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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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白猫のとある一夜



 回転寿司の後に、クリスが皆を連れて行った雑誌の乗っていた喫茶店。

 そこは喫茶店という名前のケーキバイキングだった。

 そんな馬鹿なと思い、ユーリは再び店を確認する。

 やはりそこは喫茶店で、そしてクリスは人数分のスイーツ食べ放題を選択した。


 既に腹一杯の状態でケーキの群れに出くわし、ユーリは戦慄を覚える。

 ここは、満足でかつ男である自分には地獄でしかなかった。


 そんなユーリと同じ状況のはずのヴァンは、当たり前の様にケーキを山の様に積む。

 ヴァンは甘党であった。


 リュエルにとっては、この状況が想定通りであった。

 この為に寿司をほとんど食べずにいた。


 クリスの胃袋はもはや単なるブラックホール。

 こいつの中ではこれは日常に過ぎない。


 そしてヴァンもまた伊達や酔狂で料理人を目指す訳ではなく胃腸が丈夫。

 そういう訳でユーリだけハードな状態となり顔を青ざめ付き合いのケーキ一つに大苦戦する中で、ヴァンは自己紹介を始めた。


 ヴァン・ロウ。

 出身はハイドランド遠方のドの付く田舎。

 劣悪とまでは言わないがそれに準ずる環境でスラムに近かった。

 そういった環境で育った幼少期の為、ヴァンは世間知らずでかつ乱暴者にカテゴライズされるだろう。

 子供の頃から働いてたが同時に何度も騙され搾取されてきた。

『騙される方が悪い』

 彼の居る場所はそういう環境であった。

 大人も子供から搾取し生きなければならない程度には厳しい環境であった。


 そして、幸いな事ヴァンにはその騙される環境から抜けだすだけの才能があった。

 体格に恵まれ非常に丈夫という才能が。


 幼少時より働いていた経験。

 騙され奪われた経験。

 そして優れた肉体。


 そうして彼は何でも屋という名前の冒険者として成功し、食うに困らない生活が出来る様になる。

 そんなある時、思ったのだ。

「そうだ。スシ職人になろう。そういう訳で俺はその日から……」

「いやその過程が聞きたいんだけど?」

 ユーリの突っ込みにヴァンは複雑な顔を見せた。

「そう言われても特に……。まあそんな訳で夢に目指して進んで、今日で一気に駆け抜けたって感じだな」

 学園傍の回転寿司にアルバイトとして入り学ぶ事が出来る。

 後は学園に通いながら冒険者として稼げば独立も夢ではないだろう。

 いや、もう夢というよりも未来と呼ぶ程度には現実味が出て来ていた。


「後語る事と言えば……これ位か?」

 ヴァンは背負っている大剣……にそっくりな包丁をゴンと叩いた。


 無銘包丁。

 強いて名付けるとするならフライナイフだろうか。

 それはフライパンと包丁、両方の性質を合わせ持つ。

 耐久に優れ火に強く刃こぼれしない。

 代わりに切れ味が非常に残念な事になっているなんて本末転倒な武器である。


「苦労したんだぜ? どこの鍛冶師に頼んでも受けて貰えなくてな」

「だろうな」

「失礼な事に発想の説明したら頭の心配まで何度もされた位だ」

「だろうな」

「そんな時だったわ。流れの鍛冶師がゲラゲラ笑いながら仕事受けてくれてな」

「鍛冶師の頭疑うわ」

「まあ心配だったが腕は確かで、この通り立派な包丁の出来上がりだ」

「立派で良いのだろうか」

「ああ包丁と言っても雑に使える程度には頑丈だから何かあったら振り回すぜ」

「それもう剣じゃねーか」

「包丁さ。料理人の魂のな」

「お前の魂方向音痴過ぎるんだよ」

「後は……特にないな。俺はまあこんなつまんない男さ」

「お前はどこを切り取ってもおもしれー男だから安心しろ」

「あんまり褒めるなよ。照れる」

「褒めてねーよ。そして照れ顔もこえーよ。……まあ、大体わかった。色々突っ込みきれないが、あんたが頼りになる仲間ってのは間違いない。よろしく頼むよ」

「おう! と、こっちも一個あんたに聞いて良いかいユーリ」

「何だ?」

「あんた……結構マジで狩猟祭狙ってるだろ?」

 さっきまでの馬鹿馬鹿しい雰囲気が一変し、挑発的な笑みをヴァンは見せた。

「……どうしてそう思う?」

「目が違う。リュエルは……あんま関心ないんだろうな。色々な意味で」

 ケーキをもぐもぐ食べ自己紹介も話半分な様子。

 狩猟祭もだがヴァンにもさして興味がなさそうだった。

「クリスはキラキラしてるが純粋な楽しさの目だ。好奇心と言っても良い。だけど……あんたは違う。ギラついてる。昨日までの俺と同じ目だ」

「……もしそうならどうする?」

「別にどうも? 恩返しの機会として本気出すだけさ」

「そうか」

 ユーリはぶっきらぼうにそう答える。

 だけど、その口元には微笑が浮かんでいた。




 夜……星々輝く魔性の夜。

 廃墟となっても尚、朽ちても尚残り続けているその巨城。

 荒れ果てた今でさえも、この場所にはかつて栄光があったと伺う事が出来る。

 目を閉じれば、尊大な王が玉座に座り大勢の兵士に命令をする様な、そんな光景が彷彿とさせられた。


 その廃墟に白猫は居た。

 星の光を集め白銀に輝くその白猫。

 彼女は冷たい目で、その玉座の『今の主』を見ていた。


 綺麗な夜だった。

 綺麗な星空に、醜い光景が映し出される。

 玉座に座る男と、その上のまたがる女。


 そうして二つの命は夜空の下で……一つとなっていた。

 女の命は、男の中に溶け込んだ。

 男が女の首筋から口を離すと、そこには牙によりつけられた二つの穴が。

 そしてそのまま、女は塵と化し世界から消滅した。


「失礼、待たせたね」

 男は悪びれた様子もなくそう口にした。

「別に良いわ。どうでも」

 白猫はそう答える。

 別に嫌味でも何でもなく、本当に男に興味がなかった。

 男は困った顔で小さく溜息を吐く。

「困ったね。私のどこがそんなに不満だと言うのか……。あの醜き亡者などよりよほど優れているという自負があるのだが……」

 彼の語る亡者というのはルークの事である。


 ゾンビを生み出す事、それは彼にとって最も愚かで最も許せない所業であった。

 例えるなら料理を食べずドブに流す行為に近いだろう。

 だからもし彼が今生きていればきっと彼を百度後悔する様な手法で殺していた。

 それ程に彼の行為は『吸血鬼』にとって許せざる事だった。


 吸血鬼。

 魔族の中でも一際強力な力を持つ存在。

 夜の一族とも言われる。

 が、近年その数は減少の一途を辿っている。


 彼らが、人間の血を吸わなければ生きていけないからだ。

 吸血鬼にとってこの『魔族さえも人類』となっている現状、つまり『人類融和主義』は毒そのものだった。


 これが血の薄い吸血鬼ならば問題はない。

 彼らは血を吸わずとも生きていける。

 混じりの多い下賤な吸血鬼でも何とかなる。

 彼らは人間の血以外でも生きていけるからだ。


 だが、気高き純血はそうはいかない。

 彼らは人間の血を、それも直接牙を突き立てぬ限り生きていけない。

 故に、今生きている純血の吸血鬼はこの社会にとってすべからく『抹殺対象』となっている。

 彼らが今飢えず生きているという事そのものが、無垢なる民を喰らったという証明となるからだ。


 そんな、生きているはずなき咎人、気高き純血の一人こそが彼である。


 彼は最近出会った白猫を友として歓迎している。

 種族こそ違えど魔族であり強者であるならば、彼にとって礼を尽くすべき仲間同然だった。

 ただし、人間の様な家畜に媚を売らないならという枕詞が付くが。


 それでも一つだけ、彼は白猫に対しどうしても許せない事があった。

 白猫がルークに協力したという事実である。

 いや、協力した事そのものは構わない。

 家畜の屑でもそれなりに使える様ではあったのだから、彼女にも恩恵があったのだろう。


 そこではなく、ルークには協力したのに自分には協力してくれない。

 それが酷く不満だった。

 まるで、あの家畜の亡者より劣っているとみられている様な気がして大変不愉快であった。


「一体何故なんだ? 別に協力を強制したい訳ではない。むしろ君の目的に協力しても構わないと思っている! だが君は……」

「ええ、悪いけどあんたに興味はないわ」

「せめて理由を教えて欲しい。あの亡者と私で、一体どう選別しているのか……」

「嫌よ。変に教えて不機嫌になられても嫌だし、何より単純に面倒」

「つれないね……。まあ、堂々巡りにしかならないだろうし切り替えよう。付き合って貰えないだろうか? 良いワインが手に入ったんだ」

「奪った、でしょ?」

「家畜の物を奪うと表現するのは私の主義ではないかな」

「……まあ良いわ。物に罪はないし、別にあんたの事嫌いって訳でもないし」

 そう言って、天井から彼の居る玉座の傍に、そしてそのまま人間形態になった。


 白銀の長いツインテールとなった、少女の姿。

 夜であっても輝いて見えるその姿を見て、彼は小さく感嘆の息を漏らす。

「ああ、全くもって美しい。君が同種であれば跪き愛を乞うただろうに」

「ありがとう。意味はわかるわ。でもロリコンにしか見えないわね」

「外見など些細な事ではないか、君の魅力の前には。一体どれほど力を持っているのか……。まあ、無粋な話か。少し待って欲しい。今グラスを用意しよう」

 そう言って彼はテーブルとグラスの用意を始める。


 白猫が彼を、目の前の吸血鬼を利用しないのには理由がある。

 理由というよりも矜持と呼ぶ方が近いかもしれないが。


 ルークは確かに悪だった。

 殺されても仕方のない屑であり、彼の末路に同情を覚える事もない。

 だが、彼の行動の根本にあるのはまごう事なき『愛』という名の感情であった。

 彼は誰よりも愛を大切にし、誰よりも愛を愛し愛に誠実だった。


 要するに、ルークの行動原理そのものは愛であり『善』であった。

 誰かを純粋に愛する事が悪である訳ないのだから。


 一方この吸血鬼は違う。

 差別思考に凝り固まり、人間を畜生として扱い、他種族を苦しめる事に何の抵抗もない。

 社会秩序という意味でも単純に生物という意味でも不純であり害そのもの。

 要するにその根本は『悪』なのだ。


 それが理由。

 白猫が利用し、クリスにぶつけるのは『善なる根本でありながら悪しき行いをする者』と決めていた。

 それが彼女の矜持……いや、憎きクリスに対しての意趣返しであった。


「待たせたね。それじゃあ乾杯と――」

 そう言って彼がグラスを差し向けた瞬間――白猫は殺意を感じすぐ飛びのいた。


 その直後だった。

 天上に穴が開き、何かが降って来たのは。


 落下物による爆音の中、白猫は確かにその音を耳にした。

 ぐしゃっという様な、何かが潰れる音を、その爆心地、吸血鬼の男が居た場所で。


 砂煙が晴れ、中の様子が顕わとなる。

 割れたグラスと床を赤く染めるワイン。

 そして、吸血鬼だった彼が地面に横たわっていた。

 手足があらぬ方向に曲がり、まるで潰れた蟲みたいに。

 白目を剥いて気絶し、口からおびただしい量の血を吐いて。

 だがそれでもまだ彼は生きていた。

 体が潰れ全身の骨が折れた程度で純血の吸血鬼が死ぬ訳がなかった。


 その情けない吸血鬼の姿を、()()は踏みつける様に見下ろしていた。

 唐突に空から現れた、桃色の長い髪をして、露出の多いドレス風の衣装を身に纏った妖艶なる女性。

 出る所は出て、引っ込むところは引っ込んで、服装から化粧まで全てに『美』を意識していて……。

 失礼な言い方だが、その色気と美貌は男を狂わせる娼婦のそれに近かった。

 それも、国の要人を相手にする上級娼婦のそれに。


 そんな彼女は無表情のまま、真下に拳を叩きこむ。

 拳は、吸血鬼の心臓辺りを貫通し穿った。


 白猫は直感した。

 これは駄目だと。

 吸血鬼とは言え即死でしかない。

 その証拠にばかりに、吸血鬼は塵となりその場から消え去った。


 まあそりゃあ、吸血鬼は完全なる『抹殺対象』でありこういう処刑人が襲い掛かる様な事が起きてもおかしくはない。

 実際彼は人を見下し割と雑に痕跡を残していた。

 だけど同時に白猫は、目の前の美女がただ吸血鬼だけを狙って来たと考える程夢見がちな性格をしていない。

 白猫は、大魔王の敵であるのだから。


 美女は白猫の方を見て、そして笑顔を浮かべた。

「こんばんは。子猫ちゃん」

 人の姿となった彼女に対してのその言葉。

 それは明確なる敵対者宣言と思って間違いない。

「ええ、こんばんは。ところでどちら様か伺っても? アポは受けてないんだけど?」

「あらあらごめんなさい。受付があるのなら教えてかしら? 今後の参考にするから。それで……私だっけ。そうねぇ……」

 美女は扇子を取り出し、自分の口元を隠しながら微笑む。

 

 そしてくるりと回る様に舞い、魔法を発動させる。

 風の大規模儀式魔法、竜巻の壁が生じ、白猫の逃げ場所を封じた。


「ハイドランド王国四天王序列一位、『リシィ』ちゃんよ」

 舞う仕草のまま、格闘技の様な構えも混ぜ彼女はそう告げた。

 白猫の頬に冷汗が一滴、引きつった笑みを浮かべていた。

「ありゃ。四天王一位は男って聞いたんだけど?」

「あらそうなの。不思議な話ね」

「ええ、全く不思議な話よ」

 そんな会話をしているが、白猫は彼女が四天王であると疑ってはいない。

 その魔力量と戦闘能力、そして吸血鬼を即死させるだけの怪力。

 それは間違いなく四天王クラス。

 つまり……格上である。


 今の白猫に彼女を打倒する事は難しい。

 絶対勝てないとまでは言わないが、あまりにリスクが大き過ぎた。


「顔に出てるわよ? 怖いって」

 そう言ってにっこりとリシィは微笑み――突進してきた。

 顔色を状況判断に使われた。

 そう自分の失態に気付いたのは、彼女の拳を腕でガードしてからだった。


 爆弾がゼロ距離で爆発したみたいな衝撃が腕に走る。

 一瞬油断してくれないかなとか考えたが……そんな甘い相手じゃなかった

 一撃一撃に吸血鬼を貫いたのと同じだけの力を込めていた。


「あーもう! どうしてこうなのかしらね私は!」

「さあ? わからないけど、貴女ちょっと素直過ぎるんじゃない? 人生経験足りてる?」

「おかげ様で絶賛溜まりまくってるわよ!」

 白猫は後ろに飛びのいてから弓を生み出し、光の矢を連続して放つ。

 襲い掛かってくるのは、銀に輝く無数光の矢。

 リシィはその矢を扇子で蚊でも追い払う様に払いのけていった。


 躱された矢が着弾する背後で爆音が繰り返される。

 これはこのままだとこの廃墟が崩れるだろう。

 そう思う程度には威力があった。

 そしてそれだけの威力がある魔法を、リシィはお遊び感覚で払っていた。


「でも……私だってそれなりにやるのよ! 舐めないで頂戴!」

 白猫は矢を三本、同時に放つ。

 それをいつもの様に払いのけようとしたが……三本の矢は曲線を描き矢にあるまじき軌道でリシィを襲ってくる。

 直前まで来てから歪曲する様に曲がり、そして左右と背後の同時攻撃。

 リシィは微笑みは口元を扇子で隠しながら、くるりと一回転し風を纏って矢を払う。

 

 その動作直後に、白猫の接近に気付いた。

 三本の矢を隠れ蓑にし接近での攻撃。

 それは――リシィにとって完全に、想像通りの動きだった。


 拳を構え、力を込める。

 そして白猫が攻撃範囲に入りカウンターの全力攻撃を放つその直前……。


 白猫は、その姿を消した。


「はれ?」

 握られた拳は特に反応せず、攻撃される気配もない。

 ただ後ろの方で、とってとってと駆け出す音だけが残る。


「……私とした事が……あまりにも古典的な事を……」

 わなわなと震え、ずーんと落ち込む。


 なんてことはない。

 接触直前に白猫は猫の姿に戻って、そして股下をくぐった。

 それだけの事。

 ついでに言えば光の矢により風の壁は破られ、更に生じた無数の『小動物位なら通れそうな小さな穴』によって、どこから逃げたかもわからない。

 追いかけるのも難しそうだった。


「あーあー。これヒルデちゃんに叱られるなぁ」

「私が何でしょうか? リー・シィ様」

 呼んだ瞬間姿が見えて、リシィはあちゃあという顔を浮かべる。

 たぶん仕事が終わって急いで来たのだろう。

「……あー。えと、ごめん。逃がしちゃった」

「そうですか。あなたが逃がしたのでしたら、まあしょうがないでしょう。相手の戦力を上方修正しておきましょう」

「その信頼が重い……。でもごめん、ミスしただけ……」

「いえ、ミスでも何でもリー・シィ様が逃がすというのはよほどです。……出来るなら、あなたにあれの追跡をお願いしたいのですが……」

「あははー。ごめんね。私も忙しいから」

「そう……ですね。申し訳ありません。無理を言いました」

「ううん。でも……気を付けた方が良いかもね本当に」

「何故ですか?」

「中途半端に、だけどかなり中枢まで私達の情報知ってるぽいのよねあの猫ちゃん。だから……」

「そう、ですね。わかりました。近々山狩りしましょうか。何とか時間を作って」

「ん。その時は呼んでね。私も手伝うから。じゃ、次のお仕事行ってきまーす」

 チュッと投げキッスをして、リシィはどこかに跳び去っていった。


「あの()()さえなければ、もっと使いやすいのに……いえ、文句を言うのは失礼ですね。仕事をちゃんとして下さっているのですから」

 そう言ってから小さく溜息を吐き、ヒルデはその居城から姿を消した。


ありがとうございました。

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