表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

第1話 魔王の後継、死す(前編)

 人間たちはとうとう異世界人を召喚したらしい。

 理由は簡単。別世界から来た人間には神の祝福を授けられて特別な能力を手に入れるからだ。

 いわゆる「こっちの世界に連れてきてごめんね」という詫びの品を貰うようなものだ。


 魔王軍としてこれを見過ごすわけにはいかない。勇者に仕立て上げられたその異世界人がどんなもんか下見をさせにいくよね。そこら辺の部下に。


 でもソイツ血気盛んで意気揚々と勇者を殺そうとして、お供の騎士と魔法使いとヒーラーに返り討ちにされたらしい。焦げた部下の骨と通信用の魔水晶だけが帰ってきて俺は「馬鹿野郎……」と呟いた。


「若様。その勇者と呼ばれる人間ですが、とても我らの脅威になるとは思えず……」


 側近の悪魔であるヴァンは怪訝な様子で遺品の魔水晶を見ていた。水晶には短い映像記録が残されていて、魔王城に向かう勇者一行の旅の様子が映っている。


 屈強そうな騎士、何か頭良さそうな魔法使い、常に笑顔のヒーラー。

 そして明らかに肩を落としてトボトボ歩いている勇者。表情は暗くて泣き腫らしたのか目元が赤い。報告だと人間感覚では一応成人してる年齢らしいが、まるで意地悪をされて落ち込む子どものようだった。


 そりゃそうだろ! あーあ、人間怖いわぁ!


 この異世界人見るからに「突然無理やり連れてこられました」って顔してるもん。捕虜じゃん。それで俺たちを滅ぼすまで戦わされる運命だって?


 そりゃ泣くわ。俺だったら泣き喚いて癇癪(かんしゃく)起こして一帯を更地にするね。どうせ人間のことだし、テキトーに呼び出したから元の場所には帰せないって話だろう。


 うわっ、可哀想。悪逆非道だ。どっちが悪者かわかんねぇ。


「そうだ。仲間のフリをしてコイツに近づいて、精神的に揺すりをかけるのはどうだ」

「というと?」

「勇者の使命を放棄させるんだよ」


 そして俺は側近と父である魔王の反対を振り切って魔王城を飛び出し、擬態して勇者一行に近づくことにした。

 俺は魔王の子だから大抵の魔法は簡単にできる。魔法剣士として勇者一行が滞在する村に潜入して上手くコンタクトを取ることができた。ちなみにその時の俺は美少女ハーフエルフだ。文句は受け付けない。


 騎士も魔法使いも俺のことを警戒するしヒーラーは戸惑っていたが、1番嬉しそうな反応を示したのは勇者だった。


「わぁ……! エルフを見るのは初めてだ。その耳は本物?」


 何が言いたいのかわからず「は?」とたずねると、勇者は失礼な態度を取ったと思ったのだろう。慌てて謝罪をした。


 どうやら人間以外の人種を見たのは初めてらしい。旅立って半年も経ってないしこの地域は亜人が少ない。人との交流が下手そうな勇者は俺を珍しがって色々質問をしてきた。


 水晶で見たより元気だな。


 赤い頬と笑みを浮かべる姿も映像からは想像ができなかった。


 きっと一行は勇者の心を開くのに苦労していたのだろう。勇者が喜ぶならと俺は次の目的地の村まで同行することになった。流石は俺だ。


 勇者は俺に質問する代わりに色々教えてくれた。人間から勇者と呼ばれるけど本当は「アサノ ユウ」という名前があること。二ホンという国に住んでいて、ダイガクという教育機関で勉強をしていたこと。


 愛玩動物の犬が危篤(きとく)だからと実家に向かった途中で異世界召喚されてしまったこと。愛犬の最期に立ち会うことができないとわかり大泣きしたこと。


「その後で家族にも友達にも会えないんだって気づいてまた泣いてさ。もう周囲はオロオロしてて迷惑かけちゃったな」


 そんなの当然だ、お前は悪くない。そう励ましてやると勇者ことユウは心から嬉しそうに微笑んだ。


 ユウは想像以上によく笑う。そして些細なことで喜んで、悲しんで、俺に共感を求めてきた。空が綺麗だ、花が折れてしまった、今日のご飯は昨日より美味しい。そんなくだらないことの繰り返し。


 でも気分は悪くない。魔王城での生活は衛生面が最悪だし、部下の魔物たちは臭いし品がないし食べてる時にクチャクチャ音を立てる。


 一方のユウは育ちが良いのか食べ方も綺麗だし身なりの整え方も慣れている。他のメンバーは貴族出身だから当然マナーを身につけているが、ユウはそれとは違う自然で堅苦しくない品性があった。

 ニホンの貴族だったのかとたずねたら「そもそも貴族制度は無いよ」と笑われた。変な世界だ。


 次の村に向かうには深い森を抜ける必要があり、人間社会の時間に換算すると1ヶ月かかる。その間ユウはずっと俺に親しくしてくれた。というかずっと俺にベッタリだった。


 だから俺も奴が故郷を想い泣いてる時は背中をさすって慰めてやった。夜うなされて眠れない時は抱きしめて側にいてやった。甲斐甲斐しく世話をする俺にユウは目に見てわかるほど心を許していくのがわかった。


 他のメンバーからも「勇者は最近落ち着いてきた」と感謝を言われた。良ければこのまま一緒に旅をしないかと誘われたくらいだ。本当にチョロいものだ。

 ヒーラーに至っては俺とユウが恋仲なのではと探ってきた。やめてくれ、そっちの趣味はない。


 そして襲いかかってくる魔物を退けながら(一部の魔物はどうして俺がいるのか混乱してたので「ごめん」と言って遠くに吹っ飛ばした)森を抜けて数日。俺たちは無事村に辿り着いた。


 この時の俺はまだ知らない。コイツとはただならぬ縁ができてしまうことを。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

なろう投稿は初めてですが、少しずつ書いていこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ