若い。身長は高めだが歳は10代半ばくらいだろう。ユウは一切怯むことなく言葉を返す。
「院長の言い方だとこのままアルベルトを犯人として処罰するつもりのようだ。見過ごすわけにはいかない」
「貴様の意見など不要だ。自分の立場をわきまえろ」
「お前こそわきまえろ。俺は引退したとはいえ勇者だ。一介の兵士が英雄に楯突くのか?」
ユウはらしくない言葉と共に自身にかけていた魔法を解く。淡い光が弾けたと思うと、ユウの髪と目は前世の記憶にある闇色に戻っていた。
この世界の人間には滅多にない彼だけの色。
「まさか本当に勇者様なのか……?」
「噂で聞いたことはあったけど、本当に若い姿のままなんだ」
これにはおっさんも兵士も唖然としている。
そりゃそうだ。勇者は権力や爵位から逸脱した特殊な存在。ぶっちゃけ王様よりも影響が大きく、またその発言力は範囲を定められていないが故にどこまでも適用される。
ユウもそれをわかっているのだろう。相手の反応を確かめてからすぐに魔法をかけ直して、くすんだ金の髪と青の目に戻した。
「今回の事件について俺も介入させてもらう。異論は無いな?」
「はい……」
「修道院に案内しろ。その個室を確認する」
ユウの命令におっさんは不満そうに表情を歪める。でも逆らえないのか渋々うなずき「わかりました」と声を絞り出した。嫌なんだろうなってのがよくわかる。
「あ……」
俺は消え始めてる魔物に気づき、地面に置かれてたユウの鞄からカメラを引っ張り出した。魔物は前世の俺と同じで死ねば消滅する。それはどうしようもない。
まだ形を保っている個体の写真を撮ると、顔を青くして立ち尽くしているアルベルトの元に戻る。
「……」
事態を受け入れられてないのだろう。勝手に聖女に選ばれて、孤立して、それでも優しい心のまま過ごしてきたアルベルト。
なのに今は住民を傷つけた犯人にされそうになってる。院長は何も話を聞いてくれない。
俺が手を握ると震えているのがわかった。
それだけでアルベルトがずっとひとりぼっちで寂しい思いをしてきたことが察せられる。
ひどい話だよな。
「アルベルト、フラン。一緒に来てくれ」
話を終えたユウが俺たちを呼ぶ。アルベルトは俺の手に引かれて歩き始めるが、顔を青くしたまま口を硬く閉ざしていた。
「アルベルト、大丈夫だ。ユウと俺が違うって証明するから」
「……はい、ありがとうございます」
かろうじて答えるアルベルト。ユウは近づくと、ポンっとアルベルトの肩を叩く。
「お前はやっていない。だから大丈夫だ。大丈夫だぞアルベルト」
安心させるようなユウの声に、アルベルトはポロリと一雫の涙を流した。
「ユウ、お前は魂に宿る魔力が見えるんだろう。どうだった」
「もし禁じられた魔法を使っているなら、魂と体を繋ぐ魔力回路に残滓がある。でもアルベルトには無かった。だから違う」
断言するユウに俺もホッとする。俺は感覚でしか発言できないから、ユウのように確信できる材料があるのはありがたい。
ただユウの特殊能力も証拠として提示するには難しい。だから他にも確かめたいことがいくつもある。
俺はカメラから吐き出された紙をジッと観察する。
絶対にアルベルトの無実を証明して、あのおっさんに土下座させてやるんだからな。
……あと俺を子どもだと侮ったことも謝罪させてやる!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
フランは前世のこともあり、なかなか思うように目立てないみたいです。
暴れられる時が来るといいですね。




